父と子 (岩波文庫 赤 608-6)

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  • Amazon.co.jp ・本 (355ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003260869

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  • 「父と子」という表題でもあり、地方の地主貴族の姿を描いたものだから、田園と農村を舞台とした牧歌的な手触りの小説…というイメージであった。だが読後感は、理念的な印象が強かった。大袈裟に言えば思想小説の感すらあった。

    この小説をより精密に内容を理解するには、19世紀ロシアの時代背景を知らなくてはならないようだ。
    巻末解説によれば、“父の世代”は40年代的価値観を背負い、"息子の世代"は60年代的価値観の担い手だという。そしていずれも、その時代精神の限界と制約のもとにあり、その時代状況を描いた作品とされる。

    青年バザーロフは、あらゆる権威を否定。ニヒリストの第一号とされる人物だという。だが、バザーロフの議論は、何をめざしているのかよくわからない。議論も建設的でない感じである。(そのため、作品発表時、革新的な若い世代を、非生産的な姿で戯画化し揶揄するものと反発を呼んだという。)

    物語は、息子アルカーヂイとその父ニコライの親子から語りおこされる。なので、このアルカーヂイ=ニコライの「父子関係」が主軸なのか、と思いきや。そうでもない。中盤を待たずアルカーヂイの友人で、思想の師でもあるバザーロフが物語の主軸を担