エルナニ (岩波文庫 赤 532-6)

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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003253267

作品紹介・あらすじ

私は突き進む力そのものです-16世紀スペイン、父の復讐のため山賊に身をやつし国王の命を狙うエルナニ。若き国王、老獪な公爵との間で展開される恋と陰謀のサスペンス。古典派の規範を打ち破る大胆な劇作は、文学史に名高い「エルナニ合戦」をもたらし、「文学における自由主義」を掲げるロマン派の新時代を打ち立てた。

感想・レビュー・書評

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  • 19世紀フランス・ロマン主義を代表する作家ヴィクトル・ユゴー(1802-1885)の歴史的戯曲、1830年2月25日コメディ=フランセーズにて初演。文学史上、本作品の上演成功を以て、17世紀以来の古典主義からロマン主義という新たな潮流への転換点とされる。



    古典主義では、ギリシア・ローマの古典的美を理想と考え、それこそが芸術家が規範とすべき美の普遍的価値基準であるとした。17世紀フランスでは、ラシーヌ、モリエールなどの劇作家が代表的である。そうした古典古代からの「普遍」性では括り切れない「個物」性に美を見出そうとしたのがロマン主義運動であると云える。そこでは近代的自我・自己意識が世界の中心を為し、世界を眼差し構成していく。世界大にまで肥大化した自我=世界は、自己意識を自己意識たらしめる要件としての自己反省の無限運動に内閉し、自我=世界"そのもの"に到達しようとして却って自我=世界を無限に対象化し続けてしまい、ついに実存的不安に則ち「実存」としての自己に覚醒することになるだろう。「事実性」「被投性」から逃れ得ぬ「実存」という在りように。

    「あなたは私を思っておられるかしれません、ほかの男たち皆と同じような男で、賢明な人間、自分が夢見る目標目指してまっしぐらに走る賢明な人間だと。それは大きな間違いです。私は突き進む力そのものです!」(エルナニ→ドニャ・ソル)

    小賢しい合理主義やただ即物的であるに過ぎない功利主義に矮小化されることを絶対的に拒絶する、何者かとして名指されることそのものを断固として峻拒する、無たらんとすることの裡にある自由への志向、極端への志向、これこそロマン主義という「若さ」そのものではないか。

    「・・・、私の王はエルナニ様です。あの方と手に手を取ってこの世と法の外までも彷徨うことを望みます」(ドニャ・ソル→国王ドン・カルロス)

    その「若さ」は、「社会」という下らぬ係累の一切を断ち切り、無限遠点という無へとひた走る。



    ロマン主義運動は、こうした世界観・時代精神の変化だけでなく、政治的変革とも連動していく。この意味で『エルナニ』上演及びその成功は、文学史的事件であるばかりでなく、政治史的事件でもある。復古王政期に王党派の詩人として出発したユゴーであったが、自由主義・人権思想などフランス革命の成果を一切無効化し旧体制への逆行ばかりを目指すシャルル十世の反動政策、とりわけ検閲の強化による言論の自由の封殺に対する文学者としての反発から、次第に自らの政治的位置を自由主義者へと変えていく。『エルナニ』の上演は、復古王政を打倒せんとする七月革命前夜という情況にあって、まさに演劇に於ける革命の前哨戦であった。

    「ロマン主義というものは、・・・文学における「自由主義」にほかならない。・・・文学における自由主義は、政治における自由主義と比べても遜色なく一般の理解を得ることだろう。芸術における自由、社会における自由。これら二つの自由こそが、論理的で首尾一貫したあらゆる精神が同時に到達しようとしなければならない二つの目的なのである。・・・文学における自由は政治における自由の娘である・・・。この自由の原則は今世紀の原則であり、ほかのすべてに勝る原則となる日も近いだろう」(序文)

    「演劇における自由を妨げるものは、受容者である大衆の側にはもはや何もないのだから、演劇の検閲が演劇の自由を妨げる唯一の障害である。・・・。検閲というこの、精神を裁く小さな宗教裁判所は、宗教の分野の異端審問機関と同じように、それ固有の秘密の審問官、覆面死刑執行人、拷問、四肢切断、そして、死刑を備えている。・・・。できることなら、筆者は検閲という警察の襁褓を引き裂いてしまうだろう、恥ずかしいことに、十九世紀にあってもなお演劇がくるまっている、検閲という襁褓を」(序文)

    古典主義に対するロマン主義の闘争は、アンシャン・レジームに対する自由主義の闘争と全く軌を一にしているのである。

    「だが、国王といえども、俺を侮り、嘲るのであれば、怒り心頭に発し、この俺の怒りは、王位の高みにまでも昇るのだ」(エルナニ→国王ドン・カルロス)

    「あなた[皇帝]の一族が処刑台を持つならば、私の一族は短剣をもっている」(エルナニ→皇帝カール五世となったドン・カルロス)

    ここには、国王・皇帝さえも到底及び得ぬ個人の感性の無限の高鳴りがある。これこそが、当時の革命的大衆の感性に伝染し共鳴した当のものだ。

  • ご立派な翻訳本でゴザイマス!読まない訳にはいきませんw
    演劇三原則を無視したロマン派劇の始まり。
    三角関係どころか四角関係、近親、山賊、王族、毒薬、なんでもありーの16世紀スペイン。
    「あなたのぶんとっておきました」って毒を飲むドニャ・ソル。ジュリエットより確実に強い。。。

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