アルハンブラ物語〈下〉 (岩波文庫)

制作 : Washington Irving  平沼 孝之 
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003230237

感想・レビュー・書評

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  • 上巻は歴史の話が中心でしたが、下巻は蒐集された伝説が多めの印象。閉じ込められた王子様やお姫様、魔法をかけられた兵士たち、洞窟に住む魔術師、埋められた財宝、実際の歴史との絡みもありつつ、ファンタスティックでエキゾチックな伝説の数々はどれもとても魅力的です。

    スペインというとざっくりヨーロッパの国のひとつ、と思っていましたが、位置的に海を挟んでモロッコがあり、そちら方面からの影響もとても強いんですね。イスラム教勢力とキリスト教勢力の間での戦いが長く続き、アルハンブラ宮殿も元はイスラムの支配時代に築かれたものゆえ、独特のオリエンタルな建築になっていて、そこに残る伝説の類いもヨーロッパ的というよりはそこはかとなくアラビアンナイト風な趣きでした。

  • 19世紀アメリカの作家アーヴィング(1783-1859)が、スペインのグラナダにあるアルハンブラ宮殿に滞在した際に執筆した旅行記であり、かつ当地で見聞したいくつかの伝説を記録したもの。初版1832年、改訂版1852年。本書の影響により、当時あまり知られていなかったアルハンブラ宮殿は、"異国情緒"あふれるイメージと結びついて広く西洋世界で親しまれ、人気の観光地となった。



    スペイン(イベリア半島)という地域が、西洋世界にとって、最も身近なオリエント(東方世界、則ち"異国")として認識されていることが、以下の個所によく表れている。

    「しかし、これほど長きにわたる統治にもかかわらず、スペインにおけるイスラム教帝国は、輝かしい異国でしかなかった。あれほど見事な花を咲き誇らせながら、スペインの地に根付くことはついに叶わなかった。西欧の地にあって、信仰と習俗の垣根によってすべての隣国から切断され、オリエントの同胞からは海と砂漠とによって隔絶され、「モーロ系スペイン人」は孤高の民だった。スペインにおける、その存在の形態そのものが、侵略の地に砦を築いて守り抜く戦いのそれであり、それは果敢で騎士道的華やかさを装いはしたが、いつの日か、終息する以外にないものだった」

    「実のところ、スペインは、その歴史、習俗、風俗、思考様式のいずれにおいても、他のヨーロッパ諸国とは隔絶している。スペインは、ロマンス香る外つ国である。ロマンスの国スペインと言われる、この異彩を放つ伝奇的要素は、当節の西欧型ロマンスのもつ感傷的な伝奇趣味とは無縁だ。スペイン型ロマンスの中心にあるのは、輝かしい東方世界と直結する、高邁なサラセン[イスラム教徒を指す語]直伝の騎士道精神である」

    西洋人がオリエントに付与する"異国情緒"のイメージは、西洋人に対してどのように機能するのか。

    「この古い、夢見ているような宮殿には、ことあるごとに人を過去の夢想へと誘い、失われた世界を幻のように現在によみがえらせ、むき出しの現実を数かずの幻想で包み込んでしまう、不思議な力が潜んでいる。わたしは、「無いものが有るもののように見える世界」を歩き回るのが好きだ」

    現実には「無いもの」が想像の中で「有るもの」とされるとき、それは往々にして理想化された幻想となる。即物的で散文的なものでしか在り得ない現実に対して、それをロマン的に粉飾し、理想的な幻想として創出するためのイメージの核として、オリエントは機能する。そこでは、西洋人の精神的な"慰み物"として劣位に置かれている。オリエントはそうした幻想を提供するための一つのきっかけに過ぎない。

    ここにあるのは、本気で現実化しようとは思っていない理想を或る一定の距離を置いて仮想的に創出し鑑賞しようとする消費の欲望であろう。「見たいものを見る」という認識の欲望であろう。他者を自己が作りだすイメージ通りの客体として固定しておくことで、自己にとって有利な他者との関係(不均衡な支配-被支配関係)が変更されてしまうことを回避し、他者への優位性を安定的に維持しようとする欲望であろう。それは、自己像の変更に対する恐怖心の裏返しであるとも云える。則ち、突き詰めれば、西洋による西洋自身の自己定義の欲望であると云えるだろう。

