- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003230732
感想・レビュー・書評
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H・D・ソローは「森の生活」でとても感銘を受けていたので、本書も購入しました。本書はエッセイが6つ掲載されていて、ずいぶん毛色の違う内容となっていますが、期待を裏切らずとても満足しています。まず本書の読み方ですが、読みたいエッセイについて、まず巻末の解説を読むことをお勧めします。それによってどういう背景でソローがこの文章を書いたのか(講演したのか)、当時の環境からするとソローの主張がどれだけ革新的だったのかがわかります。それを把握したうえで(つまり19世紀米国マサチューセッッツ州の住民になった気持ちで)読んでみてください。
タイトルにもなっている「市民の反抗」そして次の「ジョン・ブラウン大尉を弁護して」ですが、「森の生活」とはうってかわって、ソローの正義感の強さ、奴隷制への嫌悪感がよく伝わってきます。解説によれば「市民の反抗」はガンジーやマーティン・ルーサー・キングなども愛読していたとのことですから、社会改革派にとってのバイブル的存在だったことになります。
ただ私はそのあとに登場するエッセイ、「歩く」「森林樹の遷移」のほうがより興味深く感じました。おそらく「森の生活」との近接性を感じたからかもしれません。「歩く」の中でソローは、単に外を歩けばいいということではなく、人間の手つかずの自然、原生林、野原を歩け、それこそが命の活力だと主張します。「野性的なるものは善に近し!」とソローは述べていますが、これなどは鈴木大拙氏が重視する「自然」(英語のネイチャーのような意味ではなく、人間を含めた生き物が自らの本来の姿を現すこと)に近いでしょう。大拙氏は日本語が本来意味する「自然」に該当する言葉が英語にはないと述べていますが、ソローは感覚としてその概念を持っていたのではないでしょうか。「森の生活」を読んでいるときもたびたび感じましたが、ソローの思想からは東洋的なエッセンスを多く感じます。主張のわかりやすさでいえば「市民の反抗」ですが、主張の深さという点で私は「歩く」がとても気に入りました。詳細をみるコメント0件をすべて表示