ツールの司祭,赤い宿屋 (岩波文庫 赤 530-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003253014

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  • 『ツールの司祭』1832年・・・風俗研究(地方生活情景//独身者たち)

    この物語の主人公は、ツールの司祭ビロトーだが、このビロトーは、『セザール・ビロトー』の主人公である香水商のビロトーの兄にあたるフランソワ・ビロトーである。

    彼は、『セザール・ビロトー』の物語の中で破産した弟に千フラン送金してやるという形で登場する。
    『谷間の百合』のなかでは、アンリエット・モルソフの贖罪司祭として登場している。

    さて、その兄のフランソワ・ビロトーは、ツールの町の助任司祭をしており、2つの望みを持っていた。
    ひとつは、ガマールという老嬢に下宿し、豪華な家具調度品に囲まれて生活すること。
    もうひとつは参事会員になることだった。

    ガマールへの下宿はしていたが、シャプルー師という先輩格の僧が亡くなり、一切の家具類を相続したビロトーは、あっさりひとつめの望みを叶える。

    人から参事会員になるのも時間の問題と言われ、有頂天になっていたのだが、実は、大家のガマールに疎まれ、憎まれていたことに気づくことが出来なかった。

    ある日、やっとそのことにビロトーは気がつくが、なぜ、恨まれているのかわからない。
    ガマール嬢は、自分の家をサロンにしたかったが、ビロトーはすぐ退屈し、別のところへ出かけていっていたので老嬢の夢は儚く消え失せたのだった。
    ビロトーは、ガマール家に下宿しているほかの司祭からも憎まれていた。
    その司祭は、シャプルー師が亡くなったあと、その部屋を狙っていたが、遺言のため、相変わらず、日当たりの悪い狭い部屋に暮らし続けているのだった。

    悪意に気づいたビロトーはガマール嬢の下宿を出て、リストメール夫人の別邸にうつるが、そこにガマール嬢の弁護士がやってきて、退去の意思を明確にするよう迫る。
    リストメール夫人の助言もあり、ビロトーは書面にサインするが、家具調度品一切をガマール嬢に奪われてしまう。

    リストメール夫人と甥はビロトーに訴訟をおこすようすすめ、積極的に動くが、リストメール夫人も甥もとばっちりを受け、ビロトーを追い出してしまう。

    失意のビロトーは僻地に転任させられ、青白く痩せ、昔の面立ちの見る影も失せてありし日の抜け殻のようになってしまったという。

    フランソワ・ビロトーは、気のいい人で、疑うことも知らず、人に反駁することもなかった。しかし、優柔不断で人の考えに流されやすく、気を回して誰かを喜ばせるなどということはできない男だった。

    ビロトーの先輩のシャプルー師は、そのあたりとても良く出来た人だったらしく、その落差にガマール嬢は落胆し、自分が仕掛けたことにも無頓着だったビロトーに失望し憎悪した。

    バルザックを読んでいると、人間社会のなかで生きるということの難しさを痛感する。
    というよりも、バルザックの人間喜劇はまさに、社会に属する人間の博物誌のようなものなのだ。
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    ■小説89篇と総序を加えた90篇がバルザックの「人間喜劇」の著作とされる。
    ■分類
    ・風俗研究
    (私生活情景、地方生活情景、パリ生活情景、政治生活情景、軍隊生活情景、田園生活情景)
    ・哲学的研究
    ・分析的研究
    ■真白読了
    『ふくろう党』+『ゴリオ爺さん』+『谷間の百合』+『ウジェニー・グランデ』+『Z・マルカス』+『知られざる傑作』+『砂漠の灼熱』+『エル・ヴェルデュゴ』+『恐怖政治の一挿話』+『ことづて』+『柘榴屋敷』+『セザール・ビロトー』+『戦をやめたメルモット(神と和解したメルモス)』+『偽りの愛人』+『シャベール大佐』+『ソーの舞踏会』+『サラジーヌ』+『不老長寿の霊薬』+『追放者』+『あら皮』+『ゴプセック』+『名うてのゴディサール』+『ニュシンゲン銀行』+『赤い宿屋』+『ツールの司祭』+『総序』 計26篇

  • よくも悪くもバルザックらしさの出た中編二つ。

    「ツールの司祭」
    10年間の雌伏の時を経て、ライバル亡き後に謀略を巡らせて司祭へと駆け登った男と、蹴落とされた男の対比が描かれる。退屈すぎる序盤、みなぎる人間の欲望、上流階級と庶民階級の対比、軍人・法律家・僧侶など様々な世界・・・。
    筋書きも人物も確かに面白いが、解説にあるようにやや展開が強引過ぎる感がある。やはりこれだけのものを詰め込んで魅力を発揮するには長編であるほうが都合がいいようだ。★★★

    「赤い宿屋」
    事実に基づく話。
    心の中で犯した罪がある場合、事実としては無実でも、それを胸を張って無実と言い切れるのか?
    血に染まったものだと間接的に知ってしまった財産を、無邪気に結婚により入手してしまうのは、犯罪の片棒を担ぐことにはならないか?
    話としての面白さとともに、ちょっぴり考えさせるテーマがいいスパイス。こっちのほうが読みやすい。★★★★

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著者プロフィール

オノレ・ド・バルザック
1799-1850年。フランスの小説家。『幻滅』、『ゴリオ爺さん』、『谷間の百合』ほか91篇から成る「人間喜劇」を執筆。ジャーナリストとしても活動した。

「2014年 『ジャーナリストの生理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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