- Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003252512
作品紹介・あらすじ
これをしも恋愛小説というべきであろうか。発端の1章を別とすれば続く2章だけが恋と誘惑にあてられ、残る7章はすべて男が恋を獲たあとの倦怠と、断とうとして断てぬ恋のくびきの下でのもがきを描いている。いわば恋愛という「人生の花」の花弁の一つ一つを引きむしり、精細に解剖しようというのだ。近代心理小説の先駆をなす作。
感想・レビュー・書評
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巷に溢れる恋愛物語は、恋愛の最も美味しい部分だけを、さらに美化した形で描いていて、それによって読者は決して現実のものとして現れない恋そのものに恋するようになりがちである。一方この本はそれらとは真逆で、そういった人間が実際に経験する現実の恋愛について描かれている。すなわち、恋愛の最初の局面におけるあの他では得難い幸福とそれを得るためにその瞬間では安いものと信じさえする犠牲、そしてそれが薄れたときに彼らが直面する恋愛の苦悩の面そのものである。前述した数々の恋愛物語がこの幸福の部分のみを描き、読者はそれらを読んで自ら現実世界でその続きを演じようとする一方、この本の読者は読んでいる瞬間に恋愛の一通りを体験し、ついには当分恋愛に対する意欲を欠いてしまうだろう。
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恋愛を単に希望、美しい、その目覚めにおいてのみ描写したものではなく、全閲歴を叙述している。-恋愛の成長、凋落、および死
(解説より)
恋愛小説に関しても、古典の作品は衝撃を受けます。
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正直完全にこの小説を理解できているかと聞かれれば、いいえと答えるだろう。内気な少年が本気である女性に恋に落ちる話であるが、求められれば求められるほど、少年の心は離れていくと言う恋愛の生々しさを表現する小説である。人間の恋愛とはなぜここまでも面倒くさいのかと考えさせられる物語であった。
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これを読めば悲恋とか許されない恋愛とかの他の小説を読む必要はないかな。ロマンスと純情さと薄情さと後悔と最悪のエンディングすべてが詰まっている
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これをしも恋愛小説というべきであろうか。発端の1章を別とすれば続く2章だけが恋と誘惑にあてられ、残る7章はすべて男が恋を獲たあとの倦怠と、断とうとして断てぬ恋のくびきの下でのもがきを描いている。いわば恋愛という「人生の花」の花弁の一つ一つを引きむしり、精細に解剖しようというのだ。近代心理小説の先駆をなす作。 -
コンスタンはアドルフという主人公に自分を投影し、自分の愚かなところを本書で言葉を尽くす限りに裁いていた。
心情の変化が複雑で、エレノールが一概に悪いけでも、アドルフが一概に悪いわけでもない気もする。
もちろん、優柔不断なアドルフが結末を大きく左右していたことには変わりないが。
少々自分には難しい小説であると感じた。
また数年後に再読してみたい。
その時どう思うか楽しみ。 -
2020/07/16 読了
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久々の文学。
前半はアドルフの恋心に激しく共感するも、後半は恋に翻弄されるアドルフとエレノールそれぞれの運命を中立者として自分は眺めていた。
読んでいて印象的だったのは3つ。
①「恋が生まれ、恋が実り、恋が枯れ、恋が破滅する」という恋をした人が何れかのポイントで共感するであろうことが、豊かに鋭く表現(あるいは言語化)されていること。
中でも、「恋は輝かしい一点にすぎない、にもかかわらず全時間を占領してしまうかに見える」
「常に今にも失われそうな気がする幸福、不完全な乱されがちの幸福」
「恋はすべての感情の中で最も利己的なものであり、したがって傷つけられた暁には最も不親切な感情である」
②恋心は人を支配してしまうこと。
アドルフは、「自分は決して打算から行動したことはない」と厳粛に示しているのにも関わらず、別れたいと思いながらもエレノールを労り、人生を投げ捨てるという自己矛盾を抱えている。
一方でエレノールはアドルフが生活の全てになるまでに、彼を愛している。
③エレノールと別れ、恋の楔から逃れても、自由は手にすることはできないこと。なぜならアドルフ自身もその存在理由はエレノールありきであったから。まさに、一難去ってまた一難。
おすすめの恋愛小説を聞かれたらコレですかねぇ〜
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訳:大塚幸男、原書名:ADOLPHE(Constant,Benjamin)
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悲劇。素晴らしい小説。
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「アドルフ」は人間の虚栄心と弱さがいかに他人だけでなく自分まで不幸にするかを描いた小説である。アドルフは愛情を持ち合わせていなかったにも関わらず「愛されたい」という観念だけでエレノールに近づき、同情と憐憫と彼が考えるものと優柔不断さゆえに数ある別れのチャンスを不意にした結果、エレノールが死ぬまで別れることができなかった。アドルフは自ら破滅の道へと踏み出し、その道から救い出そうとする手も自分の性格ゆえに跳ね除けたのである。
翻訳が良かったので書き込まれた心理描写を苦なく読み通すことができた。それほど有名な作品ではないが、長くないし翻訳も良いからオススメできる一冊。 -
これは名作
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恋は、つい最近までほとんど他人だった人と、もう何年ものあいだずっと一緒に暮らして来たような感じを我々に抱かせる。恋は輝かしい一点にすぎない、にもかかわらず全時間を占領してしまうかに見える。
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僅か150頁ほどの短編なのに、なんて愛の不条理さに満ち溢れた小説なのだろう。誰からも祝福されない年の離れた二人の愛。思いはあっけなく結ばれるのに、その後も幸福に辿り着くことは決してない。これをアドルフの駄目さに原因を求めることは簡単だが、むしろそれほどまでに客観的な心理分析が成されていることが驚きなのだ。ここには恋愛感情とは自分の写し鏡を求めるものでしかない為に絶対に報われないのだという冷静な視点を持ちながらも、それでも感情の不確かさから逃れる事はできないのだという残酷な実存が剥き出しに表現されている。
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結果としての恋愛関係ではなく恋をする事を目的に関係を始め、相手の女性が本気になればそれが疎ましくなり、それなのに言い訳をして別れず、挙げ句、少しも自己反省のない自分大好きな若者が苦しむ物語。表面だけをさらうと、そうなるかもしれません。腹立たしい主人公ですが、相手を見ようとしない恋愛を経験した方であれば、克明に綴られる彼の心理に過去の自分との重なりを見つけ、投げ出したくなるかもしれません。ですが最後まで読むと、ああ、そういう狙いだったのか。と気付かされます。深読みすればするほど、強く心に残る作品でしょう。
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なんで西洋の男はこんなに能弁なんだろう?
