- Amazon.co.jp ・本 (433ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003225462
作品紹介・あらすじ
自分は読者を楽しませる一介のストーリー・テラーだと言って憚らなかったモームが、唯一自分自身のために書いた精神的半自伝小説。不自由な足ゆえに劣等感に苛まれ続けるフィリップに、自らの精神形成を託して描いた人生遍歴の物語。新訳。
感想・レビュー・書評
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「そういうときにはこれ読めばいい」
そう薦められて読み始めたものの、そういうときってどういうときだったのかあんまり覚えてはないです。
モームさんの自伝だそうです。
上巻では、幼少時に両親に先立たれ国教会神父のおじにお世話になる。不自由な足にコンプレックスを抱えながら進学し、留学する中で友人に感化される。2つめの留学地フランスでは絵の勉強をするがそこで出会った詩人と会話を重ね・・・
みたいな流れで話が進んでいきます。
なんか見栄とか才能とか優越感とか裏切りとかすぐ共感してしまう身近にある「人」の描写ばっかりで読んでて飽き飽きしてきますが、別に人とかその程度のもんってことでしょうか。
最後の詩人の言葉の開き直ってる感がよかったです。
「人は自分の喜びのために行動し、たまたまそれが他人をも喜ばせれば、善行をなしたとみなされる。施しをすることに快楽を見出せば慈悲深い人となり、他人を助けるのに快楽を見出すなら公共心に富むと称賛される」
「快楽」を下位に、義務、慈悲、正直を上位に位置づけていると主人公を「捉えて」いるようです。
そういった価値の序列化にnoを突き付けるのなら自ら価値の序列化を肯定することになりますもんね。
価値観の多様性を重んじながら、価値観の多様性を重んじないことを否定するのと同じです。
とは言うものの、そういった「主張することによる主張の矛盾」も人間の中に自然に生まれてしまうもの。
「人間について、もっとも私を驚かせたのは、彼らが矛盾に満ちているということだ。首尾一貫した人間など、ただの一人もお目にかかったことがない。まったく相容れない諸性質が同一人物の中に存在し、それでいて、もっともらしい調和を生んでいるのには驚かざるをえない」
『サミングアップ』からの引用が巻末にありました。
そういうところに面白みを感じ、読者を楽しませることをモットーに作品を残したそうです。
上下巻のみと思ったら中巻もあるようでけっこう萎えましたが、また気が向いたら読んでみようと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
モームの半自伝的小説。岩波文庫版は上・中・下の三巻。
そっくりそのまま彼の人生をなぞったものではなく、
モームに似た境遇の少年の話、として読むのがいいのかな、と思う。
裕福な家庭に生まれたが、両親との死別により
イギリスの牧師館に引き取られることになった少年フィリップ。
叔父はカチコチの牧師。
叔母と狭い世界の中で、つましく面白みのない生活を送っている。
この牧師館の生活の描写の丁寧なこと。
華やかなことはなにもなく、心が浮き立つようなこともない。
慣習と信仰と頑固でできた日々の暮らしが、
面々と綴られていて、その精細さにモームの筆力を感じる。
後に文芸、芸術の世界に身を投じるようなフィリップにとって
この閉ざされた環境がどんなものであったか。
学校に進むも、内気で感受性の高いフィリップは落ち着くことができない。
好意を持っている学友との付き合い、先生とのやり取りが
客観的な振り返りを交えて、淡々と積み重ねられていく。
自意識が強く、深く考え、
ともすぎれば考え過ぎるフィリップの思考を辿るのは少しほろ苦いが、
留学、職業見習い、そしてまた留学と
人生のかじ取りを進めていくにつれ、
彼の揺れる心を追い続けたくなる。
モームの人物描写が一級なので、
魅力的な人間もそうでない人間も非常に興味深い存在となるのが面白い。 -
関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB00120293 -
金大生のための読書案内で展示していた図書です。
▼先生の推薦文はこちら
