灯台へ (岩波文庫)

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制作 : Virginia Woolf  御輿 哲也 
  • 岩波書店 (2004年12月16日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003229118

作品紹介

スコットランドの孤島の別荘。哲学者ラムジー氏の妻と末息子は、闇夜に神秘的に明滅する灯台への旅を夢に描き、若い女性画家はそんな母子の姿をキャンバスに捉えようとするのだが-第一次大戦を背景に、微妙な意識の交錯と澄明なリリシズムを湛えた文体によって繊細に織り上げられた、去りゆく時代への清冽なレクイエム。

灯台へ (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 灯台の見える別荘での半日と、その10年後の数時間。それだけなのに400ページ、まったく飽きさせない。登場人物は少なくないからろくに名前を覚えないまま読み進めてしまったのだけれど、彼らの思ったことがゆるゆる流れていくばかりなのに、だれがどういう人なのかはっきりわかる。植物や海の描写も細やかで美しくて、うっとりする。自分が体験したこともこういう風に書いて残しておけたら、どんなにいいだろうと思う。

    タブッキの『レクイエム』でもそうだったけれど、いずれ取り戻せなくなるであろうものごとを想わざるをえず、読み終わってからしばらくぼんやりしてしまった。今大切に思っている、人とか関心とか場とかひっくるめた状況は、いつか必ず失われてしまう。外側が変わるだけではなくて、自分だって変わってしまう。もうそのことを知ってはいるのだけれど、次に何かが消えてしまうときはどんな喪失感が待っているのだろう。適当なことをして後悔したくないから、眼を開いて、耳をすませているしかないのだけれど。

  •  ヴァージニア・ウルフというイギリス人女性作家を、わたしはシモーヌ・ド・ボーヴォワールの『第二の性』のなかで知った。ボーヴォワールが引用するウルフの文章に惹かれ、とりあえず図書館ですぐみつけることのできた本書を読みはじめた。
     本書の特徴は、小説であって詩のような、あるいは小説でなくて詩でもないような、「前衛的」といえばそれまでなのだが、その新しさにあるように思う。作者自身、「小説(ノヴェル)にかわる新しい名前を考案したい・・・でも何と?エレジー?」と述べている。
     たとえば、第一部と最終譚である第三部との間に第二部が時として「嵐のように」過ぎるという構成は、作品にある種の断絶をもたらす。実際、第一部と第三部では趣が180度変わってしまっている。しかし、いくつかの言葉や詩の一節「我らは滅びぬ、おのおの一人にて」がさまざまな人たちの口から、あるいは心から溢れ繰り返されることによって、ひとつの大きなテーマのもとに事象のひとつひとつが繋がって連鎖して、物語が織られていくようである。
     水のなかで空を見上げたときのような、ウルフの文章には静かな美しさが宿っている。第一部にある人間の描写、第二部にある風の描写、第三部にある死と美の描写、すべてがわたしの心に甘く鈍い痛みをもたらす。静寂のなかを無秩序に漂う悲しみであったり希望であったり、そういったものを拾い上げ束ねてくれる。
     ある批評家は、「時間と死、芸術の永続性についての声明」とこの作品を評価する。さまざまな言葉がひとつの象徴として音をなし、ひとつのハーモニーを成す。ウルフが試みたのは、小説という絵であったり、音楽であったり。芸術そのものなのかもしれない。
     ずっと手元におきたい作品である。

  • 今年(2016年)最後のレビュー。

    アレハンドロ・イニャリトゥの映画「バードマン」のレビューで、ヴァージニア・ウルフの"意識の流れ"を感じさせると批評した人がいて、はて?誰だ?とそのとき思った。それからヴァージニア・ウルフの名が頭にこびり付いた。今回初めて読んでみた。なるほど。本作を読んで納得。ウルフの小説技法を視覚表現すれば、確かに2時間長回しのワンカットの映画ができる。


    哲学者ラムジー一家と画家リリーを軸に、灯台が見える別荘での1日と10年後の数時間。たったこれだけ。なのに最後まで読んでしまった。人物たちの視点は絶えず移りゆき、主客が転倒し、見る者が見られる者になり、思われる人が思う人になり、切れ目なく人も物も風景も、風さえも移ろいゆく万物がまさしく意識が流れるよう書き留められ抒情的に綴られていく。
    その過程は静謐で美しい。さらに、原文ではこの小説の美しさはどのように変化あるいは輝きが増すのか、と読後に想像してしまった。特に第二部「時はゆく」において、風の小隊が室内へと歩む様は、もし原文を英語を母語とする人が音読したら、言葉の韻と音のリズムは耳朶に心地よく響くのではないか、と妄想してしまう。

