- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003231227
作品紹介・あらすじ
風刺と機知に富む社会批評で、アメリカ草創期のジャーナリズムで辛辣な筆を揮ったビアス(一八四二‐一九一三)の箴言警句集。芥川龍之介の『侏儒の言葉』にも大きな影響を与えた。名訳の誉れ高い旧訳にさらに手を入れ多くの新項目を加えた決定版。
感想・レビュー・書評
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日本には「寸鉄人を刺す」という言葉がある。この言葉を、遙か海の向こうアメリカのアンブローズ・ビアスさんに贈りたいと思う。
『悪魔の辞典』との最初の出会いは高校の英語の授業に遡る。先生は熱心な方で、毎時間はじめにちょっとした英語のフレーズを紹介して下さるのが常だった。ある日黒板に書かれたのがこれ。
"Happiness, n. An agreeable sensation arising from contemplating the misery of another."(幸せ、名詞:他の不幸について考えることから生じる快い感覚。)
うおっ、と思った。何かが電流のように背筋を走り抜けた。優れたブラックジョークだけがもたらしてくれる、あの快感だ。その瞬間、ビアスにやられっちまったんだ。授業でこの本を取り上げたのは、教師という立場を考えるとなかなか思い切ったチョイスだったと今にして思う。先生ありがとう。
数年後、思わぬ形でビアスと再会することになった。当時、私は近代日本文学に夢中になっていた。中でも芥川に惚れ込んだ。全集を一巻から順に、図書館から借り出したものだ。そんな中で彼の『侏儒の言葉』を読んだ。真っ先に思い出したのが『悪魔の辞典』だった。日本にアムブロオズ・ビイアスを紹介したのは他ならぬ芥川龍之介だと知ったのはその時のことだ。芥川の作風を思い浮かべて、なんだか妙に納得したのを覚えている。
そんなわけで、私はビアスと二度出会った。ビアスの作品は決して万人には勧められない。全くもって勧められないのだが、それでも、私にとっては不思議な縁を感じる文筆家なのである。
最後になるが、私をこんなにもひねくれた冷笑家に育て上げて下さったビアス御大には、心からの感謝の念を捧げたい。
感謝の念(gratitude n.)
すでに受けた恩恵とこれから期待する恩恵との中間に位する感情。 -
図書館で見かけた。学生の時に読んでパスティーシュを書いたことがあったなあ、本家本元はどんなだったっけ、と手に取って再読。風刺には、その時代でしか成り立たないものと、人類不変のものと、両方ありますな。
P267
翌日
良き行いと悔い改めた生活の見られる日。仕合わせの始まり。
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この辞典を開くと、最初は愛国者から始まる(そう、愛は存在しない)。内容はこうだ。「部分の利害のほうが全体のそれよりも大事だと考えているらしい人。政治家に手もなくだまされるお人よし。征服者のお先棒をかつぐ人。」ははは。南北戦争の兵隊上がりのジャーナリストにとって、ペンと銃の区別など必要なかったようだ。敵兵だろうが言葉だろうが、対象を狙い定めてただ容赦なく打ち抜くのみ。乾いた時代には乾いたユーモアが良く似合う。巻末にある長田弘氏による解説は、本文の徹底した辛辣さの中に潜む誠実さを見事なまでに炙り出している。
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見かけたことのない単語が出てくる一因は、出版が古いことにある。
この本の見出しを改めて英英辞典で調べるのも一興です。 -
身も蓋もない表現で語句を解説する書。
筆者が外国人であるためか、レビュー者(日本人)では理解しにくい表現もある。
一味違う辞書を見てみたい人にオススメ -
さまざまな言葉(さらには物事)に対して、自分なりに定義をしていくのは大事なことのように思う。ただ、この人の場合は多分にひねくれているけれど。
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人生を狂わせた一冊
