- Amazon.co.jp ・本 (452ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003225486
感想・レビュー・書評
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大好きなモームの「人間の絆」、
今度は翻訳者を変えて、岩波文庫版で読んでみた。
オースティンの「自負と偏見」(河出版は「高慢と偏見」)の時も
思ったけど、読み比べると中野氏訳は読みやすいけれど会話部分などの
細かいところが省略されているような印象。
「自負と偏見」の翻訳あと書きで中野氏自身も
雰囲気重視で訳したみたいな事を書いていたような…
より細かいところまでちゃんと知りたい私の様な人には
岩波文庫版がお勧め。
私はある事をきっかけに「好き」と「嫌い」の感情の源は
同じではないか?と独自に研究(?)をしていて、
この本の主人公フィリップ君とミルドレッドをみていると
その証拠を掴んだという気持ちになる。
ノラさんとのことは非常に残念。
けれどフィリップ君はちょいと虫がよすぎるかな。
自分の才能を見極めると言うシーンが数々出てくるんだけど、
身につまされる事多々ある!
とくに今回はヘイウォードのこと、
哀れだけれど、こういうことを自分もしてるなあ。
今回も読みながら
「世界が認める名作がこんなに本当に面白くて良いのかな?」と
不安になった。
つまり私には「名作と呼ばれているものはつまらないもの、
それを苦労して読んでこそ意味がある」という固定概念がある、
と言う事がわかって面白かった。
岩波文庫版の表紙
上巻→牧師館の写真
中巻→エル・グレコの絵
下巻→ペルシャ絨毯の写真
これをみるとこの部分の担当の方の
モームへの、そして読者への優しい愛情を感じる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
人間の絆っていうタイトルの先入観みたいなのがあったけど、下巻に至る頃にはなんとなく意味がわかってきて、わたしの先入観のような薄っぺらいもんじゃないとひしひしと理解して、もう最後の方は薄ら笑いを浮かべながら読んでた。106章目が記憶に残ってる、それが最後の章の方にも繋がってきて、批判はあったと本人が言ってたみたいやけど最後の終わり方が好き。本人の序文(訳者による配慮であとがきに持ってこられている)と、訳者後書きがかなり面白くて、長かったけど最初からここまで読み切って良かったと嬉しい気持ちで読み終えた!
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サリンジャーの『ライ麦』に、ホールデンが自分がどんな本を読んでいるのかを語っている箇所が出てくる。その中で、作家には作品を読み終わったあとで電話を掛けたくなる作家とそうでない作家とがいるという話をしている。ホールデンによれば、『人間の絆』はなかなか悪くない本だが、サマセット・モームに電話を掛ける気にはどうもなれないらしい。トマス・ハーディーやリング・ラードナーには電話を掛けたくて、モームには掛けたくないと判断する基準がどこにあるかは分からないが、分からないなりに妙に印象に残る箇所だ。
モームは『人間の絆』の新版を出す際に序文を付していて、1934年に書かれたその文章は岩波文庫では「あとがき」として最後に持ってきてある。その中でこの本の成立事情や、出版当時の読者からの反応について語られており、締めの言葉としてアメリカの一読者からの手紙が紹介してある。モームが序文を書く前日に届いたその手紙は16歳の少年からのファンレターで、差出人のイニシャルはJ・Sとなっている。
この賛辞に溢れた手紙の差出人がもしもJ・D・サリンジャーだったら、どんなに素敵なことだろう。そんな淡い期待をついつい抱いてしまう。ところが調べてみるとサリンジャーの生まれは1919年1月1日とのことで、どう頑張ってもこの手紙が書かれたときには15歳にすぎぬのだった。残念。
ホールデンはモームに電話は掛けたくないかもしれないが、手紙だったら書くんじゃないかな。そんな妄想が代わりに湧いて出てくるのだった。 -
人生に意味はない。
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これまで読んだ小説の中で最高の小説。