ミヒャエル・コールハースの運命―或る古記録より (岩波文庫)

著者 :
制作 : 吉田 次郎 
  • 岩波書店
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本棚登録 : 41
レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (114ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003241615

感想・レビュー・書評

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  • 読後の乾燥・印象が、ほぼ全て”あとがき”に含まれていたけれど、一応箇条書きにしてみます。
    ・無茶苦茶に正義感が強い主人公。その割には理論的で慎重。その後の激変ぶりを強調する為か、正当化する為か? 
    ・作者自身の投影という面が強いとのことで、少し納得。
    ・終始 ”脚本を読んでいる”ような感じ。著者の小説の中では最も客観的に描かれた作品との事なので、なるほどと。
    ・それでも、登場人物たちの情感・煩悶などが伝わって来るのはさすが。
    ・私憤から正義に転嫁し、暴虐の限りを尽くしておきながら、いつの間にか民衆から贖罪を免れるよう願われている。
    ・そのタイミングで占い師?が魔術的な力を発揮、みごと主人公の望みを果すに至る。作者の願望・幻想?で作品化されている?
    ・主人公の絞首刑のシーンが1行に収まっている。ここまで来ると潔い。返ってあれこれと想像させられる。
    ・旧仮名遣い、旧漢字で、改行無し、びっしり文字が詰め込まれているので、読書中に割込みが入ると ”どこまで読んだんだっけ?” で結構困る。しおり、役立たず。
    ・文章を読むこと自体に結構神経を使ってしまうが、意外と小説的に面白かった。
    ・普段は使っていない脳みそも使った感じ。ある意味新鮮な時間を過ごせたので、星1つプラス。

  • 読んでいるとコールハースに感情移入したくなるはずが、なぜか入り込めなかった。
    作者の常に冷静な視点からの描写ゆえか?
    単に自分に合わなかっただけかもしれないけど。
    端正な表現と旧字体がマッチしてて、すごく好感度は高いのだが…。

  • 博労のコールハースが貴族から受けた不当な仕打ちに対して、正義感から復讐の鬼と化し、裁きを受けるまでの記録。

    群盗を引き連れ、貴族の引き渡しを求めて町々を襲撃する前半と、訴訟・政治に巻き込まれコールハース本人より周囲の諸侯・貴族が混迷の渦中に巻き込まれていく後半部分とに大きく分かれる。

    コールハースは全くの正気で、キリスト教的倫理ではなく己の信念を貫いて復讐を貫徹する。
    郊外の博労が、ちょいと群盗を引き連れただけで、国の軍隊を撃退したり、町々を恐慌のどん底に陥れることができるのは、逆にこの時代の牧歌的な雰囲気が漂ってきて、何とも面白い。

    後半は己のごくごく初期の要望を実現するための訴訟が主軸のはずが問題が飛び火して、当初の復讐を果たすだけでなくいつの間にやら選帝侯に対する復讐劇にすり替わってしまうのが何だか妙な展開。

    物語の展開が二転三転して面白く読めることは間違いないのだが、そのあたりの流れの不自然さもあり★4つとする。

  • 【作家の読書道:第35回 モブ・ノリオ】なので読んで る。

  • 正義/悪行・慈愛/残虐性が、妥協点もなく一人の人物に並んで置かれている時、矛盾した人間像とかいってもいいのでしょうけど、それ以外に人間を描写する方法はないような気もします。や、わかんないけど。
    岩波の旧字體好きの方にはおすすめです。

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     クライストの紹介。彼は15歳にして軍籍に身を置く。尤も貴族の子弟が軍籍に入るのは当時の慣わしだが。20歳で少尉。その頃カントとルソーに傾倒し、自らの理性で感性を決める啓蒙思想に影響を受ける。22歳で軍隊を辞し、学問の道へ。しかし「学問だけの道のいかに面白くないことか」と云うに至る。婚約解消や学問的挫折を経て、絶対的認識の不可能、啓蒙思想への絶望をする。パリに姉と移りナポレオン下の退廃的な世界を見てルソーの「自然に帰れ」に傾倒する。スイスはベルンの農家へ移り実践する。そしてここから書き始めたとか。ドイツに帰国後ほそぼそと執筆活動を続ける。ナポレオン戦争下ナショナリズムに目覚め新聞を発行。自らの創作で実社会を動かそうとしたがその戯曲の上演は許されなかった。生前に正当な評価を受けることもなく、窮乏とナショナリズム運動の挫折のうちに34歳で自殺した。
     『ミヒャエル・コールハースの運命』はクライストの数少ない作品の中で、最も分量が多く、また最も有名な作品だ。現在の出版事情では致し方ないのかもしれないが絶版だ。近年まで岩波文庫に所収されていたらしいが、古本屋を回ってもあまり見かけない。新刊を売る書店では一冊一万円近い全集(おそらく余程大きな書店でも店頭には置いていないから注文するしかないだろう)と岩波文庫『こわれがめ』でしかクライストを読めないのは哀しいことだ。
     これは激烈なる小説だった。主人公のミヒャエル・コールハースが壮絶な生き方をする、いや、してしまう。解説の言葉を借りるとこうだ。「クライストが古記録から受けた創作への第一衝動は何であつたかといへば、それはやはり主人公の正義心の極點にまで突き進むはげしさ、異常さ、徹底性といつたものではあるまいか。この物語の時代は市民社會の隅々にまでゆきわたつてゐるやうな時代ではなく、コールハースのとつたやうな行動が或る程度まで行はれるやうな時代ではあらうが、それにしても、少しでも妥協を考へる人間なら思ひとどまるに違ひないところをコールハースは正義を踏みにじられた憤りと汚された正義を囘復しようとの一念から世の既成秩序を打ち破る行動に出て、遂にほろんでしまふ。人間の常態を突き破つたこの情念のすがたと、その辿る運命の行路とに作者の心が強くひかれてゐるのが感ぜられるのである」
     個人が国家によって法で保護されず、自分が法に保護されないから、無視された存在であるからと云って、自らの汚辱を払拭する「正義」の戦いを起こしたコールハースの無理と暴走は人道的に首肯できないけれども、分かる気がするのだ。自らを滅ぼしてまで正義を貫く気持ち、これは社会的弱者が自らの正義を圧迫してくる強者に立ち向かうには必要なのだ。命の重みが地球より重いとか、人間の命が皆平等だとかいくら叫んでも社会的に見て絶対に人間の命の価値は一緒じゃない。私だって一緒だと思いたいし、それが理想的なのは分かっている。それなのに、社会はそうは思わない。一個人が理不尽な抑圧を受けた時にいかに立ち向かうか。それを考えずにはいられない小説だ。この小説が極めて優れていると感じるところはそれだけでなく、神聖ローマ帝国の特殊性(後進性とか選帝候の諸事情とか)、宗教観(この小説の登場人物にルターがいるのだ)などを用いて、今で云うドイツの国家の枠組みを鮮やかに描き出したことだ。私は作品だけでなくクライストその人にも同情を禁じえない。例えば婚約者に良妻賢母教育を施そうと思って『思考力鍛錬の為の問題集と解答例』なる厳粛な道徳を大真面目に説いたことなどは、一笑に付するのは現在の世の感覚では簡単だろうけど、文学への高い志と貴族の名門意識の強力な彼は神経質でそのくせ影響を受けやすく、更に傷つきやすい。そんな彼の性格を思うと全然笑えないのである。滅んでいく人間の哀しさが昇華された時、やはりそれは美しいと思わざるを得ない。彼は破滅してしまったが、生きている我々が彼の文学から学ぶものは多い。

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