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注目すべき点はp.294「人間の心は一定量の愛情しか持たない。従って、対象の数が多くなれば多くなるほど、一つ一つの対象が受ける愛情は、それだけ分量が少なくなる」である。これを念頭に入れてから読んだ方が、効力は一層大きくなる。
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たぶん、ずっと「いま読んでる」
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・エピグラム
「誰にせよ、人間の心の中には、虎と豚と驢馬とナイチンゲールが住み着いている。人間の性格が多種多様なのは、これらの動物の活動が一様でないことに由来する」
・過去
「永遠」の一部分でありはするものの、われわれはそのまたごくわずかな部分を知っているにすぎず、しかも知っていることを後悔せざるを得ない。「過去」は、「現在」と呼ばれる絶えず動いてやまぬ一つの線によって、「未来」という名で知られている想像上の一時期と区分されている。「過去」と「未来」は、「永遠」の二大区分であるが、その性質は完全に異なっていて、前者は片時も休まずに後者を抹殺しつづけている。前者は悲しみと失望とで暗く、後者は繁栄と喜びとで明るい。「過去」は咽び泣きの領域であり、「未来」は歌声の世界である。前者にあっては、「記憶」が「粗布をまとい、灰をかぶって」うずくまりながら、悔悟の祈りをつぶやき、後者にあっては、「希望」が日の照り輝く中を思うがままに飛び廻り、成功の殿堂と安楽のあずまやへとわれわれを差し招く。にもかかわらず、「過去」は昨日の「未来」であり、「未来」は明日の「過去」なのであって、結局、両者は同一のもの──知識と夢であるにほかならない。
・たわごと
すばらしい出来栄えの本辞典に対して唱える異議の数々。
・誕生
数ある災難の中で、最初に訪れる最も恐ろしい災難。
さっき操作ミスでフォローを解除してしまったので、慌てて再フォローさせてもらった次第です。挙動不審なことをしてし...
さっき操作ミスでフォローを解除してしまったので、慌てて再フォローさせてもらった次第です。挙動不審なことをしてしまってすみませんでした(汗)
『悪魔の事典』文庫で出ていたのですね。知りませんでした。ratsさんのレヴューを読んで、俄然読みたくなりました。情報提供ありがとうございました。
あと遅ればせながら、進級おめでとうございます。学業のさらなる御発展を心からお祈りいたします!
最初は紅茶さんが二人!?とびっくりしましたが(笑)なるほどそういうことでしたか、納得です。
『悪魔の...
最初は紅茶さんが二人!?とびっくりしましたが(笑)なるほどそういうことでしたか、納得です。
『悪魔の辞典』ですが、私も最初に読んだのは筒井版の単行本でした。文庫では岩波と角川から出ているようです。こういう箴言の類はたまーに読み返したくなるものですよね。
おかげさまで無事進級できました。二年生の前期は時間に余裕があるので、専門に向けて自分の勉強の時間が取れそうです。もちろん読書時間も!
紅茶さんのレビュー、いつも楽しく拝見しております。これからもよろしくお願いします!
いつもratsさんのレビューを拝読するたびに、10代でよくもここまでの文章を書けるものだと感心させられま...
いつもratsさんのレビューを拝読するたびに、10代でよくもここまでの文章を書けるものだと感心させられます。(自分が読んだことのある作品にしか花丸を打たない方針なので、つけた花丸の数は比較的控えめですが、つけていないレヴューにも感銘を受けたものはたくさんあります。)「今時の若者はなってない」とか「これだからゆとりは」とかいう年寄りの繰り言がいかに偏見に満ちた根拠薄弱なものか、これだけでわかろうというものです。
こうしてお互いの存在を知ることができたのも何かのご縁でしょう。お互い邁進すべき本業は別にありますから、なかなか思うように読書が進まない時期もあるとは思いますが、これからもブクログを通してゆるーく繋がっていけたら良いなと思います。
お互いに、これからも素敵な書物との出会いに恵まれると良いですね。それでは!