聖なる酔っぱらいの伝説 他四篇 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003246221

作品紹介・あらすじ

ある春の宵、セーヌの橋の下で、紳士が飲んだくれの宿なしに二百フランを恵む-。ヨーロッパ辺境に生まれ、パリに客死した放浪のユダヤ人作家ロート(一八九四‐一九三九)が遺した、とっておきの大人の寓話。他、ナチス台頭前夜をリアルに描く「蜘蛛の巣」など四篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 放浪のユダヤ人作家
    ねじを回すように、弱者がさらなる弱者をぎりぎりと押し込んでいくような状況をナチスが政権を握る10年以上も前に、まるで見てきたかのように予見する『蜘蛛の巣』
    ジャーナリストのような淡々とした文章に逆に薄ら寒さを覚えて面白かったけど、やっぱりそんな社会に絶望した後に立ちのぼる過去への郷愁2編と酔っ払いファンタジーの表題作が切なくてよかった。

  • 『蜘蛛の巣』
    1923年に書かれた本作は、既にナチの脅威を的確に予知しています。ロートは予言者であり、シャーマン。アル中ゆえでしょうか。もしくは時代を感じとる神経過敏さがアル中へと繋がったのでしょうか。またこれがウィーンで新聞連載だったというのが凄い。
    ヨーゼフ・ロートの何が凄いかまとめると、
    ・10年後のヒトラー台頭の予言と、ナチというものの原理を的確に描写
    ・「ユダヤ人に向けられた憎しみの心性」をユダヤ人が的確に描写
    ・当時の陰惨な世界を渇いた目で描写。ワイマール後は想像以上に地獄だったようで。簡潔な文体で、今でもありありとよみがえらせるところ
    ・亡命してアル中で死ぬ点

    ここには、貧困と格差による鬱屈した人々の感情が、はけ口を求めて秩序の崩壊と胡散臭い扇動家へのコミット。民主主義の危険性。煽動の中心には、政治思想が無く権力欲のみ。それこそが「ヨーロッパの申し子」である。
    民主主義というものが永遠に内包しつづける問題が考えられて、現在の見方が少し変わる。戦後の民主主義という虚像への希求がなんともまあ、切実なものとわかる。

    「聖なる酔っぱらいの伝説」はそれら全部を踏まえて読むと泣けてしまいそうです。

  • 白水uブックスから、岩波文庫に移って復刊!
    実は、エルマンノ・オルミ(「木靴の樹」)のファンで、ルトガー・ハウアーのファンです。。。

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    「ある春の宵、セーヌの橋の下で、見知らぬ紳士が飲んだくれの宿なしに二百フランを恵む――人生の喪失は、かくも軽やかに美しく語られる。ヨーロッパ辺境に生まれ、パリに客死した放浪のユダヤ人作家ロート(1894―1939)が遺した、とっておきの大人の寓話。他に、ナチス台頭前夜をリアルに描いた「蜘蛛の巣」など四篇を収録。 」

    • naminecoさん
      木靴の樹!
      私も好きな映画です。
      「聖なる酔っぱらいの伝説」も昔観ましたが、
      原作が存在していただなんて、こちらを拝見するまで全く知りません...
      木靴の樹!
      私も好きな映画です。
      「聖なる酔っぱらいの伝説」も昔観ましたが、
      原作が存在していただなんて、こちらを拝見するまで全く知りませんでした!
      2013/03/25
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「原作が存在していただなんて」
      映画のインパクトが強かったですからねぇ~
      「私も好きな映画です。」
      「木靴の樹」は、素晴しい映画ですよね。そ...
      「原作が存在していただなんて」
      映画のインパクトが強かったですからねぇ~
      「私も好きな映画です。」
      「木靴の樹」は、素晴しい映画ですよね。そして何故か農村にバッハがよく似合っていました。
      2013/03/25
  • 過去に取り憑かれ、妄想に浸り、酒浸りになる男たちを淡々と語る短編集です。

    歴史の背景を振り返らないと話にのめり込めませんが、わかってくると当時のドイツ、オーストリアにどんな市民感情が流れていたのか知ることのできる作品に変わります。

    またそれ以上に、戦争や革命という特殊な状況下でどんな妄執に取り付かれていくのか、内面の語りが秀逸でした。

    語りが唐突にスキップする事があるので、その間を自分で補完するのが少し大変ですが、その行間がこの作者の良さなんでしょうか?

  • ある春の宵、セーヌの橋の下で、紳士が飲んだくれの宿なしに二百フランを恵む―。ヨーロッパ辺境に生まれ、パリに客死した放浪のユダヤ人作家ロート(一八九四‐一九三九)が遺した、とっておきの大人の寓話。(e-honより)

  • 表紙がアニメなので子ども向けの小説と思っていたら違っていた。ヒットラーが出てくるのは、「蜘蛛の巣」の小説のほうだった。

  • 放浪のユダヤ人作家ロート。5篇の短篇の主人公たちも放浪する。故国を遠く離れて。ナポレオンはヨーロッパをかき混ぜ、第一次大戦はヨーロッパの枠組みをぶっ壊してしまった。民族自決という名の下にバラバラになったオーストリア帝国。行き過ぎた民族主義はユダヤ人に対する憎悪を引き起こす。ヒトラーを予見させる『蜘蛛の巣』と亡き帝国の挽歌である『皇帝の胸像』は鏡像のようだ。せつない愛の物語2篇もいい。表題作は作者そのものらしい。淡々とした筆致で書かれた物語たちは甘さのあとにくるほろ苦さのようなものを含んでいた。


    『聖なる酔っ払いの伝説』でもアプサンの代用酒でペルノーを飲んでるけどヨーロッパではアプサンがそんなに飲まれてたのかな?アプサンはたしか毒物だったはず…。

  • a-Too、¥500.

  • 最初は何か始まっているという感じがしたが、温度変化のない時間だけが過ぎていくだけ。後半の話は少し魅力があったかもしれない。

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著者プロフィール

1894年、東ガリシアのブロディに生まれる。1939年、亡命先のパリで死亡。1923年からドイツの代表紙「フランクフルト新聞」の特派員となり、ヨーロッパ各地を巡ってユニークな紀行文を書き送り、売れっ子ジャーナリストとなった。その傍ら創作にも手を染め、1930年の長編小説『ヨブ─ある平凡な男のロマン』は現代のヨブ記と称された。1932年にはかつての祖国ハプスブルク帝国の没落を哀惜の念を込めて描いた『ラデツキー行進曲』を発表し、小説家ロートの名をも不動のものにした。

「2021年 『ヨーゼフ・ロート ウクライナ・ロシア紀行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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