白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)

  • 岩波書店
3.69
  • (45)
  • (47)
  • (80)
  • (9)
  • (1)
本棚登録 : 909
感想 : 63
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003230831

作品紹介・あらすじ

「モービィ・ディックだ!」-エイハブ船長の高揚した叫び声がとどろきわたった。執拗に追い続けてきたあの白い巨大な鯨が、ついに姿を現わしたのだ。恐るべき海獣との壮絶な「死闘劇」がいよいよ始まる。アメリカ文学が誇る叙事詩的巨編、堂々の完結。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 下巻
    そろそろモービィ・ディックを追いかけないと最終巻だよ!…などという読者の思いはどこへ吹く風、相変わらずの鯨語り(笑)。
    上中巻でさんざん鯨語りしたから下巻では物語が進むかと思ったら、まだまだ作者は語り足りなかったらしいく、もっと語るぞ!という決意表明?までしている。
    「わたしは鯨に関する研究に労を惜しまない人間だ。わたしは鯨のもっと深い所を読者にお目に掛けよう。ところでイシュメールよ、一介のボート漕ぎにすぎないお前がそんなことができるのかね?」などと自問自答しているし、「鯨の血液内の細胞さえ見逃さないぞ!」「壮大な本を書くためには壮大な主題を選ばねばならない、それが鯨だ!」「鯨を考古学化石学地学的に考えるんだ!その思想が及ぶあまりの広範囲無限性に気が遠くなりそうだ」などと目標が大きすぎるんだかやり過ぎなんだかよく分からなくなってきている(笑)


    多様される比喩隠喩などは後書の解説を頼りながら読み進める。この解説がかなり詳しい。本文でメルヴィルが鯨をあらゆる角度から鯨を調べて読者に語ろうとしているように、解説者は「白鯨」という作品自体を分析して読者に示そうとしている。
    この解説によると、「白鯨」はメルヴィルが書いては出版社に送り、すぐ印刷に掛け、売り出さらた、ということ。
    ということはあの鯨語りはほぼ推敲無しの書き下ろしか、すごいな。たまに辻褄が合わなかったり、結末がはっきりしないことがあるも、推敲無しならしょうがあるまい。

    ピークォド号は日本近海にも来たらしい。「閉ざされた国日本」となんだそうだ。このころ日本は鎖国中なんだからしょーがないじゃん。アメリカはこの後油を取るための捕鯨船の補給場所として日本に開国を迫るわけですね。
    なお、日本列島のことが「ニホン・マツマイ・シコケ」と記載されていた。解説だと「本州・北海道・四国」のことだそうだ。ということは「マツマイ」って松前藩か!そして九州は地図に無いのか?!

    ピークオッド号は相変わらず白鯨モービィ・ディックに執念を燃やすエイハブ船長とそれに従わざるを得ない船員達。
    第一航海士で良識派のスターバックはたまりかねてエイハブ船長殺害を目論んだりする。しかしスターバックは引き金を弾けない。
    スターバックにはエイハブに「私にではなく、あなた自身に気を付けなさい」などと警告を送る。
    エイハブはその言葉を噛み締め、自分には白鯨を追う以外の人生もあるのかと迷ったりもする。そんなエイハブをさらに人間の情で説得しようとするスターバック。
    しかしエイハブをエイハブたらしめているのはやはりモービィ・ディックへの執念であった。

    ピークオッド号と行き会う船として、他の船の話も出てくる。
    ユングフラフ号は、鯨が取れずに自船の灯油さえ全くなくなり、ピークオッド号に無心に来る。この船の船長は俗物として書かれている。
    サミュエル・エンダビー号の船長は、白鯨のせいで腕を失くし、鯨の骨で義手を作っている。義足のエイハブとは、義手と義足で握手を交わした。ただしエイハブ船長とは違い、白鯨モビー・ディック個体への復讐心は全くない。
    レイチェル号との出逢いは印象的。エイハブが「白鯨を見たか?」と問うと「見た。そちらは漂流中の捕鯨ボートを見たか?」と問い返してくる。モービィ・ディックを拿捕しようとして行方不明となったその救命ボートには船長の息子が乗っているという。協力を求めるレイチェル号に対してエイハブは冷たく言い放つ。「わたしはモービィ・ディックを追うことが目的だ。今こうしていることすら時間を無駄にしている」

    ついにピークオッド号は白鯨モービィ・ディックに追いつき、3日間に渡る死闘が行われる。
    エイハブ船長は、最後まで自分を説得しようとするスターバックの心の気高さを認めて「自分と心中することはない」とピークオッド号に残し、自分はボートに乗りこむ。エイハブが持つのは、3人の異国人銛打ち達の血を浸したという特別作りの銛。
    年老いて人間たちに銛を打たれ続けてさすがに衰えを見せるモービィ・ディックは、鯨でありながらもピークオッド号に攻撃の意思をもって迫ってくる。
    引き裂かれるボート、折られる船の柱、打ち破られる船首。
    銛に付けられた紐がエイハブ船長を海へと引きずり込み、スターバックたちの乗るピークオッド号本船も…
    …原作はあんがいあっさりしている。昔見たグレゴリー・ペックの映画では、白鯨から船員たちを死に向かい手招きするエイハブ船長の姿、主要人物の最期の描写などかなり劇的だったんだけどな。

