精神の危機 他15篇 (岩波文庫)

制作 : 恒川 邦夫 
  • 岩波書店
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本棚登録 : 145
レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003256053

作品紹介・あらすじ

第一次世界大戦後「精神の危機」を書いたポール・ヴァレリーは、西欧の没落に警鐘を鳴らし、人間における"精神"の意味を根本的に問い直した。先端技術の開発にしのぎをけずり、グローバル化する市場経済の盲点を逸早く洞察し、「歴史」の見方に改変をせまった数々の論考は、21世紀の現代に通じる示唆に富んでいる。

感想・レビュー・書評

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  • ヴァレリーによる文明論的な論考集。要するに急速に近代化されていく社会に警鐘を鳴らしてるわけだけど、1世紀近くも前の著作とは思えないほど現代に通じる。近代化を駆動するのはグローバル化、新興国の成長、科学技術の発展で、この論点整理もそこから見えてくる問題点も驚くほど現代的。もちろん100年前と今とでは個々の要素は大きく違うけど、それでも問題意識それ自体はまだまだ現役だと思う。
    面白かったのが、ドイツの台頭を考察した「方法的制覇」。最近の欧州でのドイツの独り勝ち状態と状況的によく似ている。特に、ドイツの強さをその"方法"に見出す主張は、インダストリー4.0なんてものがドイツから登場した背景を読み解くヒントになりそう。

  • 「風立ちぬ、いざ生きめやも」により詩人として再注目を浴びているだろうヴァレリーだが、彼の主意はその言葉に対する洞察力やそれを操る能力、即ち知性にある。WW1後に執筆または講演された内容を集めたこの評論集で、ヴァレリーはこれまでヨーロッパこそ世界そのものであったが今は世界の一部となってしまった事実を指摘しながら、人間らしさが損なわれてしまう隘路に、内面が摩耗させゆく時代に対する警鐘を鳴らしている。その言葉の切っ先は丹念に研がれたナイフの様に鋭く私の中へ切り込んで行き、何度も声を上げて叫びそうになる程。必読。

  •  ポール・ヴァレリーの文章はなんとなく読みにくくて、細部で感心する部分はあっても、全体のメッセージが理解しにくいという印象があった。しかしこの本はとても面白かった。
     おおむね第一次大戦後あたりに書かれた文章なのだが、ヨーロッパ「近代」に凄まじい動揺が走った時代であり、社会の価値が急速に変貌していく「危機」を、ヴァレリーは鋭敏に看取した。
     この洞察は、現在にもつながっている。20世紀初頭に起こった「変化」は、その後の100年間の諸々の事象を支える土台となっており、ヴァレリーによる分析は現在の文化にもかなり当てはまる。
     興味深いのは、ヴァレリーが「後発の」ドイツの勃興に対して抱いた畏怖の念である。当時のこの「不穏な」勢力を彼はよく分析している。
    「ドイツはすべてをただ一つのものに負っている。・・・それは規律である。」(P73)
     それに対して自国フランスを顧みたとき、そこにあるのは近代ヨーロッパ的な個人主義・自由主義である。
    「私たちの軍隊はつねに個人の集合体でした。・・・批判精神が旺盛で活気に満ちた集団から、型にはまった規律性、整然とした身ごなし、閲兵式に効果を発揮するような歩調やリズムの完璧さを引き出そうと思ってもできない相談です。」(P321)
     こうして対比された「ドイツ」の様態は、読んでいて何となく日本人の特性に近い。とはいえ、ドイツと日本は親和性をこえておおきな差異を持っている。たとえばドイツ人の観念性に対して日本人は情緒的である。「規律」「秩序」への感性が共通しているというべきだろうか。ドイツ人世界は個人主義でないとはいえないが、日本にはもともと個人主義の土壌が存在しない。
     さまざまな思考のヒントがちりばめられた、刺激に満ちた本だった。

  •  ハムレットはつぶやく。「そして私は、ヨーロッパの知性であるこの私は、どうなるのか・・・・・・。そして平和とは何か。平和とは、恐らく、人間に自然な人間相互間の争いが、戦争がするように破壊によって翻訳される代わりに、創造によってあらわされるような状態をいうのであろう。創造的競争、生産能闘争の時だ。しかし、「私」は生産に疲れていないだろうか。極端な試みへの欲望を出しつくし、また微妙な混合薬を濫用しすぎたのではなかろうか。私は自分の困難な義務や超越的な野心を放棄させねばならないのか。私も時勢にしたがって、いま大新聞を経営しているポローニアスのように、どこかで航空事業に従事しているレヤーチーズのように、またロシア名前で何か私のわからぬことをしているローゼンクランツのようにふるまうべきなのか。 ―――さらば亡霊たちよ。世界はもはやお前たちを必要としない。この私をも必要としないのだ。その宿命的な精密化への傾向に進歩という名をつけた世界は、生の恩恵に死の長所を併合しようと努めている。ある種の混沌がまだ支配しているが、いましばらくすれば、すべてがはっきりするだろう。ついに動物的社会の奇蹟、完全にして決定的な蟻塚の出現を見ることになるだろう。」(p32)

  • 二つの大戦をはさんだ20世紀の前半、激動といってよいヨーロッパにおける「知の巨人」による思索。そこに現れてくる諸相は、100年後の我々の問題意識と驚くほどつながりがある。一言で言ってしまえば近代化、今風に言い換えればグローバリゼーションなる暴力に対し、危機にさらされる精神について、その絶望的な現実と展望を、驚くほど理性的に、淡々と語っている。

  •  
    ── ヴァレリー/恒川 邦夫・訳《精神の危機 他15篇 20100515 岩波文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4003256050
     
    (20111210)
     
    ── ポール・ヴァレリー(Paul Valéry)/鈴木 信太郎(Suzuki Shintarou)他・訳
    《旧詩帖》《若きバルク》《魅惑》《詩学叙説》《『アドニスに就いて》より》
    《『女神を識る序言》《私は時をリマラルメに語った》《ボードレールの位置》
    《ゲーテ頌》《デカルトの一面》《人と貝殻》《精神の危機》《序言》《進歩について》
    《精神の政治学》《精神の自由》《レオナルド・ダ・ヴィンチの方法序説》
    《ドガ・ダンス・デッサン》《テスト氏との一夜》《我がファウスト》
    1955‥‥ 新潮社》現代世界文学全集25
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/****
     
    (20170824)

  • 岩波文庫(赤) 080/I
    資料ID 20102004354

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