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本 ・本 (222ページ) / ISBN・EAN: 9784003252918
感想・レビュー・書評
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『沙漠の情熱』
野獣と人間とが繋がりを持つことなんてあると思うかい?私はこんな話を聞いたことがあるんだよ。
プロヴァンス生まれの兵士がエジプト遠征中にサハラ砂漠(モロッコに近い)に取り残された。兵士は目の前にメスの豹を見る。肉食獣と、武器を持った人間。しかし豹は兵士を攻撃せず、兵士と豹はまるで夫婦のように沙漠の日々を過ごす。
しかし兵士は部隊に帰らなければいけない。武器を持つ兵士と、肉食獣との破局は必然なのだ。
…まあこんな感じでしょう。短い間一緒にいたけどその場だけの相手で。読者として破局がショックなほど馴れ合っていないし情熱の関係でもないような(-_-;) バルザック先生がそのように書いているのか…
『ことづけ』
馬車で知り合った青年が事故で死んだ。私は道連れのよしみから青年の最後の頼みを引き受ける。青年は年上の伯爵夫人の愛人だったのだ。そしてその夫人に自分が死んだことを伝えてほしいと願われたのだ。
私は伯爵の屋敷に向かい、伯爵と、その夫人とに青年の死を告げる。屋敷から退去した私は、伯爵からの心ばかりの謝意を受け取ったのだ。
…愛人と言うので秘密の恋人かと思ったら、私は伯爵の許可を得てから夫人に伝えるという。愛人といっても、貴族の奥方に必要な崇拝者みたいなもんか。夫婦公認のような感じだし。
『恐怖時代の一挿話』
フランス革命のさなか、カルメル派僧侶は殺され、修道院は牢獄となった。生き残った僧侶や修道女は国外に逃げる物が多かった。だがパリにも神父と二人の修道女が隠れ住み、身の危険にさらされながらも神への祈りを捧げ続けていた。
そんな神父のもとに「あるお方のために、極秘で死者のミサを上げていただきたい」という男が現れる。
恐怖と密告のパリで、神父のことは察している市民が秘密を守りこっそりと食料など助けている。神父も修道女も見つかったら死刑は確実だ。そんな彼らのところに訪ねてきた男は?彼は誰のためにミサを開こうというのか?こんなふうに隠れなければいけない恐怖政治に、ルイ16世とマリー・アントワネット王妃を処刑することを許した人たちにも罪はあるのか?
書かれるミサの場面は荘厳だ。、、ただしキリスト教ではない私にはやっていることの意味とかはわからず(-_-;)
誰が、誰のために祈っているのだろう、というのは、なんとなく察せられる。
ミサの対象は前日に首を切り落とされたルイ16世。それなら彼の遺物を持ちミサを願った男は?男の姿は処刑広場の処刑台の側にある。フランスで代々続く処刑者として。
…処刑者の人間性、何もしなかった罪。
『ざくろ屋敷』
トゥレーヌのざくろ屋敷に、未亡人のヴィレムセンス夫人と幼い二人の息子、ルイ・ガストンとマリー・ガストンが移り住んだ。
ヴィレムセンス夫人は病で死期が近い。その前に幼い息子たちにこれから自分だけで生きてゆくための教育と覚悟を教えなければならない。
だが最後の日々、ヴィレムセンスは涙を抑えられない。父親もいない、親族とは縁が切れている、資産もない。この世界に取り残される幼い息子たち。
だが幼い息子たちは、母親への尊敬と愛情をもって生きてゆくことを答えるのだった。
…中世上流階級の母子像。母と息子とはいっても常に一緒にいるわけではない。実際に子供を育てるのは召使であり教師だろう。両親は生きる姿を見せる。子供たちはその姿を見て自分も大人にならなければと思う。生活感がなく、母娘とはいえ距離を保つために、息子は母親に慕情を持つ。
母の嘆き、子供の覚悟、両親が示したものを幼い子供は受け取った。
『エル・ベルデゥゴ』