    オリエントという表象は、ロマン的に称揚されているように見えながら、実際は西洋のオリエントに対する優位性を再確認し植民地支配をイデオロギー的に再生産するための契機に過ぎない。



    上巻は、大部分がスペインの風土文化やアルハンブラ宮殿にまつわる歴史の記述に費やされており、やや退屈である。しかし下巻には、当地で収集した民間伝承をもとにアーヴィングが再現した「伝説」が多数収められており、楽しく読める。特に、恋物語の「アフメッド・アル・カーミル王子の伝説――恋の巡礼行」「三人の美しい王女の伝説」、秘密の財宝が登場する「モーロ人の遺産の伝説」「二体の思慮深いニンフ像の伝説」が面白かった。

    「今日のように、大衆文学が低俗さを売り物にし、人間の悪徳と愚劣を見世物にし、世界を挙げて利潤の追求が詩的感情を踏み躙り、魂の瑞みずしさを枯渇させている時代に、このような、高い誇りに生き、気高い思念が支配した時代の記録に立ち戻り、古いスペインの騎士道ロマンスの世界に身を浸してみるのも、あながち、意義のないことではないだろう」



    訳文について、助詞の使い方が不自然な箇所が散見された。

  • 下巻は伝承が中心。いずれも秀逸。幻想的な話と魅力的なキャラクターで、読んでいると心が温まる感じがした。特に良かったのは次の2つ。「アフメッド・アル・カーミル王子の伝説」では、オウムとフクロウの力を借りてお姫様と結ばれる。「ドン・ムニョ・サンチョ・デ・イノホサの伝説」では、カスティーリャ人騎士とモーロ人騎士とが騎士道精神を示す。

  • 上巻より伝承の聞き書きが多い下巻。昔話が続いたら途中でダレないかな、と気にしていたのだけれど、まったく杞憂だった。作者の選択眼と再構成力が素晴らしいのだ。どの話もみずみずしく展開に意外さがあって、とても楽しかった。

    これらの話はもちろん史実ではないけれど、長年グラナダの人々に語り伝えられてきた強度を持っており、そこから土地の歴史や人のあり方がじんわりと伝わってくる。南スペインの魅力と共に、アーヴィングの物語る力を堪能できた。シンプルで生き生きしたお話の数々に、童心に帰りつつゆったりとした気持ちに。

  • 上巻よりも伝説の収録が多くて、千夜一夜物語的な世界を楽しめました。スペインの昔話として馴染みのあるストーリーもいくつかあって、なんとなく懐かしい気持ちにもなったり。描写もやっぱり好みだなあ。描き出される風景もどこか懐かしさがある気がしました。

  • おじいちゃんにお話を聞かせてもらっている心地がする内容でした。

    アルハンブラ物語の下巻はアルハンブラ宮殿の伝説集って感じ。ロマンチックなイスラム文化と融合したスペイン文化の歴史を感じるね。

    こんなの読んでアルハンブラ宮殿に訪れたら、ついつい「財宝が埋まってるかもしれない」とか「ムスリムの兵士が封印されてるかも」とか考えちゃうよなぁ

    観光が100倍楽しくなること間違いない。歴史のロマンやね。

  • 上巻に引き続きアルハンブラ宮殿にまつわる伝説や物語が散り並べられている。地下に眠る金銀財宝、王女にまつわる伝説、幻想的な世界はアラビアンナイトの雰囲気が漂う。いつかグラナダを訪れてみたい。

  • いいですね。ほんと。物理的距離と時間的距離の旅。上巻と下巻の気になった箇所から拾い読み。

  • グラナダ・アルハンブラ宮殿に行く前に是非読みましょう。印象が全く変わると思います。

  • 目次
    アルハンブラへの来訪者たち
    遺品と家系
    ヘネラリーフェ離宮
    アフメッド・アル・カーミル王子の伝説―恋の巡礼行
    アルハンブラの丘をマテオと歩く
    モーロ人の遺産の伝説
    ラス・インファンタスの塔
    三人の美しい王女の伝説
    アルハンブラの薔薇の伝説
    歴戦の老兵〔ほか〕

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