ポー詩集―対訳 (岩波文庫―アメリカ詩人選)

制作 : 加島 祥造  Edgar Allan Poe 
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  • Amazon.co.jp ・本 (201ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003230626

感想・レビュー・書評

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  • 対訳なので、ポーの原詩を音読できるのが最大の利点。萩原朔太郎が『詩の原理』で、翻訳詩の不可能性を論じていて、その典型的な例としてポーの「大鴉」をあげている。後半のリフレイン"Nevermore"を日夏耿之介訳では「またとない」となっているが、これでは詩の本質としての韻律が生かされないとしている。まさにポーの詩は韻律こそが生命だ。また、この「大鴉」もそうだが、「アナベル・リー」にしても、彼の詩には強くネクロフィリアの匂いが付き纏う。すなわち、魂の律動と死の静寂が交錯するところにこそポーの詩の世界があるのだ。

  • エドガー・アラン・ポー(1809-1849)は、ゴシック小説、推理小説の作家としても知られるが、詩人としての側面もある。英米での評価は必ずしも高くはないようだが、フランスでは高く評価され、ボードレールやマラルメなど、象徴派の詩人たちは、ポーを高く評価し、強い影響を受けた。アイルランドの詩人、イェーツはポーを「偉大な抒情詩人」と讃えているという。

    個人的にはポーの詩に興味を持ったのはどの時点だったのか記憶が定かでないのだが、このところ19世紀に関連する本をあれこれ拾い読みしているうちに、幾度かポーの詩(多分、特に「大鴉」)に関連する記述を目にしたのだと思う。
    先日読んだアンソロジー、『吸血鬼』の中の「ベレニス」の異様な迫力も強烈で、とにかく「大鴉」はいずれ機会があったら読もう、とは思っていた。
    だが、いかんせん、英語の詩はなかなかハードルが高い。いきなり原文で読んでもちんぷんかんぷんでイメージがわかないだろうし、さりとて和訳だけ読んでもそれはどのくらいオリジナルに近いのか図りがたい。
    どうしようかと思っていたところ、原文と和訳が対比して置かれている版に行き当たったので、まずは読んでみることにした。
    詩の部分が140ページほど、それに解説が付く。長くはない。さらりと読もうと思えば読めそうだが、これはどういうことかと引っかかるといくらでも引っかかる。あっさり読み終われそうでもあり、永遠に読み終わらなそうでもある。なかなか不思議な感触である。
    途中から、実は英詩のポイントの1つは「音」なのではないかと思い、パブリックドメインに上がっている朗読ファイルを聞きながら読んでみる。子音の繰り返し、韻律の響きの心地よさがあり、これはこれで悪くない。とはいえ、音を聞いてぱっと情景が浮かぶかといえばもちろんそうではない。結局のところ、英詩を本当に鑑賞するには、気に入ったものをいくつか暗誦して響きを染み込ませ、描かれた情景を理解し、そうした1つ1つを少しずつ積み重ねて、徐々に広げていくしかないような気もしている。

    ともあれ、本書の内容に戻る。
    日本語訳と解説は、自身も詩人の加島祥造である。熱のある、自身の感性に非常に正直な解説・解釈といってよいだろう。同時に、非ネイティブが英詩を読み取ることの楽しさと難しさ、訳者兼解説者の真摯な姿勢が伝わる。解釈にはどうしても訳者の「色」が入ってしまうものだが、どうしてそのような解釈となったのかという解説もあり、なるほどそういうものか、と感じさせる。
    ただ最終的には、やはり原文で味わうべきなのだろうし、だがしかし、そこには言葉の壁ばかりでなく、ポーの時代と現代の間の時代の壁もあり、なかなか難しいものであろうな、というところである。