https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18354
▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BA53849427 -
読んでいるこちらが恥ずかしくなるほど、主人公に重ね合わせたモーム自身の人物像が浮かび上がってくる小説。内面にある葛藤、矛盾、嫌悪…。そうした人間の機微が細やかに描写され、主人公フィリップと共に幼年期から青年期を歩んでいるような感覚になる。
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メモしてた文章をなんとなく放出↓↓
これ下巻まで読んだら上巻の記憶なくなりそうなので中巻を経て上巻の感想を。
上巻は、読むのに時間がかかった。
対象人物の表記がコロコロ変わるから最初めちゃくちゃ混乱した。
(例えば同じ人のことを次の文では彼とか人名とか役職で表記する)
でもそのおかげで客観的に読めたみたいで、主人公に同感する訳でもなく終始なんだか得も言われぬ感情で読んだ。人の容姿についての表現が詳しすぎるくらい詳しい。 -
教養小説だが、綺麗事ではない皮肉まじりな視点で人や物事を見つめ表現しているのがとても好きだ。次郎物語や車輪の下はいい本だと思うが、親や教師がなって欲しい人物像を投影している感じがして好きになれなかった。
上巻ではフィリップの生い立ちや目指すものが人に影響はされて聖職者から会計士、画家へと移り変わっていくことが描かれている。やっぱりクロンショーとの出会いが大きいと思う。「人間は人生でたったひとつー自己の快楽、それだけを求めているのだ」という言葉を否定しながらも感情を強く揺さぶられている。 -
総合研究大学院大学長 長谷川眞理子氏
いくつもの人生を経験
2021/4/3付日本経済新聞 朝刊
自然が大好きな子どもだった。
3歳から数年間、和歌山県紀伊田辺の祖父母の家で暮らしました。海と川と裏山には、トンボや貝、イソギンチャクといった色々な生き物が当たり前のようにたくさんいて、あの自然の素晴らしさが私の原風景です。
小学校に入る前に東京に戻りました。少年少女世界文学全集が定期的に家に届くようになり、小学4年生のとき面白くてなめるように何度も読んだのが『ドリトル先生航海記』です。
ドリトル先生はご存じ動物の言葉が話せる博物学者。行方不明になった世界一の博物学者を探しに仲間と共に航海に出ます。とにかくワクワクし、生き物への興味をかき立てられました。
博物学者のような職業は今はないですが、昔は西欧文明にとって「前人未踏」の地が世界中にあった。探検に行き、動植物を記載・記述し、採集して持ち帰る。その生活が垣間見えました。商売とは無縁で紳士然として大きな家に住んでおり、子供心に憧れました。
中学に入ると大人の世界文学全集を買ってもらい、アーネスト・ヘミングウェイやグレアム・グリーンの作品に出合いました。ヘミングウェイは最初に『武器よさらば』そして『誰がために鐘は鳴る』。『日はまた昇る』は大学生になってからですが、あの主人公たちの大人の人間関係はよくわからなかった。これがヨーロッパの大人なんだろうという感じですかね。
多感な時期にはまったのがサマセット・モームの『人間の絆』。主人公が成長過程で葛藤する姿が我が事のようにうれしく、楽しく、涙しました。
チャールズ・ダーウィンの『種の起源』『ビーグル号航海記』は最初の頃は全然理解できなかった。すごいことを言っているな、とは思いましたが。
彼の著作に真剣に向き合ったのは後に同僚らと訳を手がけるようになった時です。ダーウィン流のものの書き方なのですが、文章がくどい、まだるっこしい。すぐ結論を言わず、可能性について、ああだ、こうだという。
キリスト教の人間観が全世界を支配する時代に挑んだ科学者ですから、慎重居士になるのも無理ないです。
28歳の時、博士課程を休学し、国際協力事業団(現国際協力機構、JICA)の専門員としてアフリカに行く。
歩いてキャンプをしながら野生動物を見る国立公園を日本の援助で造る計画に参加しました。場所はタンザニアのタンガニーカ湖のほとり。私からするとまさに「前人未踏」の地です。
文化の全く違う、しかも年上の人を使ってプロジェクトを遂行しなければなりません。日本からは予定通り進めよとプレッシャーがかかる。くじけそうなとき、心の支えになったのが、「アラビアのロレンス」ことT・E・ロレンスが書いた『知恵の七柱』です。