小説だからであって欲しいね -
私は予備知識なく本を読むので、コンスタンという人が200年も前の人だというのも知らなかった。
貴族の存在するヨーロッパが舞台で、口調もその頃の礼儀正しいもので、私はそういうのが好きだから読んでいて心地良かった。
それにしても男女間の愛についてというのは年代時代を問わないものである。1800年代に書かれたものを2012年に読んでも何ら差し障りが無い。
この小説はコンスタン自身のことらしいが、ぐちぐちとしたずるずると別れを切り出せない男の話と言ってしまう人もいるかも知れないが、私は始めから終わりまで共感できた。
ぐちぐちずるずる、というのはリアルだ。ふつう小説はきれいごとが多い。でもこの『アドルフ』はぐちぐちずるずる迷ってコロコロと気持ちが変わって煮え切らない。
コンスタン自身作品の中でこう書いている。
”人の感情というものは、とりとめのない複雑なものである。それは観察しにくい種々雑多な印象から成り立っているので、あまりに粗雑であまりに一般的である言葉は、それらの感情を指示するには役立っても、決して定義するには役立たない。(p26)”
”およそ人間には完全な統一というものはないので、ほとんど決して、なんびとも全く真剣であることもなければ、さりとて全く不誠実であることもない。(p34)”
私もそう思う。これらの文章のように、そう!その通り!と共感するところが本当に多かった。
愛情という感情はよくわからないものだとだと思う。
あるようなないようなと揺れ動いてし駆るべきものだと思う。
失って気付くこともある。後悔することもある。何が正しくて何が間違っているのかが決まっていない。
作中の女性のように、本当に愛するというものに出会えたとき、生命をかけて何もかもを抛ってしまうというのもとてもよく分かる。
だからといって、その女性の肩を持つというのではない。コンスタンの立場、この女性を捨てようとして捨てきれずにいる男の気持ちもよく分かる。
この小説は人間の感情のみに焦点を当てたもので、風景の描写がほとんど無い。徹頭徹尾気持ちだけが書かれている。それだからこの小説はおもしろいんだと思う。小説の長さが短いのも効いてると思う。
私は結構好きだった。また読み返してもいいなと思う。 -
美しい文で、人間の弱さを鋭く描く。訳者の言う通りブランデスの言う、「いわば恋愛の全閲歴を叙述している、」本に違いない。誰がアドルフの罪を、エレノールの罪を責めることができようか。
人間の恋、利己主義、弱さはそういったものである。 -
外国特有の大袈裟な表現。
男の身勝手な恋心が描かれていて、
私は読んでいて釈然としませんでした。
たしかに、
男の恋心の変容には納得します。
女の恋心の煩わしさにも納得します。
けれど、
男の優柔不断ともいうべき曖昧さには呆れてしまいます。
優しさではなく、
自己保身のための計らいは、残酷です。
いつの時代にも横たわる幼き心を描いた作品です。
興味がありましたら、ページ数は少ないので、
読んでみてください。 -
名作中の名作/中村亮二氏推薦本
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中村航さんの『100回泣くこと』の後に読んだのですが、同じ「恋愛小説」でもここまでタイプが違うのか!と思わずため息をついてしまいました。おそらく、こういうタイプの本が嫌いな人にとっては読んでも嫌気がさすだけでまったく面白くないかもしれません。僕個人としては共感できるところもある(なんてことを言ってしまうと、あとあと窮地に追い込まれてしまう気もしますが…)ので、なかなか読みごたえのある本だな…と思って読むことができましたが。
(続きはまた後日書きます) -
愛の倦怠について。告白であろうがなかろうが、その心理の分析的描写は、ものすごい。