八月の光(下) (岩波文庫)

制作 : 諏訪部 浩一 
  • 岩波書店 (2016年11月17日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003232392

作品紹介

これはおれの人生じゃない-ともに過去に囚われた男と女。二人の愛人関係は女の殺害と男の素性の暴露、そして次なる惨劇を呼ぶ。事件の最中に無垢なるリーナは赤ん坊を出産。運命に翻弄される南部の人びとの光と影が鮮やかな、フォークナーの傑作長編。

八月の光(下) (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 下巻に入ってもまだクリスマスとミス・バーデンの確執(回想)は続く。しかし冒頭の破綻の日が来て、ミス・バーデンを殺害したクリスマスは逃走。呆然自失のままその逃避行がしばらく続くも、ある街でついに逮捕されてしまう。そしてこの街にいた老夫婦ハインズ夫妻によるさらなる回想、いやクリスマスという男の歴史の遡行があり、ついに彼の出生の秘密が明かされる。ここまで読んできて、クリスマスは可哀想だけど誰も悪くないと思っていたけど、いや、悪い奴いた、このクソジジイが元凶だ!(怒)

    一方で、自分を妊娠させた恋人ルーカス・バーチがとんだクズ男だと知らないまま、バイロン・バンチに保護されているリーナは、ついに出産する。リーナにプロポーズしたものの振られたバンチは、潔く身を引く覚悟で、リーナがルーカス・バーチ=ブラウンと再会できるように取り計らうが、もちろんルーカスはクズ男の本領発揮、またしても逃げる、逃げる。ここまでくるともうクズすぎて笑ってしまう。そして逮捕されたクリスマスは脱走を図るも・・・

    ここへきてずっとバイロン・バンチの相談役として地味に出続けていた老いた元牧師ハイタワーの祖父母まで遡ったルーツが語られる。正直本筋とは全然関係ないともいえるのだけど、こういう部分が多分フォークナーの魅力。たとえばクリスマスを射殺することになるグリムという男についても、無駄に生い立ちから語られるのだけど、なぜ彼が、そのような人間になり、ゆえにそのような行動をとる、という因果関係を、とことん解きほぐして明示されることで、おそらく読者はそこに物語の必然や宿命を有無をいわさず飲みこまされる。別の選択肢はない。クリスマスを殺すのはグリムでなくてはならないし、ハイタワーは何もなせずに発狂するしかない。

    終章、ゆきずりの旅人の語りとして、リーナと赤ん坊、そしてバンチのその後が語られる。クリスマスの死は悲劇的だけど、意外とリーナのほうは牧歌的なのがいい。リーナだって状況だけみれば決してすごく幸福な人生というわけではないのに彼女はとても幸福そうで、逆にクリスマスは確かに不幸な生い立ちながら幸福になるチャンスがなかったわけではないのに自らすべてをふいにしてしまった。うまくいえないけど「素質」ってあるのかも。リーナならどんな状況ででも幸せになれるだろう。そしてできればバンチくんの気持ちが報われますように。

  • “〈おれがほしかったのはこれだけだったんだ〉と彼は静かでゆっくりとした驚きのうちに思う。〈これだけを三十年ほしがってたんだ。三十年かけてほしがったのがこれなら、たいして欲張ったわけじゃないだろうな〉”

     求めてた静謐な孤独の中にいても“それでもなお、彼はその円の内側にいる”のは、あくまでそれは他の人から追い立てられることによって作り出された状況だからなんだろうか。
     ハイタワーもそういう意味では同じ?“私は自分自身に引っこんでいるように教えてーー引っこんでいるように教えられてーーきたんだ”という言葉からそれが感じられる。

    “誰も理由なんて必要としないでそうするのさ。”“あんたに男以上の頭があれば、女たちのおしゃべりに意味なんてぜんぜんないってわかるはずなのにね。おしゃべりを真に受けてしまうのは男たちだけなのさ。”

     クリスマスは周りからのレッテルから逃れようとして破滅して、ハイタワーは受け入れすぎて停滞。リーナは自由でいいなあ、という感じ。考えないでいられるって羨ましい。うまく行かないならいかないで割りきっていられる強さよ…。

  • 下巻はほぼ1日で読了。あーおもしろかった。
    訳者は、「最初に読むフォークナー作品としては、本書を勧めることにしている」そうだ。
    ヨクナパトーファ・サーガの一つだけれど、他の作品についての知識は不要なのでとっつきやすいようだ。

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