外套・鼻 (岩波文庫)

著者 : ゴーゴリ
制作 : 平井 肇 
  • 岩波書店 (2006年2月16日発売)
3.63
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  • レビュー :116
  • Amazon.co.jp ・本 (143ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003260531

外套・鼻 (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • ニコライ・ヴァシーリエヴィチ・ゴーゴリの短編小説2編です。どちらの作品もしがない下級役人の悲哀とその役人の真面目さがかえって滑稽さに結びついているという皮肉な面白さがありました。

    『外套』は、ひたすら書写に仕事の生きがいを見出している下級役人がはからずも外套を新調することになり、それに付随して起こった悲喜こもごもの出来事を滑稽に描写した作品です。
    主人公の下級役人本人はいたって真面目ですが、その真面目さを事細かく描写することで可笑しみを増しています。読者からすれば外套の新調という些細な話ではあるのですが、ゴーゴリの手にかかれば、主人公の困惑から喜び、そして一転絶望と、その顛末に応じた感情が面白可笑しく伝わってきます。最後は意外な展開でしたが、不条理な悲哀を感じさせるものの、このどこかひょうきんな物語の締めくくりとしては、これまたゴーゴリの茶目っ気ぶりが発揮されているといえるでしょう。
    自分にとっても哀しみと滑稽さを同時に感じた複雑な作品でありました。(笑)

    『鼻』は、ある日、目覚めると鼻が無かった!という奇想天外な話です。しかも、その鼻は近くの床屋の朝食のパンの中に入っていたり、きちんとした身なりで馬車から降りて礼拝に向かうなど、ちょっとどのような光景なのか想像すらできないほどのハチャメチャな場面が真面目な様子で描写されているのが楽しいです。
    これまた主人公の下級役人のあくせくぶりが面白可笑しく表現され、実際、切実な問題(?)であったはずなのですが、事態が事態だけに主人公のその滑稽ぶりが何とも可笑しかったです。

    2作品ともゴーゴリのひょうきんさが伝わる作品ですが、惨めな人をじっと観察して笑い飛ばすような残酷な面も併せ持っているような気もします。しかし、抑制の利いた文章表現が適度な可笑しみと悲哀ぶりを両立させ、逆に印象深い作品となっています。

  • 外套は内面を変えれない主人公が外套を纏うことにより内面の向上も付随したと勘違いしてしまう。いざ外套を剥ぎ取られて内面の変化がいざ錯覚と感じて失望の中死んでしまう。
    鼻は逆で鼻を失った主人公が狼狽えて鼻を捜し結局元に戻る小説。
    二つの共通点は内面と外面はそれぞれ磨かなければならない。

  • ドストエフスキーをして「我々は皆ゴーゴリの『外套』の中から生まれたのだ!」と言わしめたというだけあって、名作。
    一見してとるに足らない人生の中にも燦然と輝く瞬間があり、死に至らしめる悲劇があり、人間の善意や悪意、傲慢や小心、清浄や猥雑、そういうものが混然とした人間世界の中で決して矮小化せずに描かれている。
    つまらない人間(?)なのに、主人公に一度会いたくなる。

  • 図書館で前から気になっててやっと読んだ。
    ゆかいゆかい。読んで良かった。

    鼻を楽しみにしてたけど思いのほか外套が良かった。ずっと漂ううらかなしさ、救いのなさ。
    冬にこの話が読めて季節ぴったし!ラッキー

    鼻はぶっとんだストーリーをこんなまじめに書き表せるなんて、ゴーゴリこりゃ賢い人だ~という感想。

  • 外套のイタイケなアカーキイ・アカーキエヴィッチの姿が心から離れない。不器用、けれど勤めを純粋に、努めて果たす人。彼の小さな幸せの出現と結幕に心が動く。

  • 青空文庫。鼻が独りでに飛び出して行く不思議な話。ロシアの官僚を風刺しているのか。。?

  • かのドストエフスキーにして「われわれは皆ゴーゴリの『外套』の中から生まれたのだ!」といわしめた作品。
    うだつがあがらず、周囲に馬鹿にされ続けながらも、日々書写という自分の仕事を全うし続けた末、唯一の希望たる新調の外套を不合理に奪われ、人知れず死んでいった主人公の哀しい話…それなのになぜ、こんなにも気持ちが穏やかになるのだろう。
    主人公のアカーキイ・アカーキエヴィッチにぜひとも会ってみたいと思えるのはなぜだろう。
    彼だけでなく登場人物すべて、この作品には心底悪意の人間は誰一人としていない。
    ゴーゴリの登場人物達に向けられた優しさの故だろうか。
    そして、舞台となるペテルブルクの描写の何と魅力的なこと。
    垂れ込めた雲の重苦しさと冷たい石壁や土埃の匂いが、この街で生活する人間の様々な営みを一層浮き立たせている。
    『鼻』、なんとも不思議で痛快な話。ある朝、床屋の主人が食べようとしたパンに誰かの“鼻”が入っていて、ある朝、少佐の“鼻”が無くなっていた。少佐は自らの“鼻”を探すべく奔走する。
    随所に見られるゴーゴリの読者への配慮が優しい。
    2作とも、登場人物に会いたいと思い、ペテルブルグに行ってみたいと思い、果てはゴーゴリその人に会ってみたいと思わせてくれる作品である。
    訳者はゴーゴリ作品翻訳にその生涯を捧げた平井肇氏。死の床でもゴーゴリの原書を放さなかったそうだが、その訳文はゴーゴリの人柄まで感じさせてくれる。
    平井氏の訳で読めることへの幸せを感じた。