    過ぎ去った時間。滅びた物。消え去った人たち。喪失を抱え生きる人も、やがてはこの世から去る。万物は流転する。生々流転という日本語がある。誰が言ったか知らないが、なんであれ言い残した本人は流転した。が「生々流転」という言葉は流転しなかった。リリーが最後に見つけたのは流転する人と世界の在りようのなかで、なお残るささやかなもの(それは言葉や絵かもしれない)だったのではないか。読後にしばらく余韻に浸るいい作品だった。素晴らしい

  • 非日常を書く作家は数多くいるが、なんでもない日常を書く作家は少ない。
    事実を書いた作品は山ほどあるが、心を書いた作品は少ない。
    これはなんでもない日常、その場にいた心を書いた作品。ウルフさんまじ半端ねぇ。

    いつもと違う物語を読みたいという方へ。

  • ラムジー夫妻にファーストネームが無い事に注目すべし。
    他の長編の主役には必ずフルネームがあったという事は、意図的なものと考えるべき。つまり個でありながらも、象徴的役割が強く与えられている。母性父性の雛形的な。(だから私の両親やあなたの妻、あなたの上司にこんなにも似ている)。

    それはある家庭の一日を描きつつ、創造神話的なジェンダー論、という層を持つ事を示している。
    だから夫人は典型的な「男尊女子」。
    ラムジー夫人は近視でラムジー氏は遠視、という象徴的な設定が凄い。つまり夫人は遠くが見えず、氏は近くが見えない。

    で、安全な殻に守られた家族の原風景として和んでいる内に、そこへ闇が侵入し、天照大御神は隠れ、その子らは切り離された混沌の世界、エデンの東へ投げ出されるが、やはり人はそれぞれに光を目指して進む。
    その繋がったばらばら感こそが著者が既存の信仰を超えている所だと感じる。人の生、というものは間違っていたり正しかったりするものではないのだ。

    何かひとつの答えが有るわけではない。我々がひとりずつそれぞれ、灯台へ何を持っていくか、考えるのだ。灯台へ何をもっていこうか、、それこそが生きるということである。そしてその紙包みのあつまるところ、、、、それが灯台である。(言ってしまおう、、、アカシック・レコードのイメージに近い)

    父性・母性、その超え難さや暴力性、或いは有機的な力に身を委ねる事の安心感。それを否定的にも肯定的にも、優しさ甘さと厳しさ残酷さを持って描いている。少なくとも、そこにある大切なものも描いている事は確かだ。
    (そして、本作での著者の立場・視点への反動として、性差や家庭から自由に解き放たれる為に「オーランドー」は創造されたのだろう。)

    ボートに乗り、青い空の下、象徴的に彼岸へ渡って行く。その心地よさ。そして、何故か、その記憶が私の中のどこかにある。いつか私はキャムだったのではないか?

    (で、また霊は地上へと受肉し、受肉したての目から観た世界、という「波」の冒頭へと見事に繋がっていくのだ!)

    *追記/
    最後リリーが舟の3人を思うあたり、どう考えてもあれは野辺の送りの心境である。著者は明らかに3人を象徴的に殺している。
    では何故そんな事をしたのか?と暫く考えていた。
    著者の2つの側面を分割したのがリリーとキャムである。
    意思を持って古い価値観と向き合い、決別し、新しい世界を選び取っていく側面、つまりリリーを此岸に残し、古い世界をノスタルジーと共に彼岸へ渡してしまおう。と、そういう意図だったのではないかと思う。

  • 何だかところどころ泣きたくなるのはなぜだろうか。
    人と人との間に流れる感情のゆらぎだとか、風景と自分との折り合いだとか、荒廃してゆく家のすさまじさだとか。ときどき共感できてしまうからか。

    繊細、の評が多いようですが、物事の芯をきちんと捉えて、なるべく、正確に、表現してくれようとしているのだと思わされました。
    とくに難しい言葉を使っているわけではないのに、言いまわしが多様で飽きさせない。

