青白い炎 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003234112

作品紹介・あらすじ

帝政ロシアで生まれ、亡命作家として生きたナボコフ(1899‐1977)。999行から成る長篇詩に、前書きと詳細かつ膨大な註釈、そして索引まで付した学問的註釈書のパロディのようなこの"小説"は、いったいどう読んだらいいのだろうか。はたして"真実"とは?諧謔を好んだ『ロリータ』の著者ならではの文学的遊戯に満ちた問題作。

感想・レビュー・書評

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  • まず目次を開くと、

    前書き
    青白い炎――四つの詩篇より成る詩
    註釈
    索引

    最後に少し小さな字で、解説、となっています。一見ふつう。本編詩篇の前後に前書きと註釈があるだけ。が、実は仕掛けがある。これ、前書きからすでに小説が始まっており、索引までが小説の中身。最後の解説だけは翻訳者の解説なので、それ以外のすべてがナボコフの書いた小説の構成要素なのです。

    まず小説内詩篇『青白い炎』の作者はジョン・シェイドというアメリカの老詩人。この詩人の遺作となる『青白い炎』出版にあたり、彼の隣の家に住んでいたチャールズ・キンボートという大学教授が、前書きと詳細な注釈および索引を付け加えたという体裁。

    ところがページをパラパラめくってビックリするのが、本編ともいえる『青白い炎』詩篇が英語との対訳を入れても150頁弱なのに対し、註釈はそのおよそ2.5倍くらいある。そう、実はこの本、詩篇は前振りにすぎず、注釈こそが本編であるといっても過言ではないのです。

    詩篇自体も良くできていますが普通です。詩人ジョン・シェイドは、かつて娘ヘイゼルを亡くしており、その経緯や、妻との絆、自身の回想や風景描写、死生観などが綴られ、ある意味詩人の半生が折り込まれた自伝的な詩になっています。

    その詩になんとキンボートは註釈の名目で、おそるべき膨大な「自分語り」を付しているのです。しかもそれが、おそらくすべて妄想ときている!

    前書きの時点で、ちょっとヤバい人だなというのは匂わされているんですが、とにかくこのキンボートが読み進めるにつれてどんどんヤバさ爆発。まず彼はゼンブラという北方の王国の話を始める。チャールズ最愛王と呼ばれた最後の王。その両親の話から、同性愛傾向、中年になってから迎えた若き妻との不和など。やがてゼンブラでは革命が起こり、王は忠臣たちの協力で命がけの逃避行をする。そして逃げ延びた王はやがてアメリカに渡り大学教授になりすます。そう、このチャールズ王の半生とは、キンボート自身の経歴に他ならない。

    ありもしないゼンブラという国について、彼は風景から風習から言語まで詳細に語る。そしてそれを、敬愛する老詩人シェイドに散歩のたびに話してきかせたらしい。シェイドは楽しく聞いてきいてくれたようだ。キンボートは、このゼンブラと国王(自分)の話を、シェイドが詩にしてくれるものと思い込み、楽しみにしていた。

    だが、王の暗殺をたくらむゼンブラの影の軍団が、暗殺者グレイダス(またはジャック・グレイ)を送り込んでおり、彼は着々とチャールズ王を追ってくる。キンボートは、このグレイダスの足跡もまるで見てきたことのように詳細に書く。

    キンボートは大学の同僚やシェイドの妻シビルからは、頭のおかしい妄想狂と思われており、シビルはキンボートを「寄生虫」よばわりするほど嫌っている。シェイドの誕生日に、キンボートだけ呼ばなかったりという意地悪もする。キンボートはキンボートで、隣に住んでいるのをいいことに、窓から詩人の部屋を覗き、彼の仕事ぶりを眺めては悦に入っている。

    キンボートは自己弁護を書き連ねるが、読者から見てもどうやらキンボートのほうが圧倒的に不審者であり、新種のストーカーにつきまとわれている詩人を心配する妻シビルのほうが正常に思えてくる。そういう部分も含めて、キンボートは延々とそれらの私情を、シェイドの詩の註釈として書き連ねていくのです。まじ怖い。

