カルメン (岩波文庫 赤 534-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (108ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003253434

感想・レビュー・書評

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  • Carmen(1845年、仏)。
    カルメンは筋金入りの悪女である。男とみれば誘惑する。色目を使ってたぶらかす。凶暴で狡猾、男を手玉にとりながら、密輸と窃盗で荒稼ぎする。やりたい放題の性悪であり、男に刺されても文句は言えない。だが、自己弁護をせず、情熱的だが執着心はなく、ドライでさばさばしているので、どことなく憎めない。身ひとつを武器にあらゆる難局を切り抜け、次々仕事をこなしてゆくさまは、いっそ小気味がよいほどだ。男好きする女というより、女に格好いいと思われるタイプの女である。『ルパン三世』の峰不二子に少し似ているかもしれない。

    『カルメン』はプロスペル・メリメ(1803-70)の代表作。ビゼーの歌劇の原作で、一般的には悲劇とされる。純朴な青年だったホセが、カルメンを愛したばかりに道を踏み外して犯罪者になった挙句、彼女を殺して自分も処刑される話だから、確かに悲劇には違いない。

    ただ、彼らの恋を悲恋と呼ぶのはすこし違うと思うのだ。「夫婦になったら恋人だった時ほど愛せなくなった、もうあんたには惚れていない」と言われたホセが絶望するのは無理もないが、よく考えたらそれは普通の夫婦にも起こりがちなことだ(言わないだけで)。それでも多くの場合は愛情が完全になくなるわけではない。次の段階に進むだけだ。

    その証拠にカルメンは逃げなかったではないか。逃げようと思えばいつでも逃げられたのに、殺されるのを知っていながら律儀に待っていた。彼女にとって生命より大事な自由はゆずれなかったが、生命はホセに差し出して彼の妻として死んだ。それが彼女なりの貞操だったのではないか。ホセに惚れたことを後悔していると言ったのは、柄でもない自分に対する自嘲だったのではないか。

    カルメンを救いたいというのは、確かにホセの本心だろう。だが二人で渡米したとして、開拓の苦労のためにすっかり所帯じみてしまったカルメンを、ホセは変わらず愛することができただろうか。生活が安定したときに、別の女を、第二のカルメンを求めることがないと、誰が保証できるだろう。ホセが愛するのは情熱的でスリリングな女であって、従順な女などではないことを、ホセ以上にカルメンの方が熟知していたのではないか。

    結局、自分で思っている以上にホセはカルメンに愛されていたのではないか。本人がそれに気づいていないのが悲劇といえば悲劇だが、その鈍感さもひっくるめてカルメンはホセのことを愛したのではないか。そう考えると、この二人は悲恋どころか、結構似合いの夫婦だったのではないか。…と私は勝手に空想するのである。

    • hei5さん
      これはっ!
      意表を突かれたと申しませうか、「こんな本があったんだ、そういえば。」です。
      近日中に讀んでみたいと思ひます。

      ......タダ...
      これはっ!
      意表を突かれたと申しませうか、「こんな本があったんだ、そういえば。」です。
      近日中に讀んでみたいと思ひます。

      ......タダではないので、若干の躊躇が。。
      2023/12/11
  • オペラやミュージカルで憧れて、ようやく原作を手に取った。
    音楽や踊りなどで華やかに彩られた舞台版の印象が強いためか、淡々と叙事的に物語が進んでいくよう感じた。当時の文化や社会や風俗などの描写は興味深く、また個人的に直前に中丸明の著者を読んでいたため、スペイン固有のものの名前が登場しても情景を浮かべやすかった。
    カルメンの最期の場面は、やいのやいの言い合っているうちに呆気なくころしてしまい、些か呆然としてしまったが、その直後のホセの行いと心情に感じた悲しみと切なさは、オペラ以上だったように思う。

  • ビゼー作曲の「カルメン」があまりにも有名ですが、原作をどう料理しているのかを知りたくて読みました。

    ストーリー本体はオペラのとおり「エリートの兵隊さんが妖しい黒髪の女によって運命を狂わされていく…」という展開で変わりありませんが、導入部が凝っていると思いました。旅の物書きが金品を美しい女に盗まれる。後日、盗まれたものが返ってくることになり、物書きがある所に受け取りに行くと、ある男に「自分の話を聞いて欲しい」と頼まれる。それは…という感じです(ネタばらしになってしまいました:すみません)。要するに、カットバックでの物語なんですね。