スペインにフランス軍が駐留していたころ。若いフランス士官がメンダ城(架空の地名)のレガニェス公爵の動向を見張っていた。公爵は、英国と協力してフランス軍への攻撃を目論んでいるのではないか。
士官の部下は英国軍の急襲を受けるが、なんとかメンダ城を脱出した。そして立て直したスペイン軍によりレガニェス公爵とその一家は捕らえらスペインの抵抗は掃討される。
捕らえられたレガニェス公爵はスペイン将軍に「貴族として、絞首刑ではなく斬首にしてほしい」そして「末息子だけは家名のため助命を願う」ことを伝える。
スペイン将軍は言う。「一家の誰かが処刑人となるなら願いを叶えよう」
…囚われた側の条件を受けるための条件が、家族の首を斬る役割を一家の誰かから選べ、というもので。現代感覚からすると、いくら負けたからってえげつない、上流階級同士の処刑ってもっと敬意ってもんがあるかと思ったよ(-_-;)
このときに、公爵一家が長男の伯爵に、国王につながる我が一家を残すため、あなたの手で自分たち親兄弟の首を斬るように、と伝えるし、どうしてもできなければ自害(クリスチャンなのに!)して見せるという覚悟の強さ。感服するが、自分が今の時代に生まれて良かった(-_-;)
『知られざる傑作』
出てくる画家の名前は実在の人物の名前を使っているが、年代とか実在の人の人生とは違う。
絵で身を立てることを望む青年ニコラ・プーサンは、画家ポリュプスのアトリエで老画家フレンホーフェルと出会う。
この時ポリュプスは「エジプトのマリア」に取り掛かり、評価も得ていたのだが、フレンホーフェルが筆を振るうと絵には命が吹き込まれたようだった。
フレンホーフェルはポリュプスとプーサンに、熱狂的に、取り憑かれたように、芸術を語る。フレンホーフェルは巨匠マビューズの唯一の弟子で、自分の芸術のすべてを込めた絵画、「美しき諍い女」に長年取り掛かっているが、完成までにはなにかが足りない。
プーサンは、自分の美しい恋人ジレットをフレンホーフェルのモデルとして紹介しようと考える。
ジレットは自分が他の画家のモデルになることで、プーサンとの愛に不安を感じながらもモデルとなる。
美しいジレットに芸術を見出したフレンホーフェルは、自分のすべてを「美しき諍い女」
にぶつける。
だが完成した絵を見たポリュプスとプーサンは失望する。絵画に拘るあまりにフレンホーフェルの絵は抽象が過ぎて他人には理解できないものになっていたのだ。
彼らの態度に自分の芸術が世間から受け入れられないと悟ったフレンホーフェルは、その直後に亡くなった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
改めて読むと、無駄のない文章の美しさ、描写のリアル感、ともにとてもレベルの高い文体だと気づかされる。
バルザック、どうみても“肉屋のおっちゃん”の風体なのになぜ美文?(笑)と思う。
どれも秀逸ながら『砂漠の情熱』がやはり印象深いかな。
身近にありうる感覚(絶対、身近にないシチュエーションだが)は、ともすると粘着質な描かれ方になりがちだが(心理小説とか)、しっくり・すっきりに感じるのは
やはりバルザックならでは、か。 -
「映画と一緒に原作も」シリーズ第4弾。好きな映画に『美しき諍い女』ありますが、その原作がオノレ・ド・バルザックの短編『知られざる傑作』と今ごろ知るの巻。映画はずいぶん前に1度みたきりで、しかも4時間もあってあんまり内容おぼえてないんですが、エマニュエル・ベアールさんにポーッとなったのは間違いない。
1枚の裸婦絵を完成させずに描き続ける老画家のお話。その絵を見たモデル(エマ・ベアじゃない)さん、自殺しちゃう(本筋ではないですたしか)んですよねぇ。あたしそれがとてもショックで、大袈裟な話、その日以来ずっと「いったいどんな絵を描いたんだろう?」もっといえば「そんな絵を描きたい!」と絵心ゼロなくせに思い続けているんですが、その答えをきっとバルザックさん書いているはずと思って読みましたが、残念! まるでふれてませんでしたぁああああ! モデルさんなにを見たんだ?
