大転落 (岩波文庫 赤 277-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003227718

作品紹介・あらすじ

「あなたも学校の先生におなりで。素行不良で退学の学生さんは大半がそうですから」。学友の乱痴気パーティに巻きこまれ、あげくに放校処分をくらってしまったポール・ペニーフェザー君。わけ知り顔の門番の言葉におくられ、教職斡旋所の門をくぐるが…。かくして我らが主人公の多事多難な人生航路が始まる。絶妙のユーモア小説。

感想・レビュー・書評

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  • 突然の不運に見舞われて、オックスフォードのスコーン・カレッジを放校されてしまった聖職者見習いのポール・ペニーフェザーくん。ああ、<母校よ永遠に>。
    しょーがないのでナラバ城のパブリック・スクール教員補佐になった。この時代教員の仕事は生徒を大人しくさせること!なので未経験のポールくんも「嘘と分別の匙加減」で乗り切ったのね。オルガン弾いたことないのに「得意ですよ。…あ、今日は指を怪我しちゃいました」で問題ない 笑
    こんな学校なので集まる人々も風変わり。学長のフェイガン博士には二人の娘のフロッシーとディンギー(ダイアナ)がいる。先輩教員は、赤毛で義足のクライムズと、聖職者学生から信仰心に疑問を持ったブレンダーガスト。そして執事のフィルブリックは相手により全く違う自分の過去話をでっちあげるようなやつ。

    物語としては、権威に対する皮肉というか、最初は悪ノリにちょっとついていけなかったんだが、ポールくんが「大転落」しながらもどこか他人事で傷ついていないので、その書き方はだんだん面白くなっていった。



    ※※※以下ネタバレしています。未読の方はご注意ください。※※※



    第一部はナラバ男子校のドタドタ劇。スポーツ大会のスタートピストルが生徒の足をかすめたんだとか(学校も保護者もサラッと流したが、大事件じゃないのか?^^;)、生徒と先生と執事の間でおちょくり合いが日常的に行われている。
    大人の間の男女関係もいい加減だ。クライムズは故郷に妻がいるんだがフェイガン博士の長女フロッシーとも婚約しているし、執事のフィルブリックはディンギーと婚約しているらしい??さらに町のパブに行けば駅長が自分の妹を斡旋しようとしてくるような地域だ。

    人の死もあっさり書かれる。生徒の一人が死んだり、重婚結婚式を行った直後のクライムズが海に消えて<さらば、パブリック・スクール卒業生>ってことになる。

    第二部では、ポールくんは仲良くなった生徒ベスト=チェストウィンド少年の家に招待され、母である美人未亡人(まだ30代前半?)のマーゴットに恋して結婚申し込んだ。そしたらマーゴットが「確かめたいことがあるの」と寝台に入ってきてそのまま婚約成立。
    しかしこのマーゴット、貴族未亡人でお金もあるしお店の経営もしているし上流階級男性たちから求愛されていて…、読者からみたら「その仕事女衒屋だよね?」って分かる、しっかりしてポールくん!
    案の定、マーゴットの代理で女の子の面倒を見たポールくんは、結婚式当日に売春斡旋でしょっぴかれてしまいました。。

    でもね、売春斡旋に就いてるのは確かにマーゴットなんだけど、彼女のような人間は刑務所に入ることは人間の運命として「不可能」なんですよ。それはポールくんのような人間の役割なんだ。ポールくんにとってショックだったのは、マーゴットに見限られそうだからじゃなくて、そうなったことに自分があまり傷つかなかったことなんだ。

    第三部は刑務所のポールくん。刑務所には死んだはずのクライムズが<死んではいなかった>うえに重婚がバレて入れられてたり、詐欺師と判明したフィルブリックが刑務所長の弟という特権囚人になってたり、ブレンダーガストは刑務所付きの教戒師になっていて、ナラバ学校のみなさんまた集合。
    刑務所の独房が案外気に入っちゃったポールくん。刑務所生活というのは、イギリスのパブリック・スクールに通っていた者にとってはくつろぎを感じて、騒々しいスラム界隈で育った人間にはとっては魂が壊れる場所なのだ。

    しかしそんなポールくんもいつまでも刑務所にいるわけにはいかない。マーゴットが有力政治家との結婚を条件に、ポールくんの死を偽装して自由にしてくれた。<死んではいなかった>ポールくんは名前を変えて新しい生活を始めることに。つまり<振り出しに戻る>ことにしてオックスフォードのスコーン・カレッジに再入学したんだ。

    こうしてポールくんは話の中心ではあるけれど、あくまでもこの物語をウロチョロする影の薄い人物にすぎない。主人公になんかなれるわきゃないわけでさ(本当にこう書いてある^^;)、唯一興味を引くのは、その影が報告する突拍子もない事件の連続性のため。ポールくん本人は肉体を忘れてきちゃったような人物だから雲隠れしなきゃいけないんだよ。