  • ゴーゴリの代表作かな。外套の哀れさ、悔しさ、幽霊になってまで彷徨う主人公。小説の原点のような気がします。

  • 去年いとうせいこう『鼻に挟み撃ち』を読んで「鼻」に興味が沸いたので今更この年になってゴーゴリの代表作を。

    まずは「外套」。下級官吏が奮発してようやく誂えた外套を暴漢に奪われさらに取り戻すために奔走してエライ人に頼みにいったのに怒鳴られてびっくり、ショックのあまり寝込んで死んじゃうも化けて出て復讐を果たすという、一見どこに救いを見出せばいいかわからないほど悲しい話ながらなぜかコミカルなのがすごい。悲劇と喜劇って紙一重なのだよなと改めて思わされる。

    「鼻」はなんともシュール・・・。文章だから成立しているけれど実際、礼服を着て紳士のようにふるまう鼻の姿というのはどう想像していいかわからない。ダリの絵みたいなのがなんとなく頭に浮かんだ。ある朝目覚めたら虫になってるのもイヤだけど、ある朝目覚めたら鼻がなくなっているのみならずその鼻が独立した人格として行動しているっていうのも相当イヤだなあ。

    基本的にどちらの話も、見た目上大切なもの=外側を覆う外套も、顔の真ん中にある鼻も、他者からの第一印象を決定づける外見上の特徴(虚栄心の象徴的なもの?)が失われ、それを取り戻すために主人公がすったもんだ繰り広げ、ラストは一種のハッピーエンドという同じ構造。なぜかしら、ちょっと落語っぽいような印象を持ちました。個人的には奇想天外な「鼻」のほうが好き。

    余談ですが前述いとうせいこうの小説内で、ドストエフスキーの「われわれはみなゴーゴリの『外套』から出てきた」という言葉について、『鼻』だって名作なのになぜ『外套』にしたのか、それはつまり「われわれはみなゴーゴリの『鼻』から出てきた」では「お前は鼻水か、ということになる」からじゃないかと書かれていましたがごもっとも(笑)

  • 知らなかったけど、ゴーゴリって、トルストイやドストエフスキー、ツルゲーネフよりも年上で、しかもツルゲーネフは大学時代の教え子(ゴーゴリの世界史授業を受けたことがある)なんですね。
    てことは、ゴーゴリこそがロシア文学の先駆者であり、父であり開拓者だったんですね!へー。
    以下、感想。

    『外套』
    万年下級役人の、アカーキイ・アカーキエヴィチが主人公。彼は見るもみすぼらしい外套の持ち主だったが、ある日、大金をかけて外套を新調する。気持ちは晴々しく生まれ変わったよう、役人仲間達も彼の外套のために祝杯をあげるべく宴会を開く。しかしその宴会の帰り道、追い剥ぎに遭って真新しい外套を奪われてしまう。アカーキイは何とか奪還する漠上司などにもかけあうが、この上司から手酷い叱責を受け精神的にダメージをくらい、かつ外套を奪われたショックのために死んでしまった。それ以降、ペテルブルグにはアカーキイの幽霊が夜な夜な参上し道行く人の外套を奪ってまわるという噂がたった。かつてアカーキイに罵声を浴びせた上司もこの幽霊に遭遇し、彼の上等な外套を奪われた…

    という話。
    コミカル&ユーモラスで読み手をクスッと笑わせる、かと思いきや、いきなり悲壮な展開。罪の無い主人公に同情せざるを得ない。そしてラストに幽霊参上という幽玄?な展開で、物語自体はとても短くまとまった作品なのに、いろんな気持ちを抱きながらこの短編を読んだ。一粒で2度も3度も美味しい作品だった。
    この作品は、他のロシア作家達に多大な影響を与えたとされているが、なんとなく分かる気がする。ドストエフスキーの作品のユーモラス、トルストイ作品の理不尽や悲壮感に何か共通するものを感じる。

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