父と子 (岩波文庫 赤 608-6)

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感想 : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (355ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003260869

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  • 自由思想の高まり、農奴解放の流れに貴族支配が揺るぎはじめた時代のロシアを背景に、急進的ニヒリストの青年が地方の地主たちにもたらす動揺と混乱を描く。
    「父と子」というタイトルから、鋭い世代間対立を描いたものを想像していたが、二組の親子の父親たちは、どちらも父権的な権力をふるうどころか、むしろ自分たちが旧い貴族文化に属していることを恥じ、大学出の息子たちの顔色をうかばってばかりいるのは意外だった。しかし息子たちのうちひとりがニヒリズムの影響から脱して父親と幸福な和解の道をたどるのに対し、もうひとりの父親は、主義に殉じた息子を理解できないまま失望に至ることになる。
    主人公のバザーロフは実に傲慢な近代合理主義者だ。自分が都市の大学で教育を受け、昼間からシャンパンを飲んでぶらぶらしていられるのは、貴族階級でないとはいえ大地主である父親の金のおかげであることは棚にあげて、「あらゆる権威を認めない」と標榜して両親らを見下し、恋愛や友情の価値をも否定して、愛する女性や唯一の友人をむざむざと失ったあげく、「いずれ大人物になる」と未来を嘱望されながら、あっさりと命を落としてしまう。
    ツルゲーネフ自身がこの主人公をどのように評価していたのかは発表時にも論争となったようだが、貴族趣味の象徴のようなアルカーヂイの伯父パーヴェルとの馬鹿げた決闘が示すように、両極端の思想を体現する2人は、どちらも己れの主義にしがみついて心のはたらきに素直にしたがわず、目の前の幸福に背を向けてしまうという意味では滑稽とさえいえる対照をなしているようにさえ見える。文中ではさらに「農民との話し方を心得ていると自負しながら、農民たちにとっては彼もまた、何もわかっていない旦那衆のひとりにすぎないことをしらない」とも批評されている。
    後にドフトエフスキーが『悪霊』で描くことになるものと比べれば、この時代、「ニヒリズム」という名前で呼ばれているものの真の暴力は、まだ姿を現していないともいえるのかもしれない。

  • 「父と子」という表題でもあり、地方の地主貴族の姿を描いたものだから、田園と農村を舞台とした牧歌的な手触りの小説…というイメージであった。だが読後感は、理念的な印象が強かった。大袈裟に言えば思想小説の感すらあった。

    この小説をより精密に内容を理解するには、19世紀ロシアの時代背景を知らなくてはならないようだ。
    巻末解説によれば、“父の世代”は40年代的価値観を背負い、"息子の世代"は60年代的価値観の担い手だという。そしていずれも、その時代精神の限界と制約のもとにあり、その時代状況を描いた作品とされる。

    青年バザーロフは、あらゆる権威を否定。ニヒリストの第一号とされる人物だという。だが、バザーロフの議論は、何をめざしているのかよくわからない。議論も建設的でない感じである。(そのため、作品発表時、革新的な若い世代を、非生産的な姿で戯画化し揶揄するものと反発を呼んだという。)

    物語は、息子アルカーヂイとその父ニコライの親子から語りおこされる。なので、このアルカーヂイ=ニコライの「父子関係」が主軸なのか、と思いきや。そうでもない。中盤を待たずアルカーヂイの友人で、思想の師でもあるバザーロフが物語の主軸を担う。読後感ではバザーロフが主人公だった気がする。アルカーヂイ父子とバザーロフ父子、二つの父子のダブル主人公なのかもしれない。
    そう、ここにも意外だった点が。農奴解放の時代の世代間の価値観の違いを描く…というから、父子の苛烈な衝突や摩擦を想像していた。だが、バザーロフの父もアルカーヂイの父も、共にどこかのほほんとしていて、息子に対して遠慮がちで、そこのところ大いに拍子抜けし意外の感であった。

    バザーロフは若くして亡くなる。伝染病死なのだが、時代精神に殉死したような印象を感じさせた。
    バザーロフはドストエフスキー『悪霊』のスタヴローギンを思わせる。虚無的で破滅的。そして儚い。存在感・キャラが立った印象的な登場人物であった。

  • もしかしたらこう考えるのは的外れかもしれませんが…、ヘッセの『愛と知』や夏目漱石の『行人』に似た、知的なロゴス側の人間と情緒的なカオス側の人間が対比されている物語だな、と感じました。年代のことはよく知らなかったのですが、解説を読む限り、本書はバザーロフのようなロゴス的ニヒリストが発見されつつあった最初期のものだったようですね。個人的に興味深く思っているテーマなので、面白く読めました。
    ロゴスとカオス、両者は理解し合おうとしても理解しあえない。ロゴス側はカオス側を把握することはできてもその心を体得できないし、カオス側はロゴス側を尊敬はできてもその考えを体得できない。ただ、前述の2作品でいうと、ナルチスや一郎はゴルトムントやHを羨んでいましたが、本書のバザーロフはアルカーヂィに対して冷淡である点で異なっているようですね。こういった作品が、後の作品に影響を与えているのでしょう。ただ、テーマはもちろん面白かったのですが、心理描写等の奥行きがどうもあっさりしすぎていてなんだか物足りない感じがするので、評価は星4つとさせていただきました。

  • ツルゲーネフ!

  • 神西清訳チェーホフの「かわいい女」、ガルシンの「信号」が好きだ。露文なら神西清、仏文なら杉捷夫と名翻訳家の追っかけたものだが、どうも最近の若い人には、この”旧い翻訳”にちりばめられた拡張高い古き良き日本語が障壁になるようだ。”先生、この『父と子』の翻訳の文章はわかりませんっ”と、絶滅危惧種の文学少女(高3)に言われたのは、1951年の新潮文庫 米川正夫訳。年代はそう変わらないが岩波文庫(1959年)のこれを貸すと”おもしろかった!”という感想と共に返ってきた。さてさて彼女は神西訳「はつ恋」を読めるかな。

  • ニヒリズムという語は、この小説の中でツルゲーネフによって発明された言葉である。しかし主人公バザーロフは現代的な意味での――則ち、神・人間理性・存在秩序を喪失してしまった人間という意味での――ニヒリストではなく、伝統・因習とロマンティシズムを否定する合理主義者・科学主義者・唯物論者、端的にいえば即物主義者である。彼にとって、芸術は無価値であり、自然は工場である。即物主義者なら、現代でも掃いて棄てるほどいる、僕が最も忌み嫌う連中だ。しかし歴史を俯瞰的に眺めてみるならば、様々な時代条件の中で様々な姿をした「過去の否定者・破壊者」が現れるものなのだろう。

  • この一原子のなかに、この数学的な点のなかに、血がめぐったり、脳髄がはたらいたりして、やはりなにかしら望みをいだいたりしているんだからな…なんて醜態だ!なんてくだらないことだ!

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