魔の山〈下〉 (岩波文庫)

制作 : 関 泰祐  望月 市恵 
  • 岩波書店
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レビュー : 30
  • Amazon.co.jp ・本 (690ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003243374

感想・レビュー・書評

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  • 上巻からは想像できないくらいの死。ナフタが登場してセテムブリーニとの宗教論争、政治論争、平和論争が延々と続き、終盤のペーペルコルンの登場で突然円周率の計算についてのご託がはじまって、ひょっとしたらハンス・カストルプの将来の姿かと思わせる。初読のときラストが衝撃だった。物語としては「ブッデンブローク家の人々」の方が面白いかもしれないが、サナトリウムで展開される人間模様が切れ目のない、否もしかしたらあらゆる所に切れ目があるような構造を持っているので、漱石の「我輩は猫である」のような読み方が可能かもしれない。

  • 下巻に入ると俄然興味深くなってきた。フリーメーソン会員であるセテムブリーニとイエズス会士のナフタによる論戦は20世紀初頭の時代精神を感じさせるし、そうした形而上学的議論を吹っ飛ばすペーペルコルン氏のわかり易い器の大きさとその退場の仕方は現代的だ。物語は「人間は善意と愛を失わないために、考えを死に従属させないようにしなくてはならない」という言葉が感動的な「雪」の章の後、緩やかに下山するかの様に死の景色が強くなるが、先の言葉を思い返すことでその景色を越えていくのだ。そして物語の時は止まり、私達の時が動き出す。

  • 本当に世界最高傑作とよんでいい大作。

    ヨーアヒム•チームセン、ペーペルコルン氏、圧倒的な一人一人のキャラクター。

    そのような一人一人と過ごす時間がずっと続いて欲しいと思うが、これまた圧倒的なフィナーレを迎えてしまう。

    大学生諸君に読んでいただきたい。

    そうして、十年ぐらいしたら、再読してみて欲しい。

    素晴らしい感動が待っているよ。

  • いやー難しい。50%も理解してない気がする。
    抽象化して抽象化しての感想を言うと、
    なんの制限や規範もない中で、
    有意に、豊かに生きることは重労働だなぁと。
    なぜなら自由は人を退廃化させるから。
    無規範は退廃。退廃とは死。
    一元的にならず、総合的に進歩していくこと。偏らないこと。
    それが生きるということ。
    自然に従順なのは動物。理性に従順なのは機械。その真ん中が人間ということかなぁ。
    そして、人間らしさの源は感性。
    磨くためにはまず意志がいる。水遣りを怠らないこと。
    企業で生きない自分にとって、
    重要な内容だった。また機会があれば読みたいと思う。

    「道徳を理性と徳操の中に求める人文主義者の目には、すでに救われない人間として映っていただろうか」

    「老子は、無為は天地間のあらゆるものよりも有益であると考え、すべての人間が行動することをやめたら、地上には完全な平和と幸福とが訪れるだろうと説いている」

    「人間はもともと善良で幸福で完全であったのに、社会的欠陥の為に歪められそこなわれたのみであって、社会機構を批判し改善することによって、再び善良に幸福に完全にならなくてはならない」

    「喋ったり、意見を持ったりすることからは、混乱が生じるだけだ。僕達から言わせると、僕たちがどんな意見をもつかは問題ではなくて、信頼できる人間かどうかが問題。はじめから意見などは少しも持たずにいて、やるべきことを黙って実行するのが一番いいんだよ」

    「肉体的な美は愚劣そのもの。魂と表現の世界から生まれたものは常に美しいために醜態」

    「人間のためになるのが真理です。自然は人間の中に要約されています」

    「キリスト教的世紀のすべては、自然科学が人間にとって無価値であるという点で完全に一致した考えを持っていた」

    「教育の目標は絶対命令、絶対服従、規律、犠牲、自己否定、人格の抑制にある。青年の深い喜びは従順です」

    「対立しあうものは調和しあいます。調和しあわないのは、中途半端な不徹底なものだけです。」

    「真に自由と人間性とに到達するためには、【反動】という概念にびくびくしなくなることが第一歩です」

    「彼の考えが私の考えと違っていて、対立的であることが、私にとって彼と話しあう魅力になっているんです。私は摩擦を必要としています」

    「自分の考えを主張しないこの慇懃な如才なさは、彼が育った文化に自信がないからではなくて、むしろ文化の強固な価値を意識していたからであった。」

    「自分にとって奇怪に感じられる習俗に接してもそれを奇異に感じる気持ちを見せまい」

    「病人は病人であり、病人なみの体状と弱い感性を持っているだけであって、病気は病人を衰弱させ、病苦をそれほど苦痛と感じさせなくさせ、体の感性的減退、喪失、ありがたい麻痺、精神的と道徳的な順応と軽減現象を招く」

