- Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003260111
感想・レビュー・書評
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ベーリングの探検記を読んだので(青狐の島)それよりむかしの話を読もうと思いよんでみました。
探検の話ではなく戦争の話、イーゴリが遠征に行ってとらえられ帰ってくるというそれだけの話なのだが12世紀から13世紀の作者の考え、世界観がわかって面白い。時部分たちはキリスト教者であるから正しいと考え、敵のポーロヴェッツ人は邪教徒とされている。これは中世の普遍的な考え方であろう。タタールの軛のたとえの通りこれ以降13−15世紀ロシアはながらく遊牧民に抑えられる1480年の独立まで待たなくてはいけなかった。
したがって中世のロシアの様相を知る本として一級の作品といえよう。訳文も格調高い。これは声に出して読みたい本である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
プーシキンが「わが国文学の荒野にただひとつ立つ記念碑」と評したロシア中世文学の代表的な作品。ボロディンの歌劇『イーゴリ公』の原作でもある。
1185年にノヴゴロドのイーゴリ公がポロヴェツ人に対して遠征した史実を描いている。公は緒戦こそ勝利するものの敗北し、捕虜となる。後に脱出して帰還するまでが物語だが、特に華々しい戦果や劇的な展開はない。歴史への興味を差し引くと、それほどおもしろいストーリーとも思わない。同時代の源平合戦を描いた『平家物語』のほうが、戦記としても文学としても優れているだろう。
それでも、雄雄しく、叙情豊かで、ロシアへの愛国的賛歌にあふれた語り口には胸に迫るものがあり、後代のゴーゴリ『タラス・ブーリバ』を思わせる。ロシア文学の一つの原型がここにあるのだろう。