八月の光(下) (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003232392

作品紹介・あらすじ

これはおれの人生じゃない-ともに過去に囚われた男と女。二人の愛人関係は女の殺害と男の素性の暴露、そして次なる惨劇を呼ぶ。事件の最中に無垢なるリーナは赤ん坊を出産。運命に翻弄される南部の人びとの光と影が鮮やかな、フォークナーの傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • “〈おれがほしかったのはこれだけだったんだ〉と彼は静かでゆっくりとした驚きのうちに思う。〈これだけを三十年ほしがってたんだ。三十年かけてほしがったのがこれなら、たいして欲張ったわけじゃないだろうな〉”

     求めてた静謐な孤独の中にいても“それでもなお、彼はその円の内側にいる”のは、あくまでそれは他の人から追い立てられることによって作り出された状況だからなんだろうか。
     ハイタワーもそういう意味では同じ?“私は自分自身に引っこんでいるように教えてーー引っこんでいるように教えられてーーきたんだ”という言葉からそれが感じられる。

    “誰も理由なんて必要としないでそうするのさ。”“あんたに男以上の頭があれば、女たちのおしゃべりに意味なんてぜんぜんないってわかるはずなのにね。おしゃべりを真に受けてしまうのは男たちだけなのさ。”

     クリスマスは周りからのレッテルから逃れようとして破滅して、ハイタワーは受け入れすぎて停滞。リーナは自由でいいなあ、という感じ。考えないでいられるって羨ましい。うまく行かないならいかないで割りきっていられる強さよ…。

  • 下巻に入ってもまだクリスマスとミス・バーデンの確執(回想)は続く。しかし冒頭の破綻の日が来て、ミス・バーデンを殺害したクリスマスは逃走。呆然自失のままその逃避行がしばらく続くも、ある街でついに逮捕されてしまう。そしてこの街にいた老夫婦ハインズ夫妻によるさらなる回想、いやクリスマスという男の歴史の遡行があり、ついに彼の出生の秘密が明かされる。ここまで読んできて、クリスマスは可哀想だけど誰も悪くないと思っていたけど、いや、悪い奴いた、このクソジジイが元凶だ!(怒)

    一方で、自分を妊娠させた恋人ルーカス・バーチがとんだクズ男だと知らないまま、バイロン・バンチに保護されているリーナは、ついに出産する。リーナにプロポーズしたものの振られたバンチは、潔く身を引く覚悟で、リーナがルーカス・バーチ=ブラウンと再会できるように取り計らうが、もちろんルーカスはクズ男の本領発揮、またしても逃げる、逃げる。ここまでくるともうクズすぎて笑ってしまう。そして逮捕されたクリスマスは脱走を図るも・・・

    ここへきてずっとバイロン・バンチの相談役として地味に出続けていた老いた元牧師ハイタワーの祖父母まで遡ったルーツが語られる。正直本筋とは全然関係ないともいえるのだけど、こういう部分が多分フォークナーの魅力。たとえばクリスマスを射殺することになるグリムという男についても、無駄に生い立ちから語られるのだけど、なぜ彼が、そのような人間になり、ゆえにそのような行動をとる、という因果関係を、とことん解きほぐして明示されることで、おそらく読者はそこに物語の必然や宿命を有無をいわさず飲みこまされる。別の選択肢はない。クリスマスを殺すのはグリムでなくてはならないし、ハイタワーは何もなせずに発狂するしかない。

    終章、ゆきずりの旅人の語りとして、リーナと赤ん坊、そしてバンチのその後が語られる。クリスマスの死は悲劇的だけど、意外とリーナのほうは牧歌的なのがいい。リーナだって状況だけみれば決してすごく幸福な人生というわけではないのに彼女はとても幸福そうで、逆にクリスマスは確かに不幸な生い立ちながら幸福になるチャンスがなかったわけではないのに自らすべてをふいにしてしまった。うまくいえないけど「素質」ってあるのかも。リーナならどんな状況ででも幸せになれるだろう。そしてできればバンチくんの気持ちが報われますように。

  • 上下巻、共に読んだ。土地の空気や、血縁といったものを意識した評価が多い印象こそあるのだが、私の中ではフォークナーは、ジェイムズ・ジョイスや安部公房に近い印象がある。Wikipediaなどを見ていると中上健次や大江健三郎、阿部和重など錚々たる顔ぶれに影響を与えたということもあって、血の作家、南部の作家として読む人が多い印象があるが、私の中では完全に「意識の流れ」の作家である。ヨクナパトーファの土地のシリーズもので作品を作ってはいるものの、ヨクナパトーファ自体は架空の土地で、その架空の世界を舞台に物語が展開していくというこの世界観の作り込み方は、『皇国の守護者』にも比すべき、現代のファンタジーやSFの世界観の作り込みに近いものを感じた。

  •  フォークナーを読むたびに思うのだが、ヘヴィ・メタルという言葉に小説の対応語があるなら「ヘヴィ・ノヴェル」という表現が相応しい。文学の重たい方を担当しておられますよね。
     全体の構成はよく考えて配置された美しさがある。三人の主人公のそれぞれの役割、象徴するものと、副主人公格のバイロンとの関わりにとくにあらわれている。リーナは人間の生命力の単純に前進する強さ、ハイタワーは死と執着(停止)、クリスマスは孤独と習慣(円環)。
     クリスマスの滅亡は、古典悲劇のテンプレだから仕方ないのかもしれないが、気の毒だ。対照的に、リーナの楽観的な生命力は結末の救いになっている。

  • 分かりにくかった。
    最後に登場する「彼」とは一体誰なのか?
    読み進めて行く裡に主要人物の事だと明らかにされていくみたいだが、飲み込みが悪い自分にとっては一々判然とせず苦痛でしかなかった。
    リーナが目の前に現れて結婚を迫るも言い訳をするブラウンが一気に嫌いになり、女性と子供の責任を取れない男性は嫌いだと心中で罵った。
    一方、バイロンはリーナに振られても身の上を案じ、ブラウンを追うリーナと一緒にいる。
    この2人は実に好対照な人物である。
    クリスマスは殺害されて天罰が下ったが、ブラウンは何も御咎めなしで、2人の人生にここまで大きな差が出るとは少々納得がいかない。
    しかし、クリスマスと入れ替わるかの様に逃亡し続ける身になったブラウンはある意味不幸と呼んでもいいのかも知れない。
    それにしてもリーナの威風堂々たる様は天晴としか言えない。
    恐怖すら感じた。

  • 下巻はほぼ1日で読了。あーおもしろかった。
    訳者は、「最初に読むフォークナー作品としては、本書を勧めることにしている」そうだ。
    ヨクナパトーファ・サーガの一つだけれど、他の作品についての知識は不要なのでとっつきやすいようだ。

  • ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00234620

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著者プロフィール

一八九七年アメリカ合衆国ミシシッピー州生まれ。第一次大戦で英国空軍に参加し、除隊後ミシシッピー大学に入学するが退学。職業を転々とする。地方紙への寄稿から小説を書きはじめ、『響きと怒り』(一九二九年)以降、『サンクチュアリ』『八月の光』などの問題作を発表。米国を代表する作家の一人となる。五〇年にノーベル文学賞を受賞。一九六二年死去。

「2022年 『エミリーに薔薇を』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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