ジャン・クリストフ 2 (岩波文庫 赤 555-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003255520

作品紹介・あらすじ

高く掲げた理想主義の背後にひそむ虚偽。クリストフはドイツ芸術の偽善に激しく戦いを挑んだ。社会は敵意と無理解をもって答えた。苦悩と闘争の日々。ついに彼はドイツを去る。行先はパリ。だが逸楽の都パリの濁った空気は彼を一層ひどい孤立に追いこむ。

感想・レビュー・書評

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  • とんがった気性で周囲との軋轢が絶えなかったクリストフですら、やがて人柄にやわらかなものを身につけてゆく。自分も見習わなくちゃ…なんて思うのであった(笑)。

    * * * * *
    前巻末の失恋を機に、本物の感情を知ることとなったクリストフ。音楽創作でもまがいものでない真実の情感を表現した楽曲であるべしと開眼。楽曲創作の次元を、一段深いステージに深める。
    そのため、自身の過去の曲も、他の巨匠らの楽曲も薄っぺらの偽物に思えてしまう。のみならず、その批評を常に公言し続けるため、周囲の音楽関係者や宮廷のパトロンに大きな軋轢を生じさせてしまう。
    クリストフは妥協なき言動を続け、周囲の人々と摩擦や軋轢を繰り返す。やがて故国ドイツには自分の才能を理解する余地なしと悲観。出国を願うように。
    そしてある日、村の近傍に駐屯していた陸軍兵士らが居酒屋で狼藉を働くのに遭遇したクリストフは、その兵士らと乱闘。官憲の追及を逃れよ、という村人の勧めを機に、鉄道で国境を越えて脱出国。ベルギーを経てフランスへ。 以降「フランス篇」の始まりとなる。

    パリで、ドイツ時代の知己をたよりに暮らし始めるクリストフ。だが、彼はここフランスでも、芸術文化のスノビズムというか、聴衆や批評家の底の浅さに気付き失望。だが、その一方で、彼の音楽の才能を理解する者が、少しづつ現れてゆく。
    その後、クリストフは、熱を出して寝込んでしまう。この病を機に、彼の尖鋭で攻撃的な人柄がいつしか和らぎ始める。街ゆく人々にたいして共感や親愛の情をいだくようにもなってゆく。
    さらに最本巻の終盤、クリストフは青年オリヴィエに出会う。オリヴィエはクリストフの音楽に心酔する青年でその想いには一途さも感じられる。これまでの物語ではクリストフの刺々しい面が目立ったが、次巻第3巻以降は、友情や支援者に恵まれて穏やかな展開になることを予感させる。

    さて、フランス篇に入っても、微に入り細を穿つ音楽論が濃厚に語られる。さらには文学論、文明論・政治論にまで展開。そうした論が延々続くパートもあり、辟易する。
    当時は編集者が居なかったのだろうか。
    19世紀小説などにはそういう過剰な評論パートみたいなものによく出会う(本書刊行は1904-12)。例えば「戦争と平和」第4巻末の70頁に及ぶ“歴史学講義”や、「レミゼラブル」の長大な“パリ下水道講義”など。

    私が本書「ジャン・クリストフ」の担当編集者だったら、作者にたいして “このフランス文化論考的な条り、ざっくり削りましょう”と進言している。余談だけど。

  • 長くかかりました。

    最後の1行のために書かれたのではないのか。

    「俺には一人の友がある。」

    もはや音楽といや、芸術と対峙すらしていない。
    そのものであると言えるほど純潔な青年は今後どうなるのか。

  • ドイツの古い宮廷音楽の世界でクリストフはピアノ演奏や作曲を父親から徹底して仕込まれ、音楽家の卵として周りからも注目される実力を身につける。成長に伴い当時のドイツ古典派・ロマン派作家やその演奏に対する疑問や不満が芽生え、ついには爆発する。古典派の自由の欠乏・月並みな音楽的修辞での誇張・機械的な繰り返しとこねくり回し、ロマン派の下卑た騎士道・偽善的なもったい振り‥‥それは彼の母体・幼年時代の偶像であるドイツ芸術そのものへの盲目的な反動と反発になり、懐疑・否定・軋轢を生み、暗黒で苦悩の人生に突入する。
    ドイツを飛び出しフランスパリでの生活に入るが、ここではもっと酷い環境に遭遇する。虚偽の化身・理性と理屈と空論と心理と時代遅れの考古学の陳列・果てしない饒舌、クリストフは淫猥で熱狂的な社交界の腐敗に翻弄されながらもフランスの魂を求め続ける。音楽の世界では評論家が跋扈し対位法派と和声派に分かれて無為な議論を繰り返している。
    音楽に疎い自分には理解はおろかついていくことすら大変である。いろいろな登場人物とのエピソードも多く話が哲学や宗教・政治や歴史に及び、作者の経験と知性が総動員されるくだりである。時代を先取りする思想や価値観そして倫理観に裏打ちされていて充分読み応えがある。芸術家が生まれるための生みの苦しみ、悩みの深さ、生活の苦しさが当時のドイツやフランスの社会状況の中で克明に描写される。‥‥「彼は疲れ、凍え、飢え、一人きりであった。」
    この作品にとっては、芸術や音楽が人間の心との関わりを究める高潮する場面であり、読み手をさざなみのように段々と高揚感の世界に誘導していく。

