魔法の樽 他十二篇 (岩波文庫)

著者 : マラマッド
制作 : 阿部 公彦 
  • 岩波書店 (2013年10月17日発売)
4.11
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  • 8レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003234013

作品紹介

とりあえず、結婚だ。-宗教者をめざして勉強する青年は決断した。しかし現れた仲介業者がどうも怪しい。"樽いっぱい花嫁候補のカードだよ"とうそぶくのだが…。ニューヨークのユダヤ人社会で、現実と神秘の交錯する表題作ほか、現代のおとぎ話十三篇。

魔法の樽 他十二篇 (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 岩波文庫の新刊案内で発売を知り、即決。

    どの短編に出てくる人も貧しい。勤勉に生きているけれど、豊かさからはほど遠く、日々の暮らしに汲々としている。ナチスの迫害から逃げてきたユダヤ人というだけでは、アメリカでの豊かさが保証されるわけではないのは当然といえば当然なのだけれど、石川啄木の「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざり…」という短歌のように、ちょっとやそっとでは逃れようのない貧しさのなかに身を置いてしまった人々が描かれている。そして、そこへ飛び込んできた、同じく貧しい招かれざる客が引き金となる事件のかずかずは、読み始めから読後まで、すごく苦い感情を生む。同じ貧しさの中の感情を描いていても、O.ヘンリーなんかはよほどわかりやすく、10人いたら9人は軽く「ああ、よかったねえ」と思うようなあたたかな結末が用意されているものが多いのだけれど、マラマッドの短編はどれも、「ああ…そうなるのか…でもそれはどうしようもないことなんだよなあ…」と、登場人物が崩れていくのを、嘆息しながらじっと見守っているしかない。

    どの短編も淡々とした筆致ながら、状況の繰り返しや盛り上げが巧みで、終盤の切り返しからラスト数行が劇的で美しい。表題作の『魔法の樽』はシニカルさがナサニエル・ウェストの『孤独な娘』と似ているような気もしたが、最後の行の苦い余韻がまた見事というほかにない。ほかには、所用でイタリアに滞在するアメリカ人(正確には、第2次世界大戦の終結までにアメリカに渡った、ユダヤ人移民1世)を題材にした作品群が面白かった。うすうす感じてはいたが、第2次世界大戦の敗戦国であるイタリアに暮らす人からみれば、個人の所得レベルはどうであれ、アメリカ人は戦勝国の「リッチな」人々で、そのリッチさにすがりたい人間はイタリア人だけではなくても、「同胞」のユダヤ人にも掃いて捨てるほどいる。その切実であざといすがりつきに翻弄されるアメリカ人の様子が息苦しい。その追いすがる様子から逃げようとして、逆にとらわれていく立場の展開はミステリアスで鮮やか。『「ほら、鍵だ」』の、部屋のあるじの意趣返しも強烈だった。

    読書に明快さや爽快感を求めるかたには決しておすすめしないけれど、人生について回る、地味なつらさや弱さに目を向けることがお嫌いではないかたには、とても面白い作品集ではないかと思う。

  • とてもよい。

  • ニューヨークのユダヤ人移民たちが貧困に喘ぎながらどうにかこうにか生きる姿を、皮肉と悲哀を込めて描いた十三篇。冒頭の「はじめの七年」と最後の「魔法の樽」はいずれも縁談の話で、まあハッピーエンドと言えるけれど何ともほろ苦い。
    「ほら、鍵だ」「湖の令嬢」などでは彼らはイタリアに渡る。ここでも悲運と貧苦に責め立てられる。どの話もカタルシスは望めない。しかしうまい。何をやってもうまくいかない人々へのまなざしは優しく、描写には詩情がある。
    食事や慣習などユダヤ文化がよく描かれ彩りを添える。とはいえ移民の生活苦は出身民族を超えて共通だったのではないか。出版当時、多くの読み手が「これは自分たちの物語だ」と感じたことだろう。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、1階文庫コーナー 請求記号:933.7//Ma39

  • 独特な物語がたくさんの短篇集。
    とてもおもしろい。
    他の作品群も読んでみたい。

  • 白水社でたしか一冊読んだきりだったので、短編ということで購入。いわゆる、淡々とした人物描写をしてゆく作家ではあるが、そこにユダヤのイディッシュが入り込んでくる感覚が少し面白い。

  • 岩波文庫 080/I
    資料ID 2013200436

  • 短編集ですが、どの作品も、基本的には極悪人ではない普通の人だけどそれなりに卑怯だったり利己的だったり嘘つきだったりして、その上貧乏なのでなんとなく嫌な目にあったり誰かを嫌な目にあわせたりする・・・みたいなお話ばかりで、なんだかモヤモヤが残りました。人間の駄目な部分に関する観察眼は鋭いし、お話の作りも上手いのでするする読めてはしまうのだけれど、爽快感とか感動とかは全くなかったです。

    ぎりぎりハッピーエンドと解釈できなくもないのは「天使レヴィン」と「ある夏の読書」くらい。表題作の「魔法の樽」は、今でいういわゆる婚活中の主人公(27歳学生)が、結婚紹介人を通じて結婚相手を探す話なのですが、これは現代日本でも婚活サイトなんか使ったら同様のトラブル続出だろうなと思わせる妙なリアリティがあってそういう面は面白かったのだけれど、あまり主人公に共感してあげられないのでラストのオチも解釈がちょっと難しかった。

    ※収録作品
    「はじめの七年」「死を悼む人々」「夢にみた彼女」「天使レヴィン」「ほら、鍵だ」「どうか憐れみを」「牢獄」「湖の令嬢」「ある夏の読書」「請求書」「最後のモヒカン族」「借金」「魔法の樽」

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