ジャン・クリストフ 3 (岩波文庫 赤 555-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (613ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003255537

作品紹介・あらすじ

「俺には一人の友がある!苦しいとき身を寄せられる一つの魂が!」孤独の闘いをつづけるクリストフの前に現われたのがオリヴィエだった。彼との友情を通し、クリストフは虚飾の奥に隠されたフランスの真摯な知性、敬虔な魂の存在に眼を開かれてゆく。

感想・レビュー・書評

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  • この巻の初めは「アントアネット」の章。約130ページ。姉アントアネットと弟オリヴィエ、この姉弟の物語を綴る。クリストフへの言及は少しだけで独立した中編小説でもある。
    前巻あたりのドイツ時代、クリストフはフランス人家庭教師の女性と邂逅、クリストフが原因で彼女は解雇されてフランスに帰る。痛切で印象的なエピソードがあるのだが、その時の女性がこのアントアネットなのであった。

    この巻もクリストフのパリでの生活、活動を描く。
    クリストフは相変わらず周囲との摩擦や軋轢が絶えない。だがその一方で音楽家(作曲家)としての評価が徐々に高まってゆく。

    前述のオリヴィエと出会い、彼と共同生活を始める。オリヴィエは、クリストフの楽曲と才能に心酔していたのだ。崇拝者とも言える。クリストフとオリヴィエの友情が紡がれててゆく。オリヴィエはクリストフの活動を支えてゆく。

    その他、諸々の展開あり。
    ドイツの故郷に遺して来た母から病が重いとの報あり、クリストフはオリヴィエと共に帰郷。母の最期を看取る。
    オリヴィエはジャクリーヌという富裕な家の娘と恋愛、結婚。だがその結婚はやがて破綻してゆく。

    クリストフは舞台女優フランソアーズと出逢い、程なく同棲。だが、互いに強烈な個性を持つ二人の運命はひとつになることはない。そのディテールや観念もまた丁寧に記述してゆく。この部分が味わい深い。
    現代の男女の、究極には分かり合えない心の溝、その宿命的な哀しさ。下記のような一節がある。

    「 二人はいっしょに力強い豊満の瞬間を味わったが、しかし二人はあまりに異なっていた。そして二人とも同じく激しい気質だったかr、しばしば衝突をきたした 」p508
    「 彼女は彼の害になっていた。 」p515

    現代小説の深みに到達した感がある。

    この巻の終幕、クリストフは傷心のオリヴィエのためにピアノに向かう場面がある。

    「ブラームスの旋律を一つ歌って聞かせようか。 」
    「 君は今では旧敵の作をもひくのか。」p612

    そしてクリストフはオリヴィエを抱き締める。
    さしものクリストフも穏やかで円くなってきたようで、しみじみと胸に迫る思いがした。

    才気走るあまり尖鋭な言動を繰り返し失敗も多く、いつも生活は困窮していたクリストフ。だが、本巻では人生の実りの季節を迎えつつあるようだ。彼の人生の伴走者のように感じ始めている読者として感慨深い。

    因みに はっきりと書いていないのだが、本巻のクリストフはおそらく20代後半から30代半ば位の様である。

  • フランス中西部の小都市、銀行家ジャナン家の描写から始まる。二人の恵まれた子供、美しく健康的なアントワネットと6歳年下の消極的なオリヴィエ姉弟の話、父の破産による自殺・母とパリへの夜逃げ・頼った親戚からの冷遇・母の頓死‥苦境に次ぐ苦境、アントワネットが母に代わりオリヴィエを守り育てる、弟を将来保証の官費師範学校に入れるが過労と疾病で早逝する。姉の献身は濃密な描写で深い感動と涙を誘う。彼女はクリストフにも遭遇しておりその思いを唯一メモに残し後にオリヴィエが読むことになる。
    オリヴィエはクリストフと深く強い友情を育む。この小説はクリストフの物語でありながらも、オリヴィエの生い立ちをこれ程詳しく150ページにもわたって諄々と書き連ね、別の小説を読んでいるかと錯覚する程である。しかし違和感は無くこの作家らしさを痛感するだけである。
    やがてオリヴィエにジャクリーヌという恋人ができ結婚し子供ができるが彼女は二人を置いて家を出る。
    その間クリストフはジャーナルにも取り上げられ名を上げる。ユダヤ人のこと、ドイツ出身による差別の問題等を抱えながらも音楽の探究や芸術論に勤しむ。「貴族や一部の専門家のものではなく一般の人々と交渉する音楽」「他人に結びつく芸術」「人間の苦しみの神聖な果実としての芸術」‥これは今でも通用する。かつてクリストフからピアノを習い愛情を持ったグラチアが外交官の妻になり、彼の評判向上に寄与するが、アメリカに転居することになる。
    クリストフが音楽家として生きるうえで、友情・恋愛・国籍問題・芸術論‥、時々の課題への対応が克明に描写されている。臨場感に溢れ倫理と情熱の結晶として作者の思いが見事に体現している。圧倒的な傑作としか言いようがない。四に続く。

  •  この本はすごい本だ。
     十年前に手にした時も、そして今も、苦しい時、悩んだ時、
    「負けるな!」
    と、喝を与えてくれる私の友達だ。クリストフと、オリヴィエと、そして、胸中の自分自身との対話の時間。「この一冊に、ありがとう」と言いたい私の「座右の書」。
     
     俺には一人の友がある! 自分の遠くに、自分の近くに、常に自分のうちに、友がある。

  • 文学

  • 青空文庫で読んだ

  • 同じアパート内の方々との思想のやり取り辺りは
    どうしても読書ペースが落ちてしまいますが、
    序盤のアントアネットの所や、女友達の部分は凄く面白くて、
    夢中になってペエジを捲りました。

    あれほどフラグが立っているムードだったので、
    アントアネットと結婚とかするのかしらと思ったら、
    まさかの再開すら果たせず病死…。
    でもオリヴィエと出会う事で、息を吹き返す事が出来て、
    本当に良かったなと思います。

    最後の方のジャックリーヌが情夫と駆け落ちしてしまった際の、
    クリストフとアルノー夫人のやり取りが凄く印象的です。
    本当に女性って中々不幸せな生き物ですよ。
    そしてついにクリストフを窮地から救った人の
    正体が明らかになりましたが、
    グラチアと聞いて最初誰だか思い出せませんでした(笑)。
    そう云えば居ましたね。
    元より思慮深い、
    他の女性の様な愚かな果敢さの無い女性という印象でしたが、
    更に素敵な女性に成長していて嬉しい驚きでした。

  • オリヴィエとジャンクリストフの友情は、昔ならば美しい 純粋な愛情の模範となったのかもしれない。
    が、21世紀の今日から見れば あまり羨ましくない ようなものに思われる。
    なので、第六章『アントアネット』の勢いに比べ、第七章『家の中』は読むのが非常に億劫であった。
    が、それも320ページ目前後から、各住人がクリストフに影響を受けるあたりから、面白くなり始めた。

    この小説を読んでいると、闘争心がわいてくる。自分もジャンに感化されている。

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