    心許ないながらも気に入った詩をいくつか挙げる。
    "Annabel Lee"(「アナベル・リー」):海辺の王国で美しい乙女アナベル・リーと「ぼく」は子供のように生き、愛し合っていた。だがアナベル・リーは死んでしまい、海辺の墓に閉じ込められる。"In this kingdom by the sea"のリフレインが耳に残る。この詩の最後の一行は、松本清張の「ゼロの焦点」の幕切れに使われているものだと思う。
    "Eldorado"(「黄金の里エルドラドー」):黄金の国エルドラドーを探し歩く騎士。探しても探しても求める地には辿り着かない。出会った巡礼に道を尋ねる。彼の答えとは。まばゆいEldoradoと漆黒のShadowの対比が鮮烈。
    "The Bells"(「鐘のさまざま」):結婚の鐘、火事の鐘、葬儀の鐘、と異なる鐘を詩で書き分ける。発想もおもしろいが響きが楽しい。
    "The Raven"(「大鴉」):発表と同時に評判を呼び、後世のさまざまな文学作品・ポップカルチャーに影響を及ぼした。恋人を亡くした学生が物思いにふける部屋に一羽の鴉が舞い降りる。学生が何を話しかけても鴉の発する言葉は1つ。「nevermore(もう二度と)」。学生は次第に追い詰められていく、といったような物語詩。窓を叩く音、カーテンを揺らす風。白い女神(パラス:学問の象徴)の胸像に舞い降りる不吉な黒い大鴉。ひたひたと怖さが忍び寄る。

    ポーは必ずしも実人生に恵まれてはおらず、40歳で世を去っている。病弱な妻やその母を支え、妻が24歳の若さで急逝した2年後、自身も謎の死を遂げる。それがどれほど詩作に影響を及ぼしたかは何とも言えないが、作品にはどことなく陰を感じさせるものが多い。
    ポーの詩には辛い評も多いが、今なお読み継がれているものも多く、やはり詩人としても稀有な人であったのだろう。


    *書影の「岩波文庫70周年」の帯は、1997年時点のものです。私も古書で購入したのですが、同じ帯がついていました。今年、岩波文庫90周年ということですね。

  • どんな理想も、どんな神秘も
    裏をかえせば茶番である
    E・A・ポーはもちろんそのことを承知のうえで
    幼い愛の歌を歌い
    また同じように恐怖と絶望を歌った
    ネバーモア、すべてうたかた

  • 再読。詩として読むなら日夏訳のほうが美しいのだけれど、やはりあちらは意味がとれないことも多いので(苦笑)そんなときこの対訳詩集が役立ちました。対訳なので訳文自体はほぼ直訳、注釈も文法的なことや、原詩の韻の説明など現実的。巻末には各作品の由来やエピソードもあってとても親切な参考書という感じ。

  • なぜ詩人の胸の中までこじ開けるのだ、おまえは

  • 予備知識がなく、てっきり古きアメリカの如き力強い文ばかりだと思ったら、全然そうじゃなく耽美的で悲しみや切なさや狂気を語る詩ばっかりだった。原文をネイティブに発音できたら、きっと音楽みたいな響きなんだろうなぁ。英語話せるようになりたい…
    個人的に好きなのは「アナベル・リー」と「大鴉」。大鴉は名前だけ知ってたけど、こんな救いのない物語だったとは…。そういや映画のスパイダーマン1か2で主人公のピーターがコインランドリーで詩を読む場面があったけど、あれも印象的だったなぁ。今度機会があれば読んでみよう。

  • 大鴉、アナベルリー、鐘のざざま、ばっちり載ってます

  • 「アナベル・リー」は授業でやった。少し幼いような、悲しいような雰囲気がすごく好きだ。いくらでも裏読みできるのが楽しい。
    他はどことなく似通った作品ばかりで、正直途中からだれてしまった。内容が難しすぎて理解が追いつかなかったのもある。
    が、最後の「大鴉」は読んだ瞬間ドキリとした。長めの詩だから、読む前は「こんなの途中で飽きちゃいそう」と思っていたが、あっと言う間に読み終わった。同じ一語しか話さない大鴉の存在感が大きいと思った。威厳を感じた。
    最後の終わり方も、余韻を残すような雰囲気がとても好きだった。

  • 自分の心との対話が言葉にできたら、どんなに素晴らしいだろう。ポーの湧き出る感情が言葉になってほとばしる。しかし、心の闇と向き合う人の生は厳しいものなのだと感じる。心は大鴉となってあらわれ、Nevermoreと叫ぶのだ。

  • かの有名なRaven(大鴉)も収録。
    冒頭のAlone(ひとりで)も好き。

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