  • 文学

  • ドイツの文化を知れば知るほどイミテーション感に苛まれ、フランスに逃げたと思えばそのフランスにも嫌気がさす。しかし最後はフランスへの敬愛。クリストフの心の矛盾を最も楽しめる章。

  • 青空文庫で読んだ

  • 心に残ったところ。

    「いかなる民族にも、いかなる芸術にも、皆それぞれ虚構がある。世界は、些少の真実と多くの虚偽とで身を養っている。人間の精神は虚弱であって、純粋無垢な真実とは調和しがたい。その宗教、道徳、政治、詩人、芸術家、などは皆、真実を虚偽の衣に包んで提出しなければならない。それらの虚偽は各民族の精神に調和している。各民族によって異なっている。これがために、各民衆相互の理解がきわめて困難になり、相互の軽蔑がきわめて容易となる。真実は各民衆を通じて同一である。しかし各民衆はおのれの虚偽をもっていて、それをおのれの理想と名づけている。その各人が生より死に至るまで、それを呼吸する。それが彼にとっては生活の一条件となる。ただ数人の天才のみが、おのれの思想の自由な天地において、男々しい孤立の危機を幾度も経過した後に、それから解脱することを得る。」

    「生涯のある年代においては、あえて不正であらなければいけない。注入されたあらゆる賛美とあらゆる尊敬とを塗沫し、すべてをーーー虚偽をも真実をも、否定し、真実だと自分で認めないすべてのものを、あえて否定しなければいけない。年若い者は、その教育によって、周囲に見聞きする事柄によって、人生の主要な真実に混淆している虚偽と痴愚とのきわめて多くの量を、おのれのうちに吸い込むがゆえに、健全なる人たらんと欲する青年の第一の務めはすべてを吐き出すことにある。」

    「年老いた心は、若い心にごく近く自分を感じ、ほとんど同年輩くらいに感じ得る。両者を隔てる年月がいかに短いかを知っている。しかし青年はそれを少しも気づかない。青年にとっては、老人は異なった時代の人である。そのうえ、青年は目前の配慮にあまり心を奪われていて、自分の努力の悲しい終局からは本能的に眼をそらすのである。」

    「孤独、疾病、困窮、苦しみの理由は多くあったにもかかわらず、クリストフは我慢強く自己の運命を耐え忍んだ。かほど忍耐強いことはかつてなかった。彼自身でも驚いた。病気は往々ためになるものである。病気は身体をこわしながら、魂を開放する、魂を浄める。無活動を強いられた夜や昼を過ごすうちに、あまりに生々しい光を恐れ健康の太陽にはやかれるような、種々の思想が起こってくる。かつて病気になったことのない者は、決して自己の全部を知ってはいない。」

    特に青年に関する記述は非常に共感できるものがあります。

  • 読むのに物凄く時間を費やしました。
    序盤のドイツに居た頃の話は、引き続き夢中になって読みましたが、
    パリーに行ってからは思想のお話が中心で難しくて…。
    本当に沢山の出会いで、人の一生は彩られたりくすんだりするものですね。
    病気は身体を壊しながら、魂を開放する。
    嘗て病気になった事の無い者は、決して自己の全てを知ってはいない。
    という所がとても印象的です。
    一度折れた翼でなければ、飛べない空はあるのだと私もそう思います。

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著者プロフィール

1866年、フランスの中部クラムシーに生まれ、1944年に没する。作家、音楽史家。第一次世界大戦中は反戦論を唱え、第二次世界大戦中も反ファシズムをアピールした。文学や芸術の領域で活動するだけでなく、現代社会の不正と戦い、人権擁護と自由を獲得するために政治的・社会的論争を起こし行動した。1915年、ノーベル文学賞受賞。主な作品に、大河小説『ジャン・クリストフ』、『魅せられたる魂』をはじめ、『ベートーヴェンの生涯』や『戦いを超えて』、『インド研究』などがあり、そのほか、小説、戯曲、伝記、自伝、評論、日記、書簡などの膨大な著作がある。

「2023年 『ジャン・クリストフ物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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