どん底の人びと: ロンドン1902 (岩波文庫 赤 315-2)
- 岩波書店 (1995年10月16日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003231524
作品紹介・あらすじ
1902年夏、エドワード七世の戴冠式でにぎわうロンドンのイースト・エンドの貧民街に潜入したジャック・ロンドンが、「心と涙」で書き上げたルポルタージュ(1903)。救世軍の給食所での不衛生な食事、小さな靴工場の悲惨な労働環境-苛酷な世界に生きる人びとの姿が迫真の筆致で描かれる。著者撮影の写真数点を収録。
感想・レビュー・書評
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ジャック・ロンドンの作品はその描写が見事で、人間性や感受性がじつに豊かで面白い。机上で学んでも決して得ることのできない天性のセンスが備わっている人なのですよね~♪
そのような持ち前の才気で、イギリスのロンドン東・イーストエンド(貧困地区)に決死の潜入を試みています。一文なしのアメリカ人水夫(浮浪者)に身をやつした6週間のルポルタージュにハラハラして目が離せません!
金も仕事もなく、腹をすかせて朝から並んでも入れない救貧院、警察に追われながら――街中で寝ると蠅のように追い払われる――貧民街を夜通し彷徨い続けるジャック・ロンドン。やっとの思いでそこに入ると、獣の巣窟のような暗くて不衛生な場所に、ひどく餓えた人間がぎゅう詰め……あまりにも粗末な食べ物に胃も心も萎えます。
ホップ摘みの日雇人夫として働いても、哀しいかな一日の食事代にもならずまたしても宿無し。やせ衰えた子どもたちや小さな靴工場の悲惨な労働環境に言葉を失ってしまうロンドン……どこをみても完璧などん底!
「一夜の宿を求めて貧困者用の収容所に入れてもらおうと、寒く薄暗い午後にじっと待っている男女の姿はこの上なく物悲しい。私はもう少しで勇気がくじけそうになった。歯医者の入り口までやって来た少年と同じで、私は他の用事をあれこれ思い出した……」
普通の人々や富裕層が住むロンドンの西、ウエストエンドの平均寿命は55歳、5歳までの死亡率は18%。他方イーストエンドの平均寿命は30歳、5歳までの死亡率は55%。衝撃的な数字にびっくりします。
「私は彼のシャツの下に手を入れて触ってみた。皮膚は骨の上に羊皮紙のように張りついていて、触った感じは洗濯板の上を手でなでるのにそっくりだった」
ふと思い浮かぶのは、下層階級の世界を描きだしたイギリスの作家チャールズ・ディケンズの作品。彼自身も子どものころに過酷な労働を強いられています。おさない少年少女らが食うや食わずの生活をし、悲惨な煙突掃除(その憐れさをイギリスの詩人ウイリアム・ブレイクもせつせつと吟じている)をしたり、奴隷のような仕事をしたり……救貧施設から逃げ出して盗賊の巣窟に入り込んでしまうディケンズの『オリバー・ツイスト』は、とりわけ泣けちゃいます。
この本は1903年に出版されて反響をよんだそう。ロンドンのアメリカを贔屓目にしているような指摘にはかなり苦笑しますが、それでも彼の観察眼と大胆な指摘に目をみはります。
それから100年あまりたったいま、考えてみれば、戦争・内戦、野放しの市場原理、労働力の搾取や自然破壊、稚拙な社会システムやその管理不備などの様々な要因から、いまだ地球の半分の人間が餓えているという状況にあらためて気づかせてくれる感慨深い作品でした。
余談ながら、これに霊感を受けた『1984年』作者のジョージ・オーウェル。くしくもこの本が出版された年に誕生した彼は、その後『パリ・ロンドン放浪記』というルポルタージュを書いています。良書は良書を連れてくる! これも読んでみたいな♪ -
1902年当時のロンドンのイーストエンドのスラム街のルポ。イーストエンドに部屋を借り住みこんでルポをしている。アメリカから来た文無しの船乗り、ということにして住民たちと話をした。
ビクトリア女王が無くなり、エドワード7世の戴冠式の様子もジャックはトラファルガー広場で見物している。がイーストエンドの住人はほとんどイーストエンドに残って酔っぱらっていた、とある。