しかしそこはバルザック、他の5篇でその本質に迫っています。います? わからない、でも、ええ、ええっと、難しいんですよ、豹と真剣に戯れる男とか、兄に首を落とされる妹の幸せそうな顔とか、最愛の息子を残して逝く母の心の内とか、ルイ16世の首を落とした男をそれと知らずに匿ってしまう司教の悲哀とか、あ、でもこう書くと、モデルさんやっぱり愛を見たっぽいなぁ。
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表題を含むいくつかの短編が収められている。うまくいえないけどここには、現代文学が失いつつある背景に支えられた人の気持ちみたいなものがある。そこに出てくる気持ちには背景を伴った質量があり故に響くものがあるように思う。表題の作品は、そのまま芸術論のようでもあり気持ちの動きと併せて印象深い作品だと思う。他の作品もいい。
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バルザックの短編を集めたもの。
ざくろ屋敷については、『谷間の百合』に収録されていたが、それ以外の短編は初めて読んだ。人間喜劇を中心とした彼の人間への飽くなき探求の一頁。
短いゆえに、人間同士のやり取りはそんなに多くはできない。社交から生み出される独特の相互作用は形成されない。その分、人間が根付く空間や状況によってつながる筋書きが十二分に生かされている。
時は革命時分のフランス。戦争、恐怖政治の中にあって、ひととひととが交錯する。これらの小説を総じて『人間喜劇』と名付けるあたり、バルザックの生きることへの諦めに似たものを感じる。
筋書だけとってしまえば、単純になってしまうが、それだけでは不十分なのは、空間や時間、状況といったものが密接に絡まって、人間というものを編み出しているからであると思う。そして、そうして動き出す人間を一短編の中にとどめず、可能性を別の作品においてもいかせるように、拡げたところも、時間の中で生きる人間というものの表現に一役買っている。
ふとどこかで出会いそうな、そんな人間たちであるにも関わらず、その人間独特の物語が展開される。これを喜劇と言わずに何と言ったらよいのか。
ずいぶん原稿にも工夫を凝らして、ことば以上の表現にも挑戦していたようであるが、どうやら、書くということを飛び越えてバルザックは何かを探していたのかもしれない。書くことのできない何かを求めて、彼は人間を追い求め、書き続けていた。 -
「砂漠の情熱」の、一人ぼっちで砂漠に取り残された男が一匹の女豹と出会い打ち解け合っていくという筋書きはファンタジーっぽくて印象に残った。ただしラストにはがっかり。
「ざくろ屋敷」の風景描写がきれいで、こんなところに住んでみたいと思う。都会のマンション生活のいかに味気ないことか…。
「知られざる傑作」は芸術家って大変だな、と思った。絵描き、物書き、音楽家、なんにせよ一つのことを突き詰めるというのは周りが見えなくなりがちだろうなと。-
マヤさん
「小説読んだ!」と感じるものが読みたくて、みなさんの評判の高いこちらを。
やっぱり「巨匠」作家たちからは小説の力を感じます...マヤさん
「小説読んだ!」と感じるものが読みたくて、みなさんの評判の高いこちらを。
やっぱり「巨匠」作家たちからは小説の力を感じますよねえ。(^O^)2024/07/05
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カンヌ映画祭でグランプリを受賞したヌーヴェル・ヴァーグの巨匠、ジャック・リヴェットの『美しき諍い女』の原作。短い話だが、映画のほうは監督が脚本を自由に膨らませ、4時間近い大作になっている。リヴェットは『彼女たちの舞台』という作品にもこの話を登場させている。
著者プロフィール
オノレ・ド・バルザックの作品





