人間とは何か (岩波文庫 赤 311-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003231135

作品紹介・あらすじ

人生に幻滅している老人は、青年にむかって、人間の自由意志を否定し、「人間が全く環境に支配されながら自己中心の欲望で動く機械にすぎない」ことを論証する。人間社会の理想と、現実に存在する利己心とを対置させつつ、マーク・トウェイン(1835‐1910)はそのペシミスティックな人間観に読者をひきこんでゆく。当初匿名で発表された晩年の対話体評論。

感想・レビュー・書評

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  • マーク・トウェインの人間観には恐れ入った。トウェインではなく正確には老人なのだが、この老人は徹頭徹尾、人間の善性を相対化する。あらゆる行動は自分によかれと自分が満足したい、という動機があるらしい。悪を行う可能性があるという意味では人間は動物以下でもあるらしい。

    こんなペシミスティックな老人が近くにいたら鬱陶しいなあ、と感じ、青年がんばれ!と読み進めるのだが、次第に老人に愛着を持ち部分的に共感するようになってしまった。なんだろうこの中毒性、トウェインの風刺の魔力。

    これを読んだ後で、中学時代に読み耽ったハックルベリー・フィンやトム・ソーヤを読むとあの頃とは見える世界が大きく変わりそうで、怖くもあり楽しそうでもある。

  • この本を読むとますます人間とは何かがわからなくなる。機械と人間はそもそも栄養の摂り方がちがう。そこにちょっと無理がある。問題はその意識や考えがどうかなのかだがすべてが同一であること自体現実にはないのである。

  • 人間に対して、少しネガティブだが、人間観がまた一つ深まった。人間を機械に表現するとは実に大胆。

  • 人間とは何かという仰々しいタイトルに反して対話形式でとても読み易く、それでいて人間の本質を突いている。
    老人の主張は一貫している。
    「人は自分の良心を安定させるためにのみ行動する」また「人の良心は、生来の気質と後天的な教育、訓練から得た知識や印象、感情の断片の集合体であり、人はこの主に従う出力機でしかない」というもの。
    これは僕自身も常々感じていたことだ。青年は終始それでは人間の価値が下がってしまう、救いがないということを言うが、全くナンセンスだ。価値が下がると感じるのは、ホモサピエンスという少しばかり賢い猿を実際より過大に評価していたにすぎない。著者はまた、偉大な人間、誇り高い人間は嘘の衣装を自慢しているだけだと貶める。つまり銅人間も炭素人間も金人間も、己の生得の原石を磨こうと理想をもち、訓練なり努力なりをしている限りにおいては、人はみな等価値である。そう主張しているのではないか。
    この老人は人間を貶める、冷たく、嫌な人間では決してない。長年の観察と検証から発見した事実を言っているのだ。その事実は、確かにある面では残酷で、批判的かもしれない。だがまたある面ではとても公平であり、人を勇気づける代物なのだ。
    本書は、少なくとも僕にとっては希望の書であり、ある種の救いとなった。
    ありがとうトウェイン。

  •  個人的に何度も読み直したいと思った本。


     例えばです。
     私の身の回りにはもう亡くなった人も含め、何人か認知症を患っていました。

     そのとき、「日常生活でできなくなってしまったこと」が数多くある中でさえ、人を選んで攻撃をする姿を幾人も目にしました。

     大体、人により、(八つ当たりなど)攻撃する対象は限られてるのですよね。弱者に向かう。もちろん当人が一番の弱者なわけですが、当人が元気だった頃の認識で弱者と思われる人間が攻撃対象になる。強い人間にはあまり向かわない。


     わたし、何となく見ていたり、その対象になったりして、
     「あぁ、自分に対する弱者強者を見分ける力って、結構人間の根源的な能力なんだなぁ。」なんて思っている。


     そこで、いかにうまく取り繕おうとして、勉強したり訓練したりしたところで、


     そんな努力なかったかのように身包みはがされる。


     それが、人間の性質なんであろうとすると、


     自分の性質は、決して素晴らしいものとは言えない。本当に。

     今までひたかくしにしているものが、いつしか決壊して漏れ出る可能性を考えると、

     自分の性質ってやつについてよく考える。

     まだよく見えていない部分も多いのだけど、

     せめて「そんなにひどくない」くらいだったらありがたいのですが…。

  • 人間は、外部の刺激に反応する機械のようなものだと、老人が青年に論破する会話劇。生物として人間を観察する視点で、他の動物と大差ない生き物だと論破する痛快さもある。良心や、道徳的行動など、人間だからこそもちえてそうな美德はことごとく動物的行動の結果にすぎないと論破されてしまう。
    一つのものの見方として、さまざまな角度から思考を巡らす時の視点として持っていても良い考え方だと思う。
    あの、トムソーヤを描いた作家というのにも驚かされる。シニカルな視点ももちえた作家だったのですね。人間を冷徹なまでも客観的に観察してきた著者だからこそ、表現できた作品なのだと思った。

  • 人間とは外部から与えられる様々な力によってのみ動かされる、機械と変わりない存在だという内容。

    話の運びが巧く、こちらの抱いた疑問が青年の口から次々と飛び出すので最後まで関心を持って読めた。
    終盤に出てきた不幸になる人と幸福になる人の話からは著者の人生に対する諦観のようなものを感じた。

    この本の内容を楽観的に受け取るか悲観的に受け取るかは読者自身に委ねられていて、その受け取り方こそが幸せになる素質の有無なのだと思った。

  • 若い時に読んだこの本は自分の人生に無視できない影響を及ぼしているような気がずっとしていた。人間は機械であり、自分は出来損ないの機械なんだろうという思い。
    読後、約30年。機械だから何だというのだ、むしろ出来損ないの機械ならではのオモロイ社会を笑い飛ばしながら生きてきた。これでいいのだ。

  • 暴論的な部分もあるが面白い。一つの考え方として完成している。この考え方をしたら憂鬱になるかと言われたらそうではなくて、気が楽になる。現代における1つの処方箋になると思う。

  • 難しい。難しいけど面白かった。最近なぜか古典を読みたくなって前から名言などでよく名前を見かけて気になっていたマークトウェインの本を読んだ。全般に渡ってペシミズム(悲観主義)で全面的に賛同するというわけではないが、完全に否定することは出来ないなという感じ。確かに自分も何も考えようとしなくても勝手に何か考えついていつのまにかその考えが頭を支配している。ただでも100%そうかと言われると…ンンンとなってしまう。この辺りはまた時間を置いて改めて読んでみたときの為にとっておきたい。とにかく今は読み終えて面白かった。というのとマークトウェインってどんな顔してるんやろということとハックルベリーフィンの冒険も読んでみようということ。100年前に書かれたとは思えないほど現代的な文章、訳し方によるのかもやけど。

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著者プロフィール

Mark Twain 1835年-1910年.
邦訳された自伝に、
時系列順に並べられている
『マーク・トウェイン自伝 〈上・下〉 ちくま文庫 』
(マーク トウェイン 著、勝浦吉雄 訳、筑摩書房、1989年)
や、トウェインの意図どおり、執筆順に配置され、
自伝のために書かれた全ての原稿が収録されている
『マーク・トウェイン 完全なる自伝 Volume 1〜3 』
(マーク トウェイン 著、
カリフォルニア大学マークトウェインプロジェクト 編、
和栗了・山本祐子 訳、[Vo.2]渡邊眞理子 訳、
[Vo.1]市川博彬、永原誠、浜本隆三 訳、
柏書房、2013年、2015年、2018年)などがある。



「2020年 『〈連載版〉マーク・トウェイン自伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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