愛されたもの (岩波文庫)

制作 : 中村 健二  出淵 博 
  • 岩波書店
3.93
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本棚登録 : 73
レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003227749

作品紹介・あらすじ

高度な遺体修復術に、どんな死に方でもお任せください-ハリウッドの葬儀産業を舞台に、青年詩人・遺体化粧師・修復師が繰り広げる"愛"の物語。「神経のタフな読者へ」とウォー(1903‐66)が贈る「死を忘れることなかれ」は、古典と暗喩を巧みに織り込み、鋭い諷刺の奥に深い余韻を残す。

感想・レビュー・書評

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  • イギリス人のデニスは詩人として本国でそこそこ評価されていてハリウッドに出てきたものの、ぱっとせず映画会社をクビになる。そこで彼はペット葬儀師として働き始めるのだが、英国人社会からは卑しい職業と顰蹙を買っていた。同じくイギリスの出身で、映画会社を解雇されて自殺したサー・フランシスの葬儀をきっかけに、デニスは遺体化粧師エイミーと親しくなるが…。アメリカ式の過剰な葬儀ビジネスに対する皮肉が痛烈。最初はデニスの人でなしぶりを笑っていられたが、読後はサイコパスにしか見えなくなってくる。ウォーの露悪的な所は嫌いじゃないけど「ヒッチコック劇場」的オチに笑っていいのか、胸クソと憤慨すべきか悩んでしまった。対アメリカ版オリエンタリズムがいやらしいというか「いけず」というか。副題に「英米悲劇」とつけるセンスがまた黒い(1948)

  • 高度な遺体修復術に、どんな死に方でもお任せください――ハリウッドの葬儀産業を舞台に、詩人の卵・遺体化粧師・修復師が繰り広げる〈愛〉の物語。「神経のタフな読者へ」とウォー(1903-66)が贈る「死を忘ることなかれ(メメント・モリ)」は、暗喩と引用を巧みに織り込み、鋭いユーモアの奥に深い余韻を残す。

  • イーヴリン・ウォー の作品を読める幸せ!

    主要登場人物のひとりである詩人でペット葬儀社に勤務するデニス・バーロー。彼の残虐な愛(というか愛していない)と、“人の死”を極上にセレブレイトする「囁きの森」の遺体修復師ジョイボイ氏の見せかけだけの愛、そして、哀れな化粧師エイミー・サナトジェナスの未熟な愛——
    主要登場人物三人の愛は、果たしてどこに向けられたものだったのか?
    『愛されたもの』とはとんでもなく皮肉なタイトルなんじゃないだろうか?
    あまりに救いのない物語に対して、光景や場面描写の美しさがかえってグロテスクに思えてくる。

    ペットと人間の違いこそあれ対照的な二つの葬儀社の、そこで働く従業員の人となりを通じて浮き彫りになるのは、当時の英米の社会構造の対比? 宗教的な意味合いについては、残念ながらあまりよく理解できないけれど……。

    「メメント・モリ」が、上皮を一枚ひっぺがされることと同義とは思わなんだ(笑)

  • 岩波文庫 080/I 
    資料ID 2013200037

  • 葬儀屋の女性に英国人の青年が恋をし、そこからスラップスティックな展開が繰り広げられる。登場するのは死を扱う職業の人物ばかり、且つ作中で亡くなる人や動物もいるのだが、そこを笑いに変えてしまうユーモアはいかにも英国である。例えば、ヒロインの女性の名前は"Thanatogenos"。これはギリシア語で「死」を意味する"Thanatos"からとっているようであり、作者の遊び心が感じられる。
    原題は"The Loved One: An Anglo-American Tragedy"であるが、"Tragedy"と"Comedy"の折衷である"Tragicomedy"のほうが適切かもしれない。
    ハリウッド映画の黄金期(スタジオ・システムが活発な時代、名作が大量生産された)の終焉の頃に書かれた作品で、アメリカの商業主義を痛烈に批判をする一方、そんなアメリカへの憧れも感じられる。解説によると英国のオリエンタリズムの対象が東洋からアメリカに移行したということらしい。
    アメリカ滞在の際、そこでの待遇に不満を持ったウォーのMGMへの違和感が1948年頃からのスタジオ・システムの終焉に影響した(?)と考えるのは深読みのしすぎかも知れない。(因みにこの作品の初出は1948年。)
    メメントモリというと、17世紀のフランドル絵画に頻出の骸骨を思い出すばかりである。

