ダブリンの市民 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (459ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003225516

作品紹介・あらすじ

アイルランド、そしてダブリンに生涯こだわり続けたジョイス(一八八二‐一九四一)。「細心卑小な文体」を用いて、閉塞的なダブリンの市民階層の麻痺的な生態を描いた十五篇。『ユリシーズ』等につながる、ジョイス文学の展開の端緒をなす初期短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • この精神的閉塞感。救いの無い人々の物語が
    胸を打った。

    ジョイスの4部作を読むには、アイルランドの哀しい歴史を
    まず識らねばならない。

    そして。ダブリンを舞台にこの4部作を執筆したジョイス自身の歴史
    も識らねばならない。(ジョイスのダブリン時代は生涯において決して
    長くない)

    イギリスに支配され続けた歴史。
    イギリス系富裕層のプロテスタントに迫害され続けた中下層階級の
    カトリック系アイルランド人に歴史。

    1800年代中頃のじゃがいも飢饉によって、人口が半減し
    仕事、結婚すら安易で無くなってしまった歴史。

    第一公用語『アイルランド語』が衰退し、実質、支配国であった
    イギリス『英語』が支配した歴史。

    独立運動、内戦、現在もイギリス自治権下北アイルランドとの関係。

    ジョイスの描く『ダブリン市民』達は、『麻痺』という名の無気力と
    閉塞感の中、日々を生きている。

    登場人物達の関係や、言動、行動はそのまま
    支配国イギリス対被支配国アイルランドの関係でもあり

    時にプロテスタントとカトリックの関係を内包しつつ描かれていく。

    市民達の名前や、場所、言動が尽く哀しいアイルランド=ダブリン
    の歴史を投影する手法は、流石!と思う反面、その歴史を深く
    読み込まなければ決して理解出来ないと感じた。

  • 19世紀末、長期産業不振の中のダブリンの人々の日常を描いた話。
    皆鬱屈を抱え込んでいて、無気力感・閉塞感に満ちている。
    この作品を象徴する「麻痺」という言葉は正に的を得ている。
    ここでいう「麻痺」は、主にかつてイギリスの植民地であったという政治的支配、カトリック支配(及び父権主義)が招く無気力状態のことを指す。
    歪みに目を背けた現実逃避もどこかぎこちなさを感じるし、どこか拘束されて枠に捕らわれているように思えた。 
    著者が執筆当時20代であったというのは驚きだった。

  • 結構評価の難しい作品。
    この作品の設定・背景(宗教、アイルランドの歴史などなど)に関する基本的教養がないとおそらくこの作品集の真価を理解するのは十全でないことはよくわかります(つまりは、当方その素養が無いということは自認しております)。
    その上で、市井の人々の鬱屈した感情をどのように飲み込むのか、これにより印象が随分変わるんだろうな、という気がします。
    個人的にはぎりぎりの暴発寸前(あるいはほんの少しの発火)を描いた幾つかの短編にはぐっとくるものがありましたが、若干翻訳物のせいなのか乗り切れない部分あり。そういえばこの作家の本丸『ユリシーズ』もそのような感覚を受けた記憶だけが残っておりまする。

  • 中上健次が熊野を舞台にしたように、ジョイスはダブリンを舞台にその土地にある呪縛のようなものを、その大地を踏んでいる人間によって表しているのかと思いながら読んでいた。

    しかし解説を読んで改めざるを得ないと思いました。まだまだ読めていないな。

    なるほどアイルランドという国のダブリンという土地(空間)だけではなく。歴史(時間)にさえ言及しているのかと。
    それならばこれはもはや聖書のような暗示の物語として読まなければこの作品の醍醐味を味わうことはできないし、この後に続く作品群は理解できないだろう。
    やたら説明が少ないなと思てたら随所にメタファーが仕込まれていて、そういうことかいなと膝を打ちました。
    また読んで、残り3作も絶対に読みたいと思います。

  • 伊集院静が好きな一冊と「旅人よ どの街で死ぬか」で挙げていたので読んだけれど、難しかった。解説を読んで、そういうことだったの?って感じだ。それに時代背景を知らないのでやっぱりよくわからないままだけど。オイラが感じたのは、ダブリンの人たちは経済的に苦しい上に慣習や宗教に縛られて窮屈な生活をしていること、男のなかに酒に逃れて粗暴な者もいる、ってこと。なんかどの短編も痛々しかったな。
    「ユリシーズ」ってタイトルだけは知っていたけど、ジョイスの作品だったんだな。この調子じゃ、とても読み切れる自信がない。

  • いつか「ユリシーズ」を読むときのために。うーん、陰鬱だなあ。難しいなあ。さらっと読めば単なる日常の一場面を切り取っただけという感じなんだが、いざ解説を参照するとそう単純じゃないことがわかる。ちゃんと読み込むには相応の理解力がないときついな。
    Edit

  •  『ダブリンの市民』は15篇からなる短編集である。訳者である結城英雄氏の解説によると、社会の4つの世代を描いているという。「少年期」「青春期」「社会生活」「死者たち」の4つだそうだ。

     そうは言っても最初の作品で、少年と大の親友だったという老牧師が死んだ。いきなり「少年期」の話に「死者たち」の一人が登場する。でもここでは少年を主体に、老牧師との関わりを述べながらダブリンの街を紹介する導入部分である。ダブリンがどういう街なのか読者に判るよう配慮しながら街の景色や背景を描いているのだろう。

     ジョイスの初期の短編集だそうだ。タイトルが『ダブリンの市民』となっているが、原題は「Dubliners」であり、ジョイスがダブリンの街にこだわった作品集であることがわかる。読んでいて、まるでダブリンに暮らしているような錯覚に陥りそうになる。また登場人物たちとは旧知の仲間であるような気分にさせられる。背景にダブリンの街並みが見えてくるようだ。

     書かれているダブリンの街はおよそ百年前のものだが、古さは感じられない。ダブリンを訪れてみたい気持ちになる。アイルランドという国に興味がわいてきた。

  • ◆出版100周年。◆ダブリンという街に住む人々の群像。まとわりつく古き良き故国。学校・職業・政党・宗派 …。何につけても存在する「育ち」の階層によってがんじがらめにされる人々。押しつぶされそうになり、自尊心と自意識は閉ざされた自己の内にたぎる。麻痺した者への侮蔑と麻痺していく自己への不安。◆各断片の主体と相似した人物が、他の断片にも登場・配置される。老若男女のかすかな声が重なり合い、荘厳な和声音楽のよう。やがて全ての主体はモブに吸収されていく。あとはただ、ダブリンがあるだけ。
    ◆LIKE: Eveline/A Little Cloud/Clay/A Painful Case/A Mother/The Dead
    ◆岩波文庫結城訳・旧新潮文庫安藤訳・新潮文庫柳瀬訳3冊読み比べ。
    ◆3冊ともに読み応えがあったが、初読におすすめできるのは岩波結城訳。読みにくくなく、解題・解説が親切。

  • (後で書きます。「死者たち」の最後でそれまでの全てを引っくり返した感じ)

  • ダブリン市民の生活の音やリズム、匂いが伝わってくるお話、15編

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