イタリア紀行(上) (岩波文庫 赤405-9)

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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003240595

感想・レビュー・書評

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  • ゲーテのイタリア旅行記ですね。
    ゲーテ(1749ー1832)はワイマルでの煩瑣な生活からのがれるため、長年の憧れの土地イタリアへ旅立つ。
    『この紀行の原拠となったのは詩人の旅行中における書簡および日記である。』と、翻訳者の相良守峰さんは綴られています。
    ゲーテの起死回生の旅行はゲーテの古典主義の完成と、その後の文学活動に多大な影響を与えました。
    この旅行記は三冊構成です。
    「上」巻は以下の旅路。
     カールスパートからブレンナーまで(1786年九月)
     ブレンナーからヴェロナまで(1786年九月)
     ヴェロナからヴェネチアまで(1786年九月)
     ヴェネチア(1786年九月および十月)
     フェララからローマまで(1786年十月)
     ローマ(1786年十一月から1787年二月まで)
    ゲーテの関心がまるで古美術研究家のような風貌を持つこの旅行記は、ゲーテのまた自然の忠実な探求者の側面を持っていて、知的で観察力と洞察力を駆使しての著実に深く興味をそそられます。
    とにかく面白ですね。

  • 読書という脳内旅行に夢中になっているうちに、はや5月。
    草花の香りで空気も優しくなってくると、憧れのイタリアへ行ってみたくなります。とくに南イタリアやシチリア島へ!

    『若きウェルテルの悩み』で欧州中にその名を馳せたゲーテは、ワイマール公国の宰相の仕事や宮廷のさまざまなしがらみに疲れはて、ふと気づけば迷い多き人生の道なかば……ゲーテ38歳、大人の思春期かな?(今でいう中年の危機、ミドルエイジ・クライシス)。

    1786年、ゲーテは憧れの芸術の都イタリアへ向けて飛び出します。逃げる、逃げる、ひたすら逃げる……忽然と消えたゲーテ、世間は唖然とし、さぞや驚天動地の騒ぎだったことでしょう。ヨハンという商人の名で2年近くイタリア全土を旅したゲーテは、まるでちりめん問屋の水戸黄門。あまりにも痛快で、やることなすこと破天荒なので大笑いの私です。

    でもこの紀行(日記)を読んでみると、はじめのころは確かに危うい精神状態です。しかしイタリアの新鮮な空気を吸って息を吹き返し、すっかり萎えた双葉も美味い水をえてぐんぐん成長していくように、ゲーテのもつ天性の明るさ、快活さ、率直さといったものが伝わってきます。なんといっても舌をまくのは、彼の尽きない好奇心。まるで美術研究家のように絵画や建築物を見てまわり、山に這いのぼる鉱物学者のように珍しい岩石や火山の溶岩を蒐集します。そうかと思えば、植物学者のように自然や植物をじっくり観察してデッサン……たぶん普通の人の10倍くらい楽しんでいますね。とにかくやってみないと気がすまない実践派、憧れちゃうな。
    また『オデュセイア』の主人公オデュセウスが訪れたシチリア島に渡ったゲーテは、その作者ホメロスのことを身近な親しい友のように書き残していて、これまた興味深いです。

    「ホメロスに関しては、眼のおおいがとれたといった観がある。描写でも比ゆでもいかにも詩的な感じをうけ、自然味を有し、しかも驚くほどの純粋さをもって書かれている……描かれた対象を眼のあたりに見て、私はなおさらその感を深くした。私の考えを手短に述べると、彼らは存在を描写し、われわれは通例効果を描写する、彼らはものすごいものを表現したが、われわれはものすごく表現する。彼らは愉快なものを描き、われわれは愉快に描くのである……」

    旅行記や旅行者についても、ゲーテはおもしろいことを言っています。

    「人格、目的、時勢……これは皆その人によって違うものだ。ある旅行者に先進者があるのを知っていても、やはり私はその旅行者の言に喜んで耳を傾け、やがてさらに後継者の出てくるのを期待するであろう。そしてそのうちに運よく自身でその地方へ旅行できた場合には、私はこの後継者にも同様に親しい気持ちで接したいと思っている」

    これを読んでいると、脳内旅行の「読書」にも同じことが言えそうです。というのも、一冊の本を読むということは、作者と戯れながら時空を駆け巡る旅と同じで、その読み手の個性、感受性、本と出会った年齢や人生のふとしたタイミング、あるいはそれを紹介してくれた大切な人や好きな作家や映画……あまりにも多様で、みんな違っていてすごくおもしろい。
    「ある本」を読んだ先輩がたくさんいることを知ってはいても、目の前の「ある本」の読者のレビューを私は愉しく読むでしょう、運よく「ある本」を私も読めたとしたら、「ある本」を手にした後の読者にも親しみをおぼえるはず。そしてそのレビューを――本の賛否はあるど――きっと楽しむことでしょう。一冊の本を通じて過去から現在そして未来へと緩やかにつながるのは、今さらですが、時間も空間も言葉も超えていて、よくよく考えてみるとなんとも不思議でわくわくする体験です。