  • 葬儀屋の女性が壇蜜に脳内変換。黒い髪、赤い唇。

    光文社訳は親切丁寧ライトにわかりやすく、岩波の訳は上品で格調高い。岩波のほうが好み。

  • 原題は“The Loved One: An Anglo-American Tragedy”。イーヴリン・ウォーの新刊が出ると聞いていて脳内キープしていたら、ほぼ同時期に光文社古典新訳文庫からも発売されたのを知って驚いた。同じ作品がこれだけ近い期間にバージョン違いで発売されるというのは珍しいと思うので、どっちも読んでみたいとは思ったものの、とりあえず、順番としてまずこちらを手に取った。

    舞台はアメリカ。イギリスからアメリカへ渡って仕事をしている男性2人の会話から始まる。片方の、年上の男はそれまでそこそこ成功していたらしいが、年下のほうはそうでもないらしい。そもそも、当時、そこそこの身分のあるイギリス人がアメリカで働くということは「都落ち」に近いらしく、決して愉快な会話ではない。そんな会話が延々と続き、文庫の惹句などでぼんやりと情報を得ている読み手としては、どこで物語の本筋に持ってくるのか…と少々やきもきする。でも、ある瞬間でそこにすうっとつなげていく巧みさというか、展開を読ませない序盤は見事だと思う。

    皮肉に富んだ作品といわれるが、あちこちに地雷のようにまかれている(と思われる)皮肉にまったく気付かずに、ストーリーを追って読み進むだけでも面白い。主人公・デニスの出入りする業界というのはかなり特殊で、彼と接点を持つ数人も、特殊なキャラクターだと思う。デニスが詩人の経歴を持つため、キーツやテニスンなどを引用しながら進む、繊細な芸術家ともいえる職業人たちの繊細な感情のやりとり…と思いきや、その方向が徐々に狂ってきて「えええっ?」となり、「お前ら、そういうヤツか!」という黒さでくるんで一気に盛り上げてばさっと切るという、もう衝撃の作品ですよ、これ。いやあ、ひさびさにびっくりしたし、笑っちまったよ、あたしゃあ。

    訳については、出淵博氏の訳をできるだけ残した、中村健二氏による改訂ということで、クラシカルな文章運びだと思うけれど、決して読みにくくはない。訳注に少々ネタバレ感が漂うものがあるものの、それが呼び起こすイメージを知っていたほうがいい、という訳者さんの配慮であるから、そこは許容範囲かと。この感想を書いている時点で、光文社古典新訳文庫版をまだ読んではいないけれど、タイトル訳などの点からなんとなく、こちらのほうがいいのではないかと思っている。短い作品なので、原著を読んでみても面白いかな?と…ただし、私に根性があればの話。

  • 光文社古典新訳文庫からも同じものが『ご遺体』のタイトルで出ている。
    読み比べてどちらが好きかというと、岩波だなぁ。

  • 早川書房「ブラック・ユーモア選集」にあった『囁きの霊園』も復刊されないかな?

    岩波書店のPR
    「高度な遺体修復術に、どんな死に方でもお任せください――ハリウッドの葬儀産業を舞台に、詩人の卵・遺体化粧師・修復師が繰り広げる〈愛〉の物語。「神経のタフな読者へ」とウォー(1903-66)が贈る「死を忘ることなかれ(メメント・モリ)」は、暗喩と引用を巧みに織り込み、鋭いユーモアの奥に深い余韻を残す。」

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著者プロフィール

1903-1966年。ロンドン郊外のハムステッドに生まれる。オックスフォード大学では放蕩生活を送りながら学内文芸誌に関わる。大学中退後、画家を志すも断念。パブリック・スクール進学予備校の教師となる。22歳の時、自殺未遂。1928年、教師時代の体験を基にした『衰亡記』を発表。『卑しい肉体』(1930)では第一次大戦後の「陽気な若者たち」を取り上げ注目される。同年、カトリックに改宗。『黒いいたずら』(32)、『一握の塵』(34)、『スクープ』(38)など、辛辣な諷刺とユーモアに溢れた作品で人気を博す。作風を一変、貴族の生活を描いた『ブライズヘッド再訪』(45)はアメリカでベストセラーになる。戦後の代表作に第二次大戦を描いた『戦士』『士官と紳士』『無条件降伏』の『名誉の剣』三部作(52-61。合本改訂版、65)がある。

「2016年 『イーヴリン・ウォー傑作短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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