ジャン・クリストフ 4 (岩波文庫 赤 555-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (517ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003255544

作品紹介・あらすじ

友オリヴィエの突然の死。人妻アンナとの愛の苦悩。運命が次々とくりだす試練に絶望し、クリストフは山中に身を隠す。が、森を揺がす春の嵐の唸りの中に、再起を命ずる神の声を彼は聞いた。新境地を得たクリストフの前にやがて明澄な世界が開けてゆく。

感想・レビュー・書評

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  • 知られざる佳品のように思う。読んでみると、激動のドラマがあり、感情や観念の描き込みも深く、読み応えがある。だが、分厚いボリュームもあってか、敬遠され食わず嫌いされている感がある。欠点もある。文明批評というか文明論の書き込みが過剰に過ぎるのだ。なので角川文庫版「レ・ミゼラブル」の様な抄訳版にして、過剰な評論パートをスリムにして、クリストフの劇的な人生行路を主軸に翻訳すれば、現代の多くの読者を楽しませる著作として、再生できるように思う。

    ※以下 特にネタばれ あり ***** 

    本巻で、クリストフは、精神の荒野をゆくが如しである。冒頭近く、パリの革命的暴動の最中、親友オリヴィエが撃たれて死去。クリストフ自身も、治安部隊の兵士を剣で貫いて殺し、またもや官憲から追われる身となる。クリストフは、フランスとスイスの国境地帯に逃れる。オリヴィエ喪失の傷心で心身ともにボロボロになって野や町村を彷徨。旧い友人ブラウンを頼り、その邸に匿ってもらう。
    そして、同地、スイス?付近の小さな町で、心の痛手を少しづつ癒してゆくクリストフ。だが、またしてもクリストフは、ここでブラウン夫人アンナと破滅的な恋愛に落ちる。アンナと拳銃による心中を図る。
    ここでのアンナのエピソードは面白い。不幸な生い立ちから氷のように心を閉ざして生きてきたアンナは、クリストフの音楽に触れ、内面の情熱と官能が目覚めてゆくのだ。

    クリストフは、ブラウン邸を出奔し、スイスのさびれた村に身を潜め。山嶽地帯を彷徨う、精神の荒野を彷徨し続けるのだ。

    その後スイスの峻厳な山嶽と大自然を前にしたクリストフは、大いなる自然と豊かな光を受け止めるなかで、啓示をうけるようにして、再生への一歩を踏み出す。
    同じころ、クリストフは、スイスの小さな村で偶然に、グラチアと再会。彼女と心の深いところで結ばれる。クリストフはグラチアに心酔し求婚。(クリストフは、どうも惚れっぽくて、すぐに求婚しがちである)だが、グラチアは、クリストフと精神的な結び付きのままでありたいと感じており、その友情関係で、また信頼関係のままでいることの幸福を願う。そして、ふたりはスイスの山道で別れる。
    クリストフは、山国スイスの麓から北イタリアへ降りてゆく。以前はしっくりこなかったイタリアの陽光あふれる自然や市街、史蹟、音楽に対してクリストフは、新たな魅力を感じるのだった。
    クリストフの音楽創造は、又しても新たな深みと陰翳を獲得したことが示唆される。クリストフは、ローマを訪ねてグラチアと落ち合う。

    パリに帰ったクリストフ。オリヴィエの息子ジョルジュが訪ねてくる。ジョルジュは若く魅力的で才気あふれる青年に成長していた。さらに、オリヴィエを師と慕っていたエマニュエルとも再会。
    クリストフは、すでに老境に至っている模様。かつて尖鋭な言動が目立ったクリストフだったが、穏やかな眼差しで、ジョルジュとエマニュエルふたりの若者を見つめるのであった。

    その後、グラチアはクリストフと再会することなく、病死。

    そして最終幕。死がクリストフを迎えつつあった。
    彼は穏やかな心持ちで自身の人生を振り返る。芸術創造に賭けた青春の日々、周囲との絶えざる闘争。その闘いの日々で彼を支えた友や愛した女性たちへの感謝の想いを深める。さらにはクリストフを批判し続けた批評家達などかつての敵に対してすら感謝の念を感じるのであった。

    また欧州各国の市民の協調と平和共存を願う( 時代は第一次世界大戦前夜でキナ臭い空気が充満していた )。

    最期も圧巻。クリストフは遠のく意識の中で音楽に包まれる。それが神の音楽であるのを感じる。そして最期に臨んで混沌とした意識の中でなお、新たな交響楽曲を創造せんとする。壮絶にして豊穣な生き様である。
    こうした音楽創造の荘厳な内面・観念を、文芸で彩り豊かに描かんと挑んだスペクタクル。他に類例なしと感じた。