    別に、カルメンの生き方を悪いとも思わないし、ドン・ホセを気の毒だとも思いません。闘牛士のエスカミーリオも大スターなわけですし、女性を気に入ることなんか日常茶飯事でしょう。誰もが「こいつを破滅させてやろう」と絶対的な悪意を持っているわけではなく、でも悲劇的な方向に進んでいく・・・残酷ですね。

    オペラでは簡単に処理してしまっているところを埋めて読むにはおすすめですのでこの☆の数とします。

  • 勝手な思い込みで、てっきり作者のメリメもカルメンもスペイン人だと思っていた。
    スペインが舞台だけど、カルメンはボヘミア人。一つ学習。

    歌劇を観たことがなくても、たいていの人がなんとなく「カルメン像」というのは持っていると思う。
    私も観たことないし、あらすじも知らなかったので、いわゆる「情熱的な」女性を思い描いていた。
    しかし読んでみると、なんか想像していたのと違う。
    情熱というよりは欲望に忠実というか、「愛している」と言っても所詮男を道具としてしか見ていないような。
    プライドは高そうだけど、人をだましたり物を盗んだり、そうして得たもので喜々としてばか騒ぎをする。
    情熱に加え、気高さを持っていた私の中の「カルメン像」はガラガラと音を立てて崩れ落ちました。
    世の中の男性に問いたいが、「この女と一緒にいたら身が破滅する」と感じるのに、それでも離れられない女って実在しますか?すると思いますか?
    どうも私には「マノン・レスコー」も「カルメン」も理解しがたい。
    結局は女性のどんな面を魅力的と感じるのか、という問題なのだろうけど。

  • 面白かった。女にくるわされる純情な男の物語。

  • この本が課題書の読書会に参加した時、カルメンとホセの年齢の話になり、オペラを鑑賞している方はそうか原作では二人とも若いのか!と目から鱗のようだったのがとても面白かった。
    確かに、オペラだとベテランが演じることが多そう。
    私はオペラ等を全く見ずにこれを読んだので、ホセの若さも惨劇の主要因の一つだとすんなり思っていたのだけど。
    若くて愚かで面倒だけど、ちょっと可愛くもあるんだよねホセ…。
    最後の台詞で本当に馬鹿だなと思ったけどねホセ…。
    起こることだけを見れば悲劇と呼べるが、ラストのカルメンの潔さで、私にとっては胸のすく話だった。

  • オペラ「カルメン」の原作。ただしストーリーの骨格は類似しているものの、オペラの方が感動できる脚本に仕上がっている。メリメの原作はどちらかというとボヘミアン、ロマ、ジプシーの特異な暮らしぶり、風習、情熱といった民俗学的な関心が先行していて、そこに男女の(どちらかというと男の)熱情を加えたといった体裁。だからかあまり読者が乗れない物語になってしまっている気がする。あとホセが空回りしているだけに見えるが、あまりホセの感情を掘り下げることもしていないので乗れないのかなと思う。
    この岩波文庫版は翻訳としても古いので光文社古典新訳文庫で再読したいと思う。

  • 救われない終わり方でした。何故か読んでいる私まで途方に暮れるようなラストでしたね。

  • カルメンがそんな良い女には思えなかった

  • いつも2冊並行して読むのですが、片方が日本人によるビジネスノウハウ本なので、もう一冊は海外の古典的小説にしようと思って読了。数々のオペラや演劇で上演されているカルメンだが、原作とは異なる点が多いそう。確かに、裏切りや殺人など、ドロドロの場面も少なくない。ただ、晴れ渡ったスペインの海や平原地帯、船乗りや盗賊が闊歩する街中、酒と金、自由と誇りなどが織り混ざった物語を読んでいると、旅に出たくなる。これって本能?

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著者プロフィール

プロスペル・メリメ(一八O三~一八七O)フランスの作家、歴史家、考古学者、官吏。『シャルル九世年代記』、そしてビゼーのオペラ『カルメン』の原作となった同名の短篇の作者として有名である。法学を学んだ後官吏になり、歴史記念物監督官として、多くの古代・中世の遺跡保存に活躍した。

「2011年 『南欧怪談三題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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