    劇は終わりぬ。では何故にここに登場する者がいるのか?-ただひとり難を逃れて生還せし者がいたが故なり。

    ピークオッド号と白鯨モービィ・ディックの闘いの一部始終を見て、それが終わった後にこうして語っているイシュメールが助かったのは、かつて熱病を発した”心の友、高貴なる野蛮人”クイークエグが死期を悟って作らせた棺桶をボート代わりにして海を漂い、二日後に漂流者として助けられたからであった。

  • 2ヶ月かかった。この本に出会わなければ、私が鯨や捕鯨船に興味をもつことはまずなかっただろう。メルヴィルの描写の力強さ。白鯨を追ったエイハブ船長、スターバック、スタッブといった航海士、クイークェグの生き方から、私は何を感じるべきなのか。今はまだ圧倒されるばかりで。死をも恐れずに突き進み、生ききった男エイハブ。こんな肯定的な見方をすべきではないのだろうけど、それも1つの生き方だ。私は何にこの命を捧げよう。何に対してなら、豪雨にも消せない燃え上がる情熱を生み出すことができるだろう。
    白鯨には、聖書の引用や世界中の名称が数多く登場する。私はまだまだ世界を知らなすぎる。自分の目で、耳で、肌で感じたい。そしてもう一度この物語を読んでみたい。

  • 上巻中巻と読んできて、作者の熱い思いは十分伝わってきていたが、104章でそれを自白していて面白かった。「よそ目にはごく平凡にしか見えない主題でも、それが自分の主題となると精神が高揚して熱っぽくなる物書きがいるものである。それでは、このレヴィヤタンについて書いているわたしのごときはどうなるか?無意識のうちにわたしの書く字はプラカードの大文字なみに大きくなる。われにコンドルの羽ペンをあたえよ!インクスタンドとしてヴェスヴィアス火山の噴火口をあたえよ!」ところどころでテンションが振り切れて暑苦しさを隠せないメルヴィル。人間味があります。
    そして満を持して白鯨の登場。フェダラーは最後まで不可解な存在だった。まるで死神のような。こいつがピークオッド号に乗り込んだ時から、船の運命は決まっていたのかな。エイハブがスターバックを想って本船に残すのに、最後には本船も沈められてしまうのが悲しい…。
    これはフィクションだけれども、古今東西海には小説顔負けの様々なドラマがあったことだろう。昔の人は保障なんて何もないのに海へ出たんだから、人間の冒険心や探求心ってすごいなぁ。

  • 自らの教養の無さ・理解力の欠如に起因するこの豊饒な作品への理解不足によって★を一つ下げただけで、この作品には★を幾つ付けても足りない。
    単にストーリーを語って読ませる今時の小説ではなく、ヨーロッパ文化が多面的に発現した学術書として真摯に対峙すべきだと思う。
    物語を紡いでいる気は作者自身も毛頭ないだろうことは、唐突かつ延々と続く「鯨学」の披露でも明らか。
    鯨を人間の業の象徴と見立てた様々な角度からの「文明」考察と見るのが正解だろう。
    しかしこの作品がヨーロッパではないヨーロッパ系の国アメリカから生み出されたことは奇跡なんだろうな。

  • ここまでついてきた読者へのご褒美のような面白さ。恐怖も興奮も無常感も全部載せ。そして相も変わらず怒涛のボリュームでお送りされる鯨の知識知識!読者がエピローグを読み終える度に新たな鯨博士が誕生するのだ。夏休みにおすすめ!爽やかさとは程遠い閉塞感のある海の旅を楽しめる。「閉塞感」と表現してしまったが、『87章、無敵艦隊』のような心温まる章もあるよ!!

  • やっと読了。
    とにかく長くて、解説によると連載ではなく一気に書き上げたようなので、それだけですごい体力だと思うので☆5です。(笑)

    もういっその事、白鯨にいつまでも出会わないで永遠に探し求めていてくれてもいいと思った。血なまぐさい捕鯨または人の命が海で失われるシーンに耐えられない危惧もあって。
    予想に反してあっけなくエイハブも拝火教徒もスターバックも忽然といなくなってしまった。そんな風に海上での最後は無情のなのかもしれない。

    立体的に船の様子や漁のシーンなど私の脳の働きが悪くよくわからないで読んでいた部分もあるが、鯨学も含め、この作家はとてもユーモアのセンスにあふれ、そして戦闘的で怖いもの知らずな文章を書いていたのだなと感心し、同性愛的な描写など、果敢に表現していて、それなのにイシュメール以外は誰一人助からないのにお涙頂戴のシーンもなく、案外、すごすぎる惨事の前にはそんな風にしかならないのかもなぁ。
    これはやはり芸術だと思う。