第1次大戦下、ロレンスはアラブ軍を率いて立ち上がる。が、命じても部下たちは思うようには動いてくれません。英国の国益とアラブの国益との板挟みにあいながら、自分がちゃんとやり遂げねばならぬという強い意志がとても共感でき、参考になりました。
研究職のポストがなかった。
東大理学部の教授から「女は東大で教授になれない」と言われたことがあります。研究を続けようと他大学でポストを探しましたが見つかりません。
1990年から専修大学法学部で科学を教えることが決まり、最初に手にした本がシモーヌ・ヴェーユの『ヴェーユの哲学講義』。哲学を大学で教えなければならない理由についてのメッセージが強烈でした。若い頃に哲学を学ぶのは、当たり前のことに疑問を持ち、批判精神を養うためである。哲学を科学に置き換えられます。科学の知識ではなく、この思考法を身につけてもらおうと決めました。
学生に科学リテラシーがないと文句を言いながら、自分に社会リテラシーがないことに気づきました。『文明の衝突』(サミュエル・ハンチントン著)や『レクサスとオリーブの木』(トーマス・フリードマン著)などを読むようになり、読書の幅が広がりました。
本を読むと想像する力のおかげでいくつもの人生を経験できます。若い人にはぜひ読書をしてもらいたいです。
(聞き手は編集委員 矢野寿彦)
【私の読書遍歴】
《座右の書》
『ドリトル先生航海記』(ヒュー・ロフティング著、井伏鱒二訳、岩波少年文庫)
《その他愛読書》
(1)『日はまた昇る』(アーネスト・ヘミングウェイ著、高見浩訳、新潮文庫)
(2)『情事の終り』(グレアム・グリーン著、上岡伸雄訳、新潮文庫)
(3)『人間の絆』(全3巻、サマセット・モーム著、行方昭夫訳、岩波文庫)
(4)『種の起源』(上・下、チャールズ・ダーウィン著、渡辺政隆訳、光文社古典新訳文庫)
(5)『人間の由来』(上・下、ダーウィン著、講談社学術文庫)は自身が訳した
(6)『知恵の七柱』(全3巻、T・E・ロレンス著、柏倉俊三訳、平凡社)。現在は全5巻の完全版も
(7)『指輪物語』(新版、全10巻、J・R・R・トールキン著、瀬田貞二ほか訳、評論社文庫)
(8)『ヴェーユの哲学講義』(シモーヌ・ヴェーユ著、渡辺一民ほか訳、ちくま学芸文庫)
はせがわ・まりこ 1952年東京生まれ。理学博士。専門は行動生態学と自然分類学。イェール大客員准教授や早大教授を歴任し、2017年から現職。 -
主人公フィリップ・ケアリが9歳から21歳までのたどる道。
9歳のフィリップは父母を相次いで亡くし、伯父夫婦に引き取られることに。フィリップは生まれつき左足を引きずらなくては歩けない障害がある。伯母は優しかったが、牧師の伯父は真面目ではあるが面白みのない人間。牧師館で暮らす日々。
寄宿学校に行くようになるがはじめはいじめられる。しだいに勉強も面白くなり、良い教師に会い、友人もでき少年時代が過ぎる。大学に進む年頃になって、伯父の勧める聖職にはつきたくなく、ドイツ留学を望み紆余曲折の末、ハイデルベルクに行く。ドイツ留学を終えて、休暇には年上の女性と付き合う青春。その後ロンドンに出て事務弁護士の見習いになることに。しかしそれも一年で辞め、今度は画家になろうとあこがれのパリに行き画塾に入り、芸術論を戦わせる。
あらすじを言うと単調のようであるが、モームの筆運びと構成はうまい。「人間は絆で創られる」と次第にわかってくる。何がなし懐かしい響きの成長記。行方昭夫氏の翻訳も2001年と新しいし、うるさい注釈が全くないのがいい。ま、こちらの知識不足で知らない有名な画家や作家・音楽家などあるが、わからなくても大した影響はない。
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実はわたくしこの小説再読なのだが、内容は全く忘れている。結婚したばかり、姑とお勧め本を交換しあって借りた本だった。ちなみにわたしはデュマの『モンテクリスト伯』を貸した。『人間・・・』は3冊、『モンテ・・・』はたしか7冊あった。「読むのに大変だった」と文句を言われたのを覚えている。たしかにいくら「手に汗を握るおもしろさ」と思ってもね、本の好みのジャンルが違えばね。わたしも多分「お説教くさい」と思って内容を忘れてしまったのかもしれない(笑)今にして思えばそんなことはない。 -
ミルドレッドに逢いたくて再読中。