死刑囚最後の日 (岩波文庫 赤 531-8)

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  • Amazon.co.jp ・本 (169ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003253182

感想・レビュー・書評

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  • 著者、ユーゴーさん、どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。

    ヴィクトル=マリー・ユーゴー(仏: Victor-Marie Hugo、1802年2月26日 - 1885年5月22日)は、フランス・ロマン主義の詩人、小説家。七月王政時代からフランス第二共和政時代の政治家。『レ・ミゼラブル』の著者として著名。

    で、今回手にした、『死刑囚最後の日』。
    この本の内容は、次のとおり。(コピペです)

    自然から享けた生命を人為的に奪い去る社会制度=死刑の撤廃のために,若き日のユーゴーが情熱を傾けてかきあげた作品.死刑の判決をうけてから断頭台にたたされる最後の一瞬に至るまでの,一死刑囚の肉体的・精神的苦悶をまざまざと描き出して,読者の心をも焦躁と絶望の狂気へとひきずりこむ.一八二九年.

    ユーゴーさんは、死刑制度の廃止を目指していたようです。
    当時のフランスの死刑というのは、広場での公開処刑。
    この辺は、今の日本の死刑制度とは違いますね。
    日本の場合は、死刑が執行された場合、メディアで死刑が執行された事実を伝えますが、人々の関心はそれほどのことではないと思います。
    いきおい、日本では死刑制度を廃止するか否かという議論は、不活発と思われます。

    で、フランスの場合ですが、1981年に死刑制度は廃止になったようです。


    ●2023年4月8日、追記。

    ユゴーは、当初はルイ・ナポレオン(ナポレオン3世)を支持していたが、後に独裁色を強めたルイ・ナポレオンがら離れるようになる。
    で、ユゴーは1851~1870年にかけて、亡命生活を送っていたとのこと。

    ルイ・ナポレオンがトップにいた時期は、
    ・第二共和政の大統領(在任:1848年~1852年)
    ・第二帝政の皇帝(在位:1852年~1870年)

    ユゴーとルイ・ナポレオンの生年没年は、
    ・ユゴー(1802~1885)
    ・ルイ・ナポレオン(1808~1873)

  • ・思っていたより、読み応えあり、であった。

    処刑の日の1日のみを詳細克明に描いたもの、と想像していた。だが、小説は処刑の数日前ころから始まる。さらに、その少し前の裁判の模様も織り込まれる。囚われの身となってから5週間という記述もあり、その間の思考の様々も回顧される。裁判中に拘置される監獄から、死刑囚が運ばれる監獄への移動などもあり、場面や想念はさまざまで、展開に奥行きがあるのであった。

    ・処刑直前の監獄の小部屋で同室になった男は、飢えのためにパンひとつを盗んで囚われの身となったと告白。これは後のジャンバルジャンを思わせる人物であった。

    ・語り手(主人公)は、名前も罪状も詳らかにされない。だが、どうやら貴族階級の男らしい。思考や想念は理知的で、いわばインテリである。怯えながら死の実体を思い描く一節などもあるが、そういう知的な営みもつづられるのだ。

    ・興味深い場面がある。死刑囚の監獄のある施設から、徒刑囚の一団が旅立ってゆく。鎖をかけられ整列した男たち。そのとき、突然の驟雨。徒刑囚らは氷雨に打たれずぶ濡れになる。それでもしばしの間整列したまま立ち尽くす。
     この場面、想像だけによって描かれたものでないように思われるのだ。どこかで実際に目にした情景でなければ、こうした具体的な場面は描けないはず、と私は思うのだ。とすれば、作者ユゴーは、監獄など幾つかの現場を取材に訪れたように思われる。

    そういう監獄内のディティール、死に赴く男の想念の積み重ね。これらが、とても読み応えありで、しっかり文学作品になっているのであった。

  • Les Misérablesで有名なユゴーの著作。
    1829年に書かれたとは思えないほど、実に現代的な死刑廃止論が唱えられている。
    もちろん拡大自殺などのごく現代においての問題こそトピックには上がっていないものの、死刑という刑罰を論理的に組み立てていくと賛成派の主張はもろく崩れさるという結論に至るのは、じつに現代的である。

    ユゴーの故郷フランスでは2005年にシラク大統領の手で死刑が全廃された。しかしながらデモや移民問題で紛糾し、流血の絶えない現代のフランスに彼が生きていたなら何を思うのだろうか。

  • 薄い本なのですぐ読了。何の罪か分からないある死刑囚が死刑執行される日までの心情を書いた内容。レミゼラブルの著書ユーゴーは死刑反対論者ゆえか死刑判決を受けた人間も最初は終身刑で生き長らえるより死刑になった方がマシだと言っていたのが最後は命乞いするようになっていく心情の変化を淡々と書いている。ギロチンの刃がうまく作動しなくて何度も刃を落とされた実例も死刑囚としては恐いだろう。死刑制度に犯罪抑制力効果が無いのは、教育や家庭環境や貧困も原因だろうし、死刑執行まで長い年月がかかり隠密に行われるからかな。死刑判決が出るほどの罪は現世で贖罪か死で償うしかないと思うのだが。

  • どのような罪を犯した上での死刑囚なのか語られることなく、死刑が執行されるその日に死刑囚の考えがどう推移していくかを中心に話が展開していく。徒刑囚として生きながらえるよりは、いっそのこと死刑とされることを望んでいた死刑囚の気持ちがどう変化していくかが、強い印象に残る。
    時代背景が違う現代において、短絡的に死刑を廃止するべきかを述べることはできないが、死刑という制度について考える機会を与えてくれる一冊であることは間違いない。