    そしてここからネタバレですが、終盤でついに、暗殺者グレイダスがキンボートの家に到着する。ちょうどそのとき、キンボートは完成した「青白い炎」の原稿をシェイドから受け取って、読ませてもらおうと一緒に戻ってきたところ。だが暗殺者の銃は、チャールズ王=キンボートではなく、詩人ジョン・シェイドを撃ち殺した…。

    このことについてもキンボートは、暗殺者がポンコツなので間違えて王ではなく詩人を殺してしまった、関係者はそれを隠蔽した、と言い張る。だがどうやらこのグレイダスは、現実には精神病院を脱走してきたジャック・グレイという男で、最初から詩人を殺しに来ただけのようだ。そもそもキンボートがゼンブラ国王だというのも妄想だし、暗殺者などいるわけがない。どの時点でかは不明ながら、詩人が殺されたときにキンボートが辻褄合わせに作り出した設定が自分を狙った暗殺者だったのだろう。

    とにかく構造が複雑。一体どこから読んだものやら戸惑うけれど、詩と註釈のページ数対照はあまり気にせず、順番通り普通に読むのが一番無難かもしれない。

    解説を読むと、この本の語り手については、シェイド、キンボートそれぞれ説と、どちらか一人が実は全部語ってる説があるそうだ。ふつうに読めば、シェイドの詩の部分はシェイドの作品として読み、彼がゼンブラのことを詩に書いていると思い込んでいたキンボートが実はそうでなかったことを知ってショックのあまり無理くりシェイドの詩にゼンブラを結びつけた註釈を付け加えたと思われる。

    個人的には、シェイドの詩はそのままとして、実はキンボートと暗殺者グレイダスが同一人物なのでは?と想像した。というか、精神病院のジャック・グレイが、敬愛する詩人を殺したあと、もしくはその前に、妄想で創り上げた物語があの註釈で、キンボートのほうが実は実在しないのでは?と。

    シェイドの詩篇の中に「難解な未完の詩への註釈としての 人間の生涯(939行目)」というフレーズがあるのも気になる。とにかく複雑な本。ちょっとした奇書。いろんな解釈やいろんな読み方ができると思う。ナボコフすごい。

  • あー。厄介な本。

    殺された詩人ジョン・シェイドによる遺作の詩
    と隣人である文学者キンボートによる膨大な注釈。
    注釈には、かつてあったゼンブラの最後の王の物語が語られる。

    うーん。最初は詩を読みつつ、注釈を読んでいたのだが、
    途中からは注釈だけを読むことに・・・。

    何もないところから、何かを読みとるというのは、
    電波系だったり、陰謀論者の常套。
    キンボートは、ジェイドに語ったゼンブラの物語が、
    詩の主題だと信じて、必死でそれを見つけようとする。
    これって文学者たちへの揶揄?

    で、さらに最後にひっくり返る、
    というか苦労して読んた本を投げたくなるような悪巧み。

    あー、厄介な本だ。

  • 大学3年生のときアメリカ文学の集中講義で扱った作品。とてつもなく難解で、1人で読むのなんて絶対諦めていただろうから授業を受けてほんとうにいい機会だった。ナボコフは本当の天才、こんなのナボコフ以外に理解できた人いないのでは。この授業でかけがえのない友人ができたことがいちばんの幸運だった。

  • 予備知識なしで読み始めて、めちゃくちゃ驚きました。
    なんだ、これ??