    「行為や行動においては決定論がもちろん成り立ち、そこには自由はありえないが、人間の本性には自由がある。人間はかくあろうと欲した通りの人間であり、滅びるまでかくあろうと欲してやまない」

    「徳と理性と健康が軽視されて、悪徳と病気が不思議に尊敬されている世界に近づくことはできない」

    「人間性、高貴性、自然からすっかり離脱してしまい、自分を自然と全然反対の存在と感じている人間を、他のあらゆる有機生命から区別しているのは精神である」

    「進歩というものがありえるならば、それは病気だけが与えるものであり、天才だけの賜物。天才とは病気に他ならない」

    「客観的真理を追究することを人間の倫理性の最高の法則であると考えている」

    「目的にかなったことをやっているつもりでも、実はぐるぐるまわりをやっていて、悪戦苦闘を続け、出発点へ逆戻りの円を描く」

    「人間は善意と愛とを失わないために、考えを死に従属させないようにしなくてはならない」

    「檀と言う概念そのものが、すでに絶対的なものという概念と緊密に結びついている」

    「人間らしさとか、人間的とかいうものは、論争される2つの極端の中間、饒舌な人文主義者と、文盲な粗野との間のそこか中間にある」

    「文学的精神は、あらゆる人間的なものへの理解を呼び覚まし、愚昧な価値判断と信念とを軟弱させ、人類の教化、醇化、向上を可能にする」

    「興奮的な理論を口にする精神は、生命を損なうだけであり、熱情を抑制しようとするのは、無を欲すること」

    「なんでもないことにもおちょっかいをすることがきらいではなく、それをなんでもないことでもあるかのように扱い、それでも神様にも人間様にも受けが良くなるように考えておいでです」

    「世間では哲学的な楽観、明るい結果を信頼する自信を健康の表現と考え、その反対に、悲観と嫌世とを病気の兆候のように考えているが、これはあきらかに誤見である。なぜならそうでなかったら、絶望的な最後状態になってからあんな楽観におちいるはずがない、あのような病的な楽観にくらべると、その直前の沈鬱な状態などはむしろ健康なたくましい生命の発現であるとも言える」

    「文学者の誤りは、精神だけが人間を真面目にすると考える点です。ほんとうはむしろその反対。精神がないところにのみ真面目さがある」

    「どうして彼がこういう人々をまわりに集めることが出来たか。それは、彼がどんなことでも【傾聴に値する】ように感じたから。」

    「機知、言葉、精神が問題ではなくなり、事実、生活、つまり支配者的人物の縄張りである問題と事実が前面へ出てくると、情勢は明らかに不利になった」

    「生にいたる道は2つあって、その一つはふつうのまっすぐな大通りであり、もう一つは裏道、死を通り抜ける道であって、これこそ天才的な道なんだ」

    「我々は感情燃焼の義務、宗教的義務を持っている。わたしたちの感情は、生命を呼び覚ます男性的な力。人間は感じるから神聖」

    「人生への感情の減退を、宇宙の終局、神の汚辱と感じる」

    「無感覚も場合によっては悪魔性をおびる。神秘な恐怖を呼び起こす」

    「時間を忘れた生活、屈託も希望もない生活、外見は急がしそうで内部は沈滞している生活、死んでいる生活である」

    「心情が物質の世界でも創造力を持つことをみとめることになる」

    「まやかしと真実とを区別する倫理的勇気が退廃し始めると、生そのもの、批判、価値、革新的行為もおわりであって、道徳的懐疑がおそろしい分解作用を行ない始める」

    「物質によって精神に形を与えようとするのは馬鹿げている」

    「義務と活動の市民社会を軽蔑の気持ちを持って、平地と呼んでいるが、この優越感と自信とは、市民社会のきずなと時間の束縛とから自由になった人が義務と束縛の中に生きている人々に対して感じるもの。」

    「生の暗い面を見ることは、けして生の否定いはならない」

  • とてつもなく大作。
    様々な人が入り混じり
    通り過ぎ去っていく…
    そしてハンス青年は変わらず…

    彼の心はどこか空っぽだったのかもしれませんね。
    最終的には強制的に魔の山からは
    去らざるを得なくなり、
    必然的にこの物語は幕を閉じます。
    いつかはやってくるのですよ。
    自主性を持つ日が…