日本でいったら明治34年。東京でも裏長屋とかそういう場所はあるのだろうが、ジャックが書くイーストエンドは、夜も寝る部屋もない人がいたり、一部屋に夫婦とこども5,6人がいたり、残飯あさりをしたり、なかなか厳しい生活。貧窮院に行ってもひどい食事やそれに伴う労働とかがありなかなかに厳しい状況。
1902年、ある程度の文名と収入を得るようになり、ベスと家庭を持ち一児の父となった時期に、アメリカ新聞協会から南アフリカに行ってボーア戦争直後の状況をルポする仕事を依頼された。ニューヨーク経由でロンドンに着くと新聞社から南ア行きの取消の電報が届いたが、ロンドンのイースト・スラム街の探訪をする案がすでにあったのでこの本が生まれた。
6週間、住みこんでのルポだが、アメリカでは土地も広く、こんな狭いところには住んでいない、アメリカに行こうという気がいのない者がイーストエンドに残っている、というような一文がある。やっぱりアメリカのほうがいいや、という感情が見え隠れする。
原題:The People of the Abyss
1903発表
1995.10.16初版 図書館 -
・古本市でこれも30円で購入。
・「野生の呼び声」と「白い牙」の動物もの(どっちも大好き)で知られるジャック・ロンドンのノンフィクション。こういうのも書く作家だったんだな、とイメージ一新。
・簡単に言うと、100年前の「ニッケル・アンド・ダイムド」。著者がロンドンにあるイースト・エンドというスラムに身分を隠し変装して潜入したルポ。
・前半はホントに面白い。日英同盟締結のころのイギリスがこんなに歪んだ国だったのかと。価値ある内容。体当たりの取材が凄い。
・もちろん現代とは価値観が違うと思うのだけど、著者も当たり前のように貧困層を蔑視しているのに驚く。平気で「顔立ちも体付きも良いのに」などと書かれていて、貧困層は顔立ちすら悪いとされた時代なのかと。
・夜の街で立ち止まったり、ベンチで横になったりするだけで警官に追い払われる社会って、ちょっと想像が出来ない。
・後半は資料から数字を拾って論ずる内容になっちゃってて、かなり残念。著者は取材中も途中で身分を明かしたり、隠した金を使ったりと耐えられない様子をみせていたけど、後半は潜入取材やめちゃってるよ、と。
・いちいち垣間見えるのは、アメリカ人のイギリスに対するコンプレックスと優越感のないまぜになったような感情。かなり興味深い。 -
文章を書くことを、生活の糧にすることができ始めたアメリカ人が、ひょんなことからイギリスの貧民街での生活を体験するルポ。
貧しさと、そこから来る空腹には、祈りが少しも役立たない。どんなタイミングでここまでに至るのか、と思い読み始めたのだけれど、最初からここが人生という人たちが多い。そりゃ、最初はまだもう少しだけましなのだけれど、若い労働力は次から次へと供給されるし、効率よい仕事ができなくなれば、どんどんと降下していって、どん底にたどり着いたらもう浮上できない。いや、閉め出されたら浮上不可能な世界なのだ。
著者はその世界に入りすぎて、だんだんアメリカ人特有の陽気さが消えていく感じがした。後半はもう、新聞記事の写しのような描写が多くて、貧民街に入り込むのが嫌になってしまった結果、というのが読み取れた。 -
20世紀初頭の英国・ロンドンの貧民街が舞台のルポタージュで、作中には「どれだけ誇張してもこの凄惨な状況を伝えきれない」という描写が何度も出てくる。
産業革命が英国にもたらした負の側面を、下層階級に暮らす人々の視点から描き切っている。英国が階級社会であることも強く感じさせる、ロンドンへの幻想を綺麗にぶち壊してくれる名著。 -
2020年4月28日BunDokuブックフェアで紹介されました!
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社会主義派の作家による、貧民街潜入レポ。気が滅入るような1900年代初頭のロンドンの様子。著者の差別意識も垣間見られるが労働者たちがどのような状態にあるのか、その生活を具体的に描いている。やや同じ内容の繰り返しが多い。
これを読んだ後に飯を食うと食べ物のありがたみが増し、なんでもうまく感じる。