  • 死刑囚が、判決を受けてから刑を執行されるまでの精神の動きを描いた作品。
    徒刑に処せられるよりは死刑の方がましだ、と最初考えていた死刑囚が、命があるだけ徒刑の方がましだと考えるようになり、刑の執行が近付くにつれて当初持っていた冷静さ・平静さをなくし特赦を求めてわめくさまは圧巻。

    作品の根本にあるのは著者、ヴィクトル・ユーゴーの死刑廃止の思想であり、いかにその制度が非人間的であり、不条理なものであるのかが伝わってくる。

    小説部分はそこまで読みにくくはないが、小説の後にある(執筆されたのが小説発表の後なので)序文はわりと読みにくい。
    いいたいことはわからんではないけど。。

  • 始めは不名誉な長期刑より死刑を望んだ男(何の罪だか判分からないようにしてる)の心境を最後の1日を通して描く。
    ジャン・ヴァルジャンの原型みたいな告白をしてくる悪党や父の運命を知らぬ娘との面会など短いながらも印象的な場面が多い。
    作者自身の前書きというか詳しい解説つき。
    最期の瞬間は俺もこうなる。

  • 外国文学は苦手なのですが、卒論の資料として読了。
    19世紀フランスの文豪、ヴィクトル・ユーゴーの作品。
    小説としてではなく、死刑文学を考えるという視点から★4つの評価。


    小説そのものより、最後の序文がとにかく秀逸。
    1829年に書かれたものと考えると、衝撃です。
    今、私たちが展開する死刑存廃論は、めぐりめぐってもう新しい論は生まれない。
    しかし、その到達点以上のところに、ユーゴーは到達しているような。
    そういう死刑反対の論理を、彼なりに、今からすでに一世紀と3分の2世紀前にユーゴーは展開しているわけです。
    そして、彼の提言が今の日本ではまだ実現されていない。
    死刑、特に現行の日本の刑罰としての死刑を論ずるにあたって、読むべき1冊ではありますよね。


    ユーゴーの死刑廃止論。要約してみます。

    1.罪を犯した人間は社会に害をなしたのであり、再犯のおそれがある(=矯正不可能である)ものは生かしておいてはならない、という死刑肯定の大きな論拠に対する反論

    ユーゴーは、そのためには終身懲役で充分だと主張。
    看守がいれば十分なところに、ギロチン、死刑執行人はいらない。

    2.罪を犯した者は当然償わなければならない、という考え方に対する反論

    復讐は個人の事であり、罰は神の事である。そして社会は、両者の中間にある。中間にある社会は、復讐するために罰してはいけない。
    社会は、神が為すべきことと、個人が為すべきことを併せて一緒にやってはいけないのだ、と主張。

    (つまり、死刑制度というのは「復讐するために罰する」という行為を社会がやっているわけです。
    そうではなくて、社会は「改善するために矯正する」ということを為すべきだ、とユーゴーは主張しています)

    3.実例論(死刑肯定論)への批判

    実例論というのはつまり、犯罪抑止論、見せしめのための刑。

    見せしめのために、ないしは犯罪抑止力として死刑をやろうとすれば、とどまることのない死刑を触発せざるをえない。

    1820年代終わりごろから、フランスでは公開処刑だったのが、こそこそと裏で処刑が行われるようになった。つまり、死刑を行う側が死刑に対して恥を覚えている、罪の意識を持っている、ということの証拠である。
    そういう堂々と正義であるということを貫き通すことができないような刑罰をやってはならない、と主張。


    2と3の論拠はかなり深くて秀逸だと思う。
    現代社会にだって通用するような考え方だなと感じるからです。

    特に3なんて、今の日本の死刑そのまんま。秘密主義、進まない公開。すべては隠されてる。死刑を正義だって考えて存置している以上、情報は全て公開して堂々と処刑を行うべき。やましいところがあるのなら、死刑はすべきじゃない、と思う。


    最後に、ユーゴーはかなり興味深いことを書いています。

    死刑というのは、罪を犯した本人に対する刑罰であるはずなのに、その人と一緒に生きてきた、非常に大事な関係を結んできた家族等々を同時に処刑することになってしまう。


    …もっともっと国民が考えなければならないよなあ、と思ってしまいますね。
    もちろん死刑賛成論も廃止論もどちらも考慮に入れたうえで、もう一度見直す必要のある、究極のシステムです。
    国家が命を奪う、そういうシステム。うーん、難しい。

  • 『レ-ミゼラブル』のユーゴーが、死刑囚の一日を題材にしていたなんて驚き。
    内容を云々言うより、死刑への問題意識を持って、活動もしていたのだということが分かっただけでも、出会えて良かった一冊。

  • 本編は面白くサクッと読める。でもテーマが暗いから好みは分かれます。憐憫と醜悪が交互に折り重なって展開してた気がします。表現力はさすがです。短編の割に深く読めるのは確実な死が迫った人間の真に生きてる最後の瞬間を仔細に描いたからだと思います。岩波は序文を執筆順として本編の後に付けてます。序文は熱烈です。
    弥生時代以降、死が現実生活から隔離されており、近現代では全く身近では無くなっていると思います。そんな時代だからこそ死をテーマにした作品は人間の本質を忘れないために読みたいです。
    本編は読みやすい工夫もたくさんあったので忙しい方でも細切れで読みやすいですが、朝の電車通勤で読むとテンション下がるので時間帯を考えて読むことをお勧めします。

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