    結局のところセテムブリーニやナフタのような存在は
    机上の空論を食っているだけで
    やはりどこか読んでいて違和感を覚えました。
    ハンスは彼らにとっては無知の象徴でしたが
    染まらなかった点では無知でないと思いましたが。

    人には様々な誘惑もあり、
    その中には悪のものもあります。
    ショーシャ夫人がある種の堕落の
    象徴なのかもしれませんね。

    この版は読みづらいので
    別エディションをいつか読みたいな。

  • 読書日:2017年10月1日-10月4日
    Original titile:Der Zauberberg.
    Author:Paul Thomas Mann.

    Hansが山の上で療養の為に過ごしてからあっという間に七年の月日が流れていました。
    そして彼が突然に前触れもなくここの生活から、
    ここで暮らしている人の言葉で言う平地に戻った時は
    風の様に訪れ、風の様にその様子が描かれ此の物語は終わりを迎えました。
    この様な終わり方を迎えましたが、この下巻では様々な出来事がありました。
    先ず彼は医師からはっきりと完治したと言われるまで、此処に居座ると決め、親族や友人達平地とここでは呼ぶ人や物と完全に交流を経ちました。

    また『雪』で描かれていた豪雪の中で道に迷い小屋で過ごした出来事が彼を変えさせたと強く感じられました。
    中でも一番の衝撃は彼の従兄であり、上で療養生活を送っている人々から好かれているJoachimが病死した事です。
    彼が死ぬとは全く予想がなく、誰からも好かれた好青年に好感を抱いていただけに残念でなりません…。

    人間の本質や国の成り立ち等、様々な思考が学べる文学作品です。
    読んで良かったと感じ入りました…。

  • 2009.5.15 読了

  • 時空を粘土のようにうねうねする涅槃大作、ですね。

  • この分厚い(原文1200ページ)のドイツ小説でマンが為したこと、ハンス・カストルプ青年が為したこととはなんだったであろうか。

    ここでふいに一言で置き留めてみるならば、それは時の引き延ばしと押し縮め、それによる自由の獲得であった。カストルプ青年はベルクホーク(サナトリウム)に降り立つやいなや、時の概念へ疑問をもつ。それはほかならぬ、彼自身が鋭敏に感じとった時からの逸脱、そしておとずれる自由への予感である。彼は時の収縮と弛緩との繰り返しによるその停滞を見抜き、ついにはそこへ足を、手を、頭を差し込んだのである。

    いかにして時は停滞するのかー それはマン自信がふれてきた死への、解説者も後編にて語る「親愛感」その向こうにある死の完成、完全、実現である。現実としての死への到達、それのみによって人間、生命は時間の流れから逸れ岸辺にあがりこみ、自由の河原、その向こうの繁り多い大陸へと目をむけることができるのである。

    余談、まったくの余談、この小説の価値を貶めることは一切ない指摘ですが、682ページの「セテンブリーニ」は誤植でしょう。

  • サナトリウムという特殊な閉鎖された状況下で主人公が様々な経験を通じて肉体的・精神的に成長する様を描いた教養小説。
    哲学的な内容から宗教、民主主義、失恋などテーマが盛り沢山で読み始めは難解なものかもしれません。難しいとお感じになられた方は「時」の流れに注目しながら読み進めることをお薦めします。何と言おうと物語の舞台が世俗と切り離された空間なのですから。
    一度読むだけでは理解しきれないほど奥が深い作品です。幾度と読む度に新たな発見があることもこの小説の魅力と言えましょう。
    内容が難解で文量が多いため敬遠される方もいらっしゃいましょうが、声を大にして読んでほしいと言える傑作です。

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著者プロフィール

【著者】トーマス・マン(Thomas Mann)1875年6月6日北ドイツのリューベクに生まれる。1894年ミュンヒェンに移り、1933年まで定住。1929年にはノーベル文学賞を授けられる。1933年国外講演旅行に出たまま帰国せず、スイスのチューリヒに居を構える。1936年亡命を宣言するとともに国籍を剥奪されたマンは38年アメリカに移る。戦後はふたたびヨーロッパ旅行を試みたが、1952年ふたたびチューリヒ近郊に定住、55年8月12日同地の病院で死去する。

「2016年 『トーマス・マン日記 1918-1921』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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