    読み終わったあとに冒頭を読み返して、ああそうか、そうだったんだと納得。
    何年ものあいだ待ちつづけ、一晩の闇と、一日の航海をくぐり抜けて、灯台へ。

  • ヴァージニア・ウルフなんて怖くない?そんなことはあるまい。著者はブルームズベリーグループに属し、フェミニストとしても有名。ウルフの小説は、短編(名前は忘れたが兎の出てくる話)が微妙で読まなかったのだが、再考せねばなるまい。 本作品はまず、第一部が思わず引き込まれる魅力があって一番好き。夫人が強烈な印象を与える。第二部は全体がリリシズムを湛えるといっていいこの作品でも、特に抒情的。その中にも戦争への反感が根強く見受けられる。この部があることで「怒りの葡萄」の構成を考えさせられた。第三部はリリーと灯台行きに夫人への哀悼を感じる。 蓋し、第一部の1を読みきった時は、ここで短編として終わってもよいと思ったくらいに完成度が高く、ジョイスの「ダブリン市民」を想起した。だが、全体の印象としてはよりプルーストを思わせる。意識の流れは無論のこと、風景描写や詩的な雰囲気まで似ていると思った。プロットは前述のスタインベックと共に、福永武彦氏の「風土」が近いと考える。全体に、流麗という言葉がふさわしかろう。

  •  1927年発表、ヴァージニア・ウルフ著。孤島に住む夫人とその一家、彼らを取り巻く画家ら数人。第一部「窓」:明日灯台へ行くことを思いながら日が暮れ、夕餉の席で頂点に達する各人の心理的緊張を描写する。第二部「時はゆく」:擬人化した風や闇などに視点を据えつつ、それらに家が侵食されて廃墟と化していく過程を描く。第三部「灯台」:十年後、再び家に戻ってきたラムジー氏と子供達がようやく灯台に向かう。
     濃密な心理の流れだった。
     第一部:主観人物はころころと入れ替わり、特に夫人の存在感が他の登場人物の心理に及ぼす影響を精密に、詩的に、哲学的に描いている。静かな池に石を投げ入れて波紋が広がっていく様を眺めているような印象を受ける。ストーリー自体はほぼ動いていないのだが、微妙な精神の揺れを介して、各人の関係や思想が浮かび上がり、物語に深みを与えている。
     第二部:この部が一番面白かった。風の小隊など、自然現象に関するユニークな表現が目を引く。それに比べて、主要人物のストーリーは非常に簡潔に語られている。生き生きとした自然と無機的な人間。全てが朽ちていく、という事実がひしひしと伝わってくる。
     第三部:つくづく人の死というものは、肉体としての死だけでなく、心理的な内面の世界(それは他の人の心にも食い込んでいる)をも含むのだと痛感した。そしてようやく灯台に到着したシーンでは深い解放感を覚えた。特別取り立てて言うことのない本小説のストーリーなのだが、たったそれだけの行為に膨大な心理が詰まっているのかと思うと、感慨深いものがある。こうして一旦は灯台に流れ着いた精神の流れは、これからも、永久に、主観人物を変えつつどこかへ流れ続けていくのだろう。
     解説によると、本小説は著者自身の両親に対するレクイエムらしい。永久に続く流れに身を委ねること、委ねられると納得できたこと、その穏やかさを著者はきっと感じたことだろう。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    スコットランドの孤島の別荘。哲学者ラムジー氏の妻と末息子は、闇夜に神秘的に明滅する灯台への旅を夢に描き、若い女性画家はそんな母子の姿をキャンバスに捉えようとするのだが―第一次大戦を背景に、微妙な意識の交錯と澄明なリリシズムを湛えた文体によって繊細に織り上げられた、去りゆく時代への清冽なレクイエム。

    最近、現代の本ばかり読んでいたせいか、ちょっとついていけなかった...
    哲学的な本を読むには、哲学的な思考をもって読んだ方がいい、かも。

    ラムジー一家を中心に、客人や周りの人々を含む心理的描写を軸に描かれています。
    ある人の思いがある人へつながり、それがまた他の人につながっていく...
    不思議な感じを受けながらも、ある人への印象が人によって全く違ったりするのはおもしろい。

    第一部でいちばん印象的なのはやはりラムジー夫人でしょう。
    そして続く章でも、彼女はいろんな人に影響を与え続けます。

    毅然とした生き方が、リリーのように羨ましくも疎ましくも感じ...

    機会があれば再読してみたい作品。
    その時々によって、自分自身の成長も確認出来るような、そんな作品でした。

    この人の本、もう少し読んでみる必要があるかも。

  • とにかく描写が繊細。精神描写も情景描写も、繊細すぎて粘着質に感じるくらい。ウルフの言葉へのこだわりを感じるなあ。と言ってもウルフについてはほとんど無知で、精神を病んでいたとか自殺で亡くなっているとか、巻末の解説等を読んで知ったんだけど。
    二章の時間経過の表現はすごく好きだ。なんとなくガルシア・マルケスの「百年の孤独」を思い出した。
    「われらは滅びぬ、おのおの一人にて」後半から最後まで何度か繰り返されるけど、繰り返されるうちにこの一節が段々胸に響いて切ない気持ちになってくる。

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