    久しぶりにゲーテと遊んだ愉快なイタリア旅行でした。さて本作は上・中・下巻と大部になっているものの、下巻はイタリアを南下したゲーテが、シチリア→ナポリ→ローマと北へ折り返してきて、再びローマに入り、10か月滞在します。連日、絵画鑑賞、画家による絵画のトレーニング……と、あいかわらず快活でなんとも羨ましい高等遊民!  ということで、全体的に少しまどろっこしいので、解説付の上巻と中巻を眺めるだけでも愉しめると思いますよ♪
    ***
    残念なのは、出版社の岩波がもう少し気を利かせて欲しかったこと。ゲーテの足跡をたどりながら、主だった資料や写真を掲載してくれれば、もっと親近感が持てるはず……今後に期待したいです!

  • やっぱり頭のいい人は、観察力と好奇心がすごいなあと思いました。当時のイタリアをゲーテと一緒に観て回っているみたいで楽しいです。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/707940

  • ゲーテが1786年から1788年の二年間イタリアを旅したうち、レーゲンスブルクからローマの旅行記。
    ベローナのアレーナの神殿の建築様式の言及や、全てが巨大で決して大都市向けではない7つの丘からなる世界の首都ローマの記述にうなづく。ゲーテの頃から変わらず今もサン・ピエトロ大聖堂には賛美歌が響き、法皇のミサが行われ、システィナ礼拝堂の最後の審判は力強く鮮やかである。コロッセオに住み着く人がいて煮炊きの煙がアリーナに流れたという記述が面白い。永劫の都。

  • 本書は文豪ゲーテがイタリア滞在中に書いた日記をもとにした紀行文です。旅立った時ゲーテは37歳。恋と仕事に疲れ果て、期間を定めず身分すら偽って憧れの地イタリアに向け出発した、いわば「自分探しの旅」でした。ゲーテの目を通して描かれるイタリアの情景は瑞々しく躍動感に溢れており、読後はきっとイタリアを旅してみたくなると思います。
    (人間行動システム専攻  M2)

  • 前半は地質紀行としても第一級。ただ後半のローマ滞在のところは紀行というよりは思索的・抽象的な記述が多く読むのが大変だった。でもこの思索からのちにたくさんの傑作が生まれたのだろう。わたしのような凡人には、この偉大な詩人は全く理解できず。

  • 出口治明著『ビジネスに効く最強の「読書」』で紹介

    ゲーテが旅したイタリア。ワイマールでの暮らしを離れ、芸術家としての自分を取り戻す。

  • 1786年9月3日、カールスバートをお忍びで出発してから、ローマからナポリに向けて出立するまでのイタリア旅行記。幼少期以来培われてきたイタリア、あるいはローマに対する憧憬によって突き動かされているかのようにゲーテはイタリアに対する思いを綴っている。もっとも、フィレンツェには「3時間」しか滞在せず、アッシジについても記述が少なめであったりと、ゲーテが憧れるイタリアは今日の人間が思い浮かべるものといささかずれているようにも思われる。滞在地の中で最も記述が割かれているのはヴェネツィアとローマであるが、ルネサンス期の絵画や寺院、古典古代の建築物や石像についての記述の他にも、道すがら見える山地の鉱物について詳しく記述したり、ローマで『イフィゲーニエ』や『タッソー』の推敲にまい進するなど、ゲーテならではの記述も多い。また、ローマ滞在中の記述では、ヴィンケルマンに思いを馳せるなど、18世紀ドイツの文化人ならではの記述も姿を見せている。この本では、イタリアの文物や風俗に対するゲーテの見解が分かると同時に、当時のドイツの知的状況についても一定の知識を得られるだろう。

  • (1990.09.05読了)(1990.06.17購入)

    ☆関連図書(既読)
    「牧夫フランチェスコの一日」谷泰著、NHKブックス、1976.08.20
    「不思議の国イタリア」堀新助著、サイマル出版会、1985.10.
    「ヴェニス 光と影」吉行淳之介文・篠山紀信写真、新潮文庫、1990.08.25
    「世界歴史紀行 イタリア」永井清陽著、読売新聞社、1987.12.27
    「イタリア民族革命の使徒 マッツィーニ」森田鉄郎著、清水新書、1984.10.20
    「概説 イタリア史」清水廣一郎・北原敦著、有斐閣選書、1988.04.25

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著者プロフィール

ゲーテ

Johann Wolfgang Goethe 一七四九―一八三二年。ドイツのフランクフルト・アム・マインに生まれる。ドイツを代表する詩人、劇作家、小説家。また、色彩論、動植物形態学、鉱物学などの自然研究にも従事、さらにワイマール公国の宮廷と政治、行政に深く関わる。小説の代表作に『若きウェルテルの悩み』『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』など。

「2019年 『ファウスト 悲劇第二部』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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