    膨大な註釈…しかも勝手な思い込み。笑。
    突っ込みが追いつかない。
    こんな書き方があったのか…すごい。面白い。
    衝撃を受けました。

  • 3.77/244
    『帝政ロシアで生まれ,亡命作家としての生涯を送ったナボコフ(1899-1977).999行から成る長篇詩に,前書きと詳細かつ膨大な註釈,そして索引まで付した学問的註釈書のような体裁のこの〈小説〉は,いったいどう読んだらいいのだろうか.はたして〈真実〉とは? 諧謔を好んだ『ロリータ』の作者による文学的遊戯に満ちた問題作.』(「岩波書店」サイトより▽)
    https://www.iwanami.co.jp/book/b247592.html


    原書名:『Pale Fire』
    著者:ウラジーミル・ナボコフ (Vladimir Nabokov)
    訳者:富士川 義之
    出版社 ‏: ‎岩波書店
    文庫 ‏: ‎592ページ

    メモ:
    ・20世紀の小説ベスト100(Modern Library )「100 Best Novels - Modern Library」
    ・死ぬまでに読むべき小説1000冊(The Guardian)「Guardian's 1000 novels everyone must read」
    ・オールタイムベスト100英語小説(Time Magazine)「Time Magazine's All-Time 100 Novels」

  • 宇多田ヒカルが読んでいた
    夕凪(ghost)という曲を書く際中

    カントスが一番好きらしい

  • 原題:Pale Fire (1962)
    著者:Vladimir Nabokov(1899-1977)
    訳者:富士川義之(1938-)

    【書誌情報】
    通し番号 赤341-1
    ジャンル 岩波文庫 > 赤(アメリカ)
         日本十進分類 > 文学
    刊行日 2014/06/17
    ISBN 9784003234112
    Cコード 0197
    体裁 文庫・並製・カバー・584頁
    定価 本体1,200円+税
    https://www.iwanami.co.jp/book/b247592.html

    【メモ】
    ・日本ナボコフ協会 
    http://vnjapan.org/main/index.html

    ・ウィキ
    https://en.wikipedia.org/wiki/Pale_Fire

    【感想】
     1984年の〈世界文学大系 第81巻〉を富士川(氏)本人が改訳したバージョン。私が購入したのは第2刷(2018年8月6日発行)。2018年には作品社から新訳が刊行されることもあり、読む。
     メモを取りながら読んでいても脳味噌とろけそうだ。

    【目次】
    目次 [003]
    献辞 [006]
    題辞 [007]

    ○ 前書き(チャールズ・キンボード 1959年10月19日、ユタナ州シーダレ) 009
    ○ 青白い炎――四つの詩篇より成る詩 037
      詩章第一篇 038
      詩章第二篇 062
      詩章第三篇 110
      詩章第四篇 158
      「青白い炎」詩章への訳注 [182-184]
    ○ 註釈 [185-540]
    ○ 索引 [542-558]

    解説(2014年5月) [559-584]
      1  559
      2  563
      3  570
      4  579

  • 宇多田ヒカルが読んでいた
    夕凪(ghost)という曲を書く際中

    カントスが一番好きらしい

  • 2017年11月12日に紹介されました!

  • 2016/10/10購入

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著者プロフィール

ウラジーミル・ナボコフ(Владимир Набоков, Vladimir Nabokov)
1899年4月22日 - 1977年7月2日
帝政ロシアで生まれ、ヨーロッパとアメリカで活動した作家・詩人。文学史上、亡命文学の代表者とされることもある。昆虫学者としての活動・業績も存する。
ロシア貴族として生まれたが、ロシア革命後の1919年に西欧へ亡命。ケンブリッジ大学に入学し、動物学やフランス語を専攻。大学卒業後にベルリンで家族と合流して文筆や教師などの仕事を始める。パリを経て1940年に渡米、1945年にアメリカに帰化。1959年にスイスに移住し、そこで生涯を閉じた。
ロシア時代から詩作を開始。ベルリン、パリにおいて「シーリン」の筆名でロシア語の小説を発表して評価を受ける。パリ時代の終わりから英語による小説執筆を始めた。渡米後も英語で創作活動を続け、詩・戯曲・評伝を記すだけでなく翻訳にも関わった。
代表作に、少女に対する性愛を描いた小説『ロリータ』。映画化され、名声に寄与した。ほかに『賜物』、『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』、『青白い炎』、自伝『記憶よ、語れ』。

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