    棺桶の下りなどそこかしこに日本的?に言うなら縁起の悪い象徴が出現し、解説を読んでいて思い出したけれど、「たいていの手紙は目的の人物にとどくことはない」というのがその後に書かれた「バートルビー」を思わせ、さらに加え、この船の乗組員の多様性に当時のアメリカ白人でプロテスタントにはない、どこか日本人がクリスマスも祝い、神前で結婚し、最後は仏式で送られるような感覚を持っていると感じさせられた。だからこそ当時のアメリカではあまり売れなかったのだろう。
    ちょっとレビューとは言えないけれど、こんな長い小説を読んだなんて自分をほめたい。

  • 【白鯨】
    後学のためになんとなく読んでしまう、教養読書シリーズ。
    エイハブ船長が私怨を晴らすため、モービィ・ディックを捕らえるための航海に出る。捕鯨船乗組員たちは興味ないが、だんだんと船長の狂気に巻き込まれていくことに。
    古い本て行動や心情の変化を(現代の視点で見ると?)無駄に細かく描写するとこあると思ってて、この本も例に漏れず同じ書き方。しかも捕鯨や鯨に関するミニ知識の章がかなりの頻度で現れては、物語の加速感をブッツリ。断ち切るんだけど、物語よりそちらの方が面白かったりして何読んでるか分かんなくなる読書だった。
    #読書 #小説 #世界の十大小説 #岩波文庫

  • 中巻に続いて大丈夫かってくらいありとあらゆる捕鯨について語りまくられる下巻、ですがやはりモービィ・ディックを発見してからのクライマックスはものすごい迫力です。追う側も、それに対抗する白鯨も迫真迫る息つけない勝負…。狂信的に白鯨を追うエイハブ船長の印象がもちろん強いですが、それに唯一反論を試みる冷静沈着な一等航海士スターバックが涙を流しエイハブの鯨との心中の予感を悲しむところなど、彼の今までの行動(エイハブを一瞬船のために殺そうと思ったこと)などを思い、男達の物語に胸が熱くなりました。劇的な幕切れでそこはベラベラ語り続けることなく口をさっと噤むあたりも文がうますぎる。古典的エンタテインメント。面白かった。

  • ラストシーンで思い出したのはジョジョの一部のラスト、あのシーンも棺桶で生かされるというメタファーがとても印象に残っていたのですが、この白鯨もそのような暗喩がありました。
    しかもその棺桶は主人公の親友のクイークェグのもの。
    分厚い三冊の上中下の冒険の物語は、終盤突然白鯨とぶつかり、あっさりと終わってしまいました。
    粗削りな男が書いた男の物語なんだけど、どこかねちっこい感じが離れないなあ、と思っていたのですが、解説でイギリスではエピローグがない白鯨が発売されたと書いてあり、あの二ページのエピローグがなかった場合の事を考えた。
    エイハブの怨念、鯨学、不吉な予兆、水夫たちのやりとり、重みを感じる長いページの末に船が沈没したところで終えるのも男らしくていいのかもしれない。滲み出る女々しさを払しょくしてくれる潔さがあるように思える。

    三冊読み終えて、あの鯨の雑学やページ数を考えると、とてもすらすらと読めたように思えます。
    偏に目標がしっかりと定まっていたからだと思います。
    エイハブの怨念、そして白鯨への憎悪。これがこの物語の全てと言ってもいいと思うくらい。

    エピローグ。棺桶で漂流したイシュメールはレイチェル号の息子への女々しい希望によって助けられた。
    男らしい物語だと今まで思っていたのですが、実際は違うのかなと読み終えて感じました。

  • 【電子ブックへのリンク先】
    https://kinoden.kinokuniya.co.jp/hokudai/bookdetail/p/KP00048458

    ※学外から利用する場合は、以下のアドレスからご覧ください。
    SSO-ID(教職員)又はELMS-ID(学生)でログインできます。
    https://login.ezoris-hokudai.idm.oclc.org/login?url=https://kinoden.kinokuniya.co.jp/hokudai/bookdetail/p/KP00048458/

全63件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1819年-1891年。ニューヨークに生まれる。13歳の時に父親を亡くして学校を辞め、様々な職を経験。22歳の時に捕鯨船に乗り、4年ほど海を放浪。その間、マルケサス諸島でタイピー族に捕らわれるなど、その後の作品に影響を及ぼす体験をする。27歳で処女作『タイピー』を発表。以降、精力的に作品を発表するものの、生存中には評価を受けず、ニューヨークの税関で職を得ていた。享年72歳。生誕100年を期して再評価されるようになり、遺作『ビリー・バッド』を含む『メルヴィル著作集全16巻』が刊行され、アメリカ文学の巨匠として知られる存在となった。

「2012年 『タイピー 南海の愛すべき食人族たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ハーマン・メルヴィルの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ウィリアム シェ...
ドストエフスキー
フランツ・カフカ
ハーマン・メルヴ...
ドストエフスキー
ハーマン・メルヴ...
ウンベルト エー...
ドストエフスキー
遠藤 周作
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×