神々は渇く (岩波文庫 赤 543-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003254332

感想・レビュー・書評

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  • 再読。自分のフランス革命に関する基礎知識が「ベルばら」(+ラ・セーヌの星・笑)ベースなので、バスチーユの襲撃→国王と王妃はギロチン送り、はい終了、みたいな感じだと勝手に思い込んでいたのだけれど、実際にはその後数年にわたる革命政権による恐怖政治時代があり、名前だけはなんとなく憶えているロベスピエールやサン=ジュストなどが処刑されるまで、全部ひっくるめてフランス革命なのだなと改めて勉強になった。

    日本でも明治維新前の各藩や幕府内部では、主導権を握る人間がめまぐるしく入れ替わり、その都度前任者は断罪され、まさに血で血を洗う抗争、最終的に勝ったほう次第で、かつて謀反人として処刑された人間が英雄として奉られたりもするし、その逆もしかり。フランスでもつまり似たようなことをやっていたわけですね(幕末おたくの理解度)

    貴族や政治犯だけでなく、たんなるパン売りの娘や娼婦まで次々とギロチン送りにされる理不尽さ。まるで魔女狩り。どれだけ生贄を捧げても血に飢えた〝神々”は満足しない。まさに「神々は渇く」

    歴史ものとして読むには、正直フランス革命に関しての知識が足りないので十分読み込めたとは言えないのだけれど、単純に物語としては、人物の造形や配置が絶妙だなと感心。愛国心が強いだけの真面目な画家だった主人公エヴァリストが、やがてその母にまで「これは人でなしだ」と思われるまでに変わってゆく姿に説得力がありすぎてこわい。(勝手な思い込み=勘違いで恋人の元カレと決めた男を処刑したのとか最低だったなー)

    解説にもあったけれど作者自身を投影したと思しき無神論者でエピキュリアンなブロトは魅力的だった。彼が助けた神父さんや娼婦、元愛人など、取り巻く人物たちとの関係性や伏線も効いていて、ある意味彼が影の主役かも。

    そして結局最後まで生き残るのが、政治や思想を一切語らず、ただただ女性を追い掛け回してブレることのなかった版画家デマイだけだったというのも感慨深い。エヴァリストの恋人エロディも好きだった。彼女の最後のセリフは切なかった。

  • フランス革命に続く恐怖政治時代のことは知らなかった。しかしこれが奇妙にも現在の状況に通じてしまうところが恐ろしい。まさに、歴史は繰り返す。何度でも、繰り返す。つまり、人間は過去に学ぶことができない、ということなのだろう。
    正義は、時代によっても、状況によっても変わってくる、相対的なものだけれども、それぞれの人間がそれぞれに考えて、自分が正義だと信じることを実行する。ガムランも然り。しかし、どこまでも正義を貫こうとすることは、たいていの場合、悪に通じている。まるでメビウスの輪のように。アナトール・フランスが説くように、必要なのは正義ではなく、寛容なのだ。正義のために、誰かが排除されるようなら、それはもはや正義ではない。
    そして、『神々は渇く』というタイトルが意味深だ。この世界に神がいるとしたならば、まるで神は血を求めているようだ。なぜ神は人間を創りたもうたのか。この、争いを好む人間を。まるで神は血に飢えているようではないか。
    この物語の中で最も良識的だと思われるブロト・デ・ジレトは、声高に主張することはない。ただ身近な人間に、思うところを語るのみだ。最期の時においてさえ、静かにすべてを受け入れている。本当のことは、こうして失われていくのではないだろうか。間違いを主張する者の声ほど大きい。
    そして、エロディはガムランの死後も、まるでガムランなど始めから存在しなかったかのように、日常に戻って行く。多分、これが一般市民の姿なのだろうけれども、そのなんと恐ろしいことか。否、人間はそうしてすべてを忘れて生きていくのだ。それが、人間なのだ。

著者プロフィール

1844-1924年。パリ生まれ。高踏派詩人として出発、その後小説に転じて『シルヴェストル・ボナールの罪』、『舞姫タイス』、『赤い百合』、『神々は渇く』などの長篇でフランス文学を代表する作家となる。ドレフュス事件など社会問題にも深い関心を寄せ、積極的に活動した。アカデミー・フランセーズ会員。1921年、ノーベル文学賞受賞。邦訳に《アナトール・フランス小説集》全12巻(白水社)がある。

「2018年 『ペンギンの島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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