    全体的に「皮肉なユーモア」というのか、ポールくんを不運が襲いまくり本人の立ち回りも悪すぎるんだが、当人は濃い人間や出来事の間を雲隠れしながら本人なりに生きていっているので、立場は『大転落』したんだろうけれども、気持ちとしては転落した感じではない。
    物語としては、ちょっと読みづらさもあったり、ユーモラスな書き方とはいえナラバ城パブリック・スクールの上流階級者たちの表面的さがあんまり笑えなかったなー(かといって腹が立つわけでもない)という物語への入りづらさがあったので、面白いかと言うと…、微妙…(-_-;)

  • 楽しいー!英国ユーモア文学の血が脈々と流れる、ポール・ペニーフェザー青年の受難の記。とばっちりでオクスフォードを退学になるところから始まり、人外魔境の如き寄宿学校に就職すれば狂った教師や保護者に振り回され、大金持ちの未亡人と婚約したかと思えば急転直下。力は無くとも終始鷹揚なペニーフェザーくんと、やりすぎないドタバタぶりが心地よい。建築家オットー・ジレーヌスがまた傑作。人を食ったような口調でなかなか含蓄のある助言をペニーフェザーくんに与えてくれる。

    1928年刊の、イーヴリン・ウォーの処女作。吉田健一によれば、19世紀英国を支えた近代的秩序が大戦で崩壊し、この戦間期に新進作家がスタイルを求めるなら旧社会を諷刺するしかなかった、という時代である。しかし出鱈目なパブリック・スクールもまるきり信用ならない上流階級の人間も痛烈に暴かれているようでいて、筆致はどこまでも清新さを失わない。デビュー作たる所以だろう。

  • 岩波文庫2020復刊本。主人公ポールはまじめで勤勉な若者なのに運が悪いでは済まされない転落劇。でも根が明るい性格なんだろうなぁ、淡々と現実を受け入れて生活する。主人公より主人公らしい個性的な面々の物語に笑いながらもポールの性格の良さには、このような心持ちで人を恨まず生きていきたいと憧れの気持ちが残ったな。復刊してくれてよかった。

  • これはいいですね。どんどん転落していく主人公が決して感情的になったり運命を呪ったりせずにドライに、どちらかというとポジティブに受け入れて生き抜いて行く姿勢が表現されていて、なんというか細かいことは気にするな的な前向きなところがいいです。毒づくのは冒頭のプロローグの時だけでそれ以降は本当に淡々としている。まあ見習べき生き方というのではないけれど、けっこうなんとかなるもんだという考え方には共感できます。

  • 1928年発表の処女小説で、原題は「The Decline and Fall」。オックスフォードの学生であるポール・ペニフェザーが、学生たちのドンチャン騒ぎに巻き込まれて退学させられ、補助教員として地方の学校へ赴任することから思いもかけない波乱が待ち受ける。ブラックさはあまり強くないが、変てこな人物がたくさん登場するドタバタ喜劇。

  • 実写化すると意外と面白いのではないかと思った。
    淡々と目の前の事象を受け入れるペニフェザーくんは大物なのか何なのか。

  • 登場人物が皆、ボケっぱなしでツッコミがないから読むのに疲れた(笑

    勝手な想像だけど、物語の中盤以降、作者は書くのに飽きたんじゃなかろうか?なんとなく。

    会話がいちいち面白いので、暫くしたら再読したい。或いは福武書店版の「ポール・ペニフェザーの冒険」を読みたい。

  • ポール・ペニフェザー の冒険という題名で、違う訳者の作品も出版されているらしい。ペニフェザー君良かったです。なかなか読みづらいけどポールくんのどんな目にあっても、飄々としてる感じがいかしていました。

  •  あっけらかんとした、上品な風刺とユーモアが見事にキマるイーヴリン・ウォーの処女作。まあくだらないお話なんですが、最後の最後、オットー・ジレーヌス教授というぶっ飛んだ天才が語る人生訓は見事。

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著者プロフィール

Evelyn Waugh(1903-1966)
イギリスの著名な出版社の社主で、文芸評論家でもあったアーサー・ウォーの次男として生まれ(長兄アレックも作家)、オクスフォード大学中退後、文筆生活に入る。デビュー作『衰亡記』(1928)をはじめ、上流階級の青年たちの虚無的な生活や風俗を、皮肉なユーモアをきかせながら巧みな文体で描いた数々の小説で、第1次大戦後の英国文壇の寵児となる。1930年にカトリックに改宗した後は、諷刺の裏の伝統讃美が強まった。

著作は、代表作『黒いいたずら』(1932)、ベストセラーとなった名作『ブライヅヘッドふたたび』(1945)、T・リチャードソン監督によって映画化された『ザ・ラヴド・ワン』(1948)、戦争小説3部作『名誉の剣』(1952-61)など。

「1996年 『一握の塵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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