文芸批評論 (岩波文庫 赤 258-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003225813

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  • エリオットは批評において批評家の個性より伝統の意義を重視する。だがそれは必ずしも無前提に伝統を賛美するものではない。過去は不変の実体としてそこにあるのではなく、過去を見つめる現在の関心に照らされて初めてその姿を顕わにする。したがって「現在が過去によって導かれると同じように過去が現在によって変更される。」

    ここには一種の循環があるのだが、現実の自己と他者がそうであるように、現在も過去と対話しながら、他者としての過去を問い直し、同時に自己である現在を新たに形作る。そこに批評精神があり、真の創造がある。過去(他者)と切り離された真空空間における個性などというもの自体が抽象の産物なのだ。

    だからエリオットは個性を賛美したロマン主義の意義を認めないし、個性が捉えた印象を「あるがままに表現する」ことを批評の使命と考えた印象批評(例えばウォルター・ペイター『 ルネサンス (中公クラシックス) 』)を否定する。「詩は情緒の解放ではなくて情緒からの逃避であり、個性の表現ではなくて個性からの解放である。」逆説的な言い草だが、伝統との対話の中で自己を問い直す者だけが独りよがりで狭窄な自己の限界を超えられるということだろう。

    だがエリオットはすぐ後でこう付け加えてもいる。「個性と情緒を持っている人たちだけが個性と情緒からのがれたいとはどういう意味かわかるのだ。」伝統の重圧を感じることができるのも個性である。その重圧と格闘する中で抽象ではない真の個性が磨かれる。そして伝統もまた新たな生命力を獲得する。

  •  
    ── エリオット/矢本 貞幹・訳《文芸批評論 196201‥ 岩波文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4003225813
     
     Ex libris Awa Library;諸誌規格例 1974‥‥ aedlib
    (20161012)
     

  • 文学作品は、ひとりの芸術家の中で純粋培養されて出来上がるものではなく、その芸術家がそれまでに読み、影響を受けてきた様々な作品や芸術家との関係性の中で形成されていくものであると、筆者は述べている。

    歴史や文化の影響といったものの重要性ももちろんだが、一人ひとりの芸術家が「文芸評論家」であるということが、芸術創作の根底にあるという点が、印象深かった。

    人工知能で文学作品を生み出すといった試みがなされる時代になってきたからこそ、このような形で芸術の定義づけを行ってみることの意味合いが新しく生まれてきているように思う。

  • 切れ味鋭い理論。「伝統と個人の才能」は全芸術家必読だとおもう。おごらないためにも。

  • 最初読んだときはファシズム的側面が気になったが、何度か読んでみると価値を認めざるとえないと言うか、けっこう正しいこと言ってるのではないかと思えてきた。しかし、難しい。エリオットに関しては愛憎半ばする感情を抱いている。

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著者プロフィール

1888年ー1965年 アメリカ・セントルイスに生まれ、1928年、イギリスに帰化。『荒地』を発表、詩人としてゆるぎない名声を確立。1948年、ノーベル賞受賞。

「2015年 『キャッツ ポッサムおじさんの実用猫百科』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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