  • 産業革命による労働者と中流知識層の台頭のなか、クリストフとオリヴィエはともに貧困・政治の意識集団に巻き込まれ、混乱の渦中でオリヴィエは官憲に刺され死亡する。突然の友の死を、後で知るクリストフはスイスに逃げてブラウン夫妻に庇護され絶望の淵を彷徨う。そこで恩人のブラウンを裏切ることになる信心深い妻アンナとの恋に堕ち、二人で心中を図るが失敗し単身出奔。無二の心友の死と出口のない不倫が「燃ゆる荊」の章の中心をなす。一人の音楽家を大成させるため過酷な鍛錬のプロセスであり、この物語のコアの場面である。                 時を経て、クリストフは偶然会った昔の恋人グラチアとイタリアに滞在し音楽家として、ドイツ・フランスにイタリアの思潮をも加え厚みを増す。社会や周囲との関わり方も老練さを増し、長い不在後のパリでの評価も一段と向上する。心の支えであるグラチアとは結ばれる事なく先立たれ、気になるアンナのその後を知る安堵のなかで、老境のクリストフは意識が研ぎ澄まされ自身の過去と現在と霊界を音楽とともに彷徨う。死が消滅ではなく永遠の宇宙空間への拡がりであることを悟る。因縁深いオリヴィエの息子ジョルジュとグラチアの娘オーロラに看取られて冥界に旅立つ、壮絶なクリストフの音楽家人生の閉幕である。音楽の世界で国や歴史を跨ぐ社会の軋轢にめげず、常に理想を求め深い友情と愛情に生きた芸術家の一生であった。ロマン・ローランの冷静な中庸主義の洞察と歴史観が底流をなし、緻密で丁寧なそして膨大な心理描写や思考の集積には脱帽である。
    名実ともに世界の大作であり一頭地を抜いた名作である。存分に楽んだ、ありがとう。

  • 長大なジャンクリストフの人生の物語。読み切るだけでなんとなく満足感を感じてしまう。前半はやたらと直上的なクリストフがアントアネットと出会い、オリヴィエと心を通わせて重層的な人間になってゆく成長を共に過ごしたような気分になれる。そんな成長はオリヴィエやグラチア、母親をはじめとした人々の死により句読点を打たれていく。結局人の人生は人との別れに彩られずにはいられない。ベートーヴェンをモチーフとしていると言われるクリストフの芸術が本当にどのようなものかはわからない。しかし彼が死の前にたどり着いた境地の描写は芸術家の心の中を覗き見たように感じる。通底するのは人類愛的なロマンロランが夢想した世界全ての受容のように思うけど、世界は第一次大戦によりこれを激しく裏切る。そんな意味でこの物語は二度とは戻れない断絶した美しい時代の記録のように感じる。
    30年くらい前に早稲田の穴八幡で買った平凡社世界名作全集版で読了。

  • 灯火親しむ秋の夜長、昨年はユゴーのレ・ミゼラブルを、今年はロランのジャン・クリストフを写し取った。

     昔なすったことをもうお考えなさいますな。これからなさることをお考えなさいませ。後悔はなんの役んもたちません。後悔とはあとにもどることです。そして善においても悪においても、常に前へ進まなければいけません。前へ進め、サヴォア兵!です。
    パリ-にとどまって、創作し、活動し、芸術的生活に交わりなさいませ。あなたが断念なさることを私は望みません。私はただ、あなたがりっぱなものをお作りなさること、それが成功を博すること、あなたが強くしっかりしていられて、同じ戦いをくり返し同じ苦難を通ってゆく、新しい若いクリストフたちをお助けなさること、それが望みです。彼らを捜し出し、彼らをお助けなさい。先輩の人たちがあなたに尽してくれたよりも、もっとよく、後輩の人たちに尽しておやりなさい。-そして最後に、あなたの強者であることが私にもわかるように、あくまで強者であられることを望みます。そのことが私自身にどんな力を与えるか、あなたは夢にも御存じありますまい。

     女友達のグラチアがクリストフに宛てたこの手紙を読み返し、思索し、感じたことを、新しい若いクリストフである教え子たちに伝えたいと思った。

  • 人生とは闘争の連続である

    才能豊かであればあるほど、"生きる"ということに誠実的であればあるほど、"人として生きる"ことが難しく刹那的になってしまうんだろうかと…人生の様々な矛盾について嫌でも考えてしまうとても魔力のある本でした。

    大学の頃に読んだ本でしたが10年経った今でも、辛いことがあると思い出し好きだったフレーズのシーンを読み返す思い出の本です。

    長編でセリフが少なく古典文学特有の心情描写が多くて初めて触れる方はとても眠たくなるかも知れません(私もそうでした)。

  • 強烈な個性の誠実な一生涯、全ては理解できていないけど、読み終えて景色が変わった気がする。

  • 文学

  • 青空文庫で読んだ

  • 遂に全4巻読み終わりました!
    実に面白かったです。
    今になってみると、宮廷楽士をしていた頃や、
    オリヴィエと出会った頃が、自分の事の様に懐かしく感じます。

    私も1つの人生にずっと寄り添い続けたような、
    誰かの前世の記憶をそっくり貰ったような、
    そんな感覚を覚えました。
    それだけ、この4冊は豊かな瑞々しい本だったと思います。

    やっぱり愛し合ったけれど結ばれない…
    というのが一番美しい愛の形なのでしょうか。
    クリストフがよく思い出すのはザビーネとグラチアで、
    グラチア自身も愛し合っているからと云って結ばれるのが
    必ずしも良い事とは限らないというような事を言っていますし。
    愛し合ったけれど結ばれずにに死を迎えれば、
    永遠にその思い出が穢れる事はありませんものね。

    あ、そう云えばカバー裏に公式からのネタバレと云う
    刺客が送り込まれていました。読まれる方は御注意下さい。

  • 8巻までの話と9巻の途中「人妻編」以降の話がすっきりと自分の中で繋がらず、違和感が残っている。クリストフ青年期までは割と共感して読めるのだが。
    著者がそれまでに描いてきた、19世紀末の退廃的なフランスを、ゲルマンとラテンの融合によって再生しようという意図はここへきて急に消えてしまい、人類や次世代への「愛」がクローズアップされる。老クリストフの、若者たちを愛する境地に立つには、まだ自分は若すぎるようだ。また折を見て再読したい。

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