愛と死との戯れ (岩波文庫)

制作 : 片山 敏彦 
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  • Amazon.co.jp ・本 (120ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003255599

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  • 20世紀フランスの作家ロマン・ロラン(1866-1944)による「フランス革命劇連作」の一つ、1925年。本作は「精神の友」シュテファン・ツヴァイクに捧げられている。

    この戯曲の主題は、革命議会で身の危険を賭してまで自己の信条を貫こうとする老学者ジェロームと公安維持委員会のカルノーとのあいだで行き交わされる真理への愛と友情と政治主義との葛藤、ジェロームとその妻ソフィーとのあいだで行き交わされる愛と犠牲との葛藤であると云いたい。この三人に比すれば、ジロンド党員の逃亡者ヴァレーは、この物語の劇的な緊迫の中心に位置づけられるべき存在であるとは、どうしても認められない。ジェロームとカルノーとのあいだに、ジェロームとソフィーとのあいだに、生そのものから否応もなく立ち現れてくる苦悩を観ずる。ヴァレーのそれは苦悩ではない、もっと卑しく荒くれて浮ついた何かだ。彼の「若さ」には、生それ自体によって引き裂かれようとしている三人の苦悩と比べれば、どこか幼稚さが窺われてしまうのである。

    舞台は1794年、フランス革命の混乱がロベスピエールを中心とするジャコバン派による恐怖政治へと転化していく緊迫した情況下のパリ。革命政府により設置された革命裁判所が、日々誰かに反革命分子として死刑を宣告し断頭台へと送っていく。次は誰が送られるのか。常に周囲の政治的潮流に神経を尖らせ、密告に怯え、猜疑に猜疑を重ねながら、日々の自らの身の処し方を決めていく。少しでも時流から逸れるような言動があれば、すぐに断頭台が待っている。昨日反革命を断罪した者が今日は死刑を宣告される身になるかもしれない。そんな恐怖政治下の情況が非常に生々しく描かれており、本作品の基調を為している。観念に於いて高邁な人道主義・自由主義・理性主義が、現実に根を下ろそうとすると何という野蛮に転化してしまうことだろう。フランス革命史を知れば知るほど、この矛盾に遣り切れなくなる。それは時代を問わずあらゆる政治運動に見出され得る陰惨さだ。ジェロームは悲嘆に暮れて云う。「人間に自由を与える目的のために起こるあらゆることがら、人間を高めようとこころみるあらゆる事柄が、ただ人間の野獣性をさらけ出すことにしか役立たないのだ」

    しかし、彼は高貴な生を生き、以て死を迎えようとする。

    ジェローム「われわれの仕事とは、自由な人間の権利の礎を築こうとすることだ」/カルノー「人間が自由であるためには、まず人間を奴隷にする者に対して人間を護らなければならない。個人の権利は国家の権力がなければ無にひとしい」/ジェローム「それが国家の権力の犠牲となってしまうなら、それは無にひとしいのだ」/カルノー「それは現在ありはしないのだ。やがてあるようになるだろう。現在を未来のために犠牲にしようじゃないか?」/ジェローム「真理や愛や、あらゆる人間らしい徳性や自尊心を未来のために犠牲にするということは、とりも直さず未来そのものを犠牲にし亡ぼすことだ。正義は罪に汚れた地面からは生えはしない」

    最後に引用したジェロームの科白に、ロマン・ロラン自身の、政治主義を超えた理想主義が高らかに響いている。それが政治的に正しいのかどうかは、分からない。そもそも政治的正しさとは何だろうか。「目的は手段を正当化する」式の目的合理主義のことか。だとするならば、それは、人間性の高貴さの発露としての生とは、根本的な矛盾を来さずにはおれない。もし人間が政治的であることから逃れ得ぬとするならば、政治的であるという暴力性から逃れ得ぬとするならば。人間を政治的社会的存在として規定するならば、我々は未来永劫「力」に憑かれる続ける以外にないのか。「力」を前にして、「無-力」という生を賭した豪奢な敗北で以て、「力」が決して帯びることのできない「美」を体現するしかないのか。さもなくば、カルノーの政治主義を超え且つ敗北主義的でない現実的な自律と云う在り方に、可能性はあるのか。

    ソフィー「・・・・・・いったいなんのために、なんのために、人生が私たちに与えられたのでしょう?」/ジェローム「それにうち克つために」

    ロマン・ロランは「生」というものに対して、明朗なほどに力強い。私にはその「力」が時に眩しすぎる。自分自身の惨めさが照らし出されるようで。自分が余計駄目になってしまいそうで。

    ソフィー「私たち[ソフィーとジェローム]は二人とも、この苦しい世界の迷宮の中で道を見失っていたのですね。お互いを見出し、また自分自身を見出したこの最後の時は、恵まれた時でございますわ!」

  • もっと小難しくて、読みにくいかと思ったが、世界史の資料集片手に、割と楽しく読めた。フランス革命のことをもっと知ってから再読したい。無知な自分を反省。

  • (1988年05月07日読了)

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著者プロフィール

Romain Rolland(1866-1944)1866年フランス中部のニエーヴル県クラムシーに生まれる。1880年パリに転居。エコール・ノルマル・シュペリウール(高等師範学校)卒業と同時に歴史の教授資格試験に合格。教鞭をとる傍ら戯曲や音楽評論を発表し、1913年に小説『ジャン・クリストフ』がアカデミー・フランセーズ文学大賞を受賞。1914年8月、スイス滞在中に第一次世界大戦が勃発、この地で戦闘中止を訴えた。1916年ノーベル文学賞受賞。戦後は反ファシズム活動に参加、第二次世界大戦中はナチスに抗しながら執筆を続けた。1944年没。代表作は他に『ベートーヴェンの生涯』、『戦いを超えて』、『先駆者たち』、『クレランボー』、『魅せられた魂』、『革命によって平和を』など。

「2015年 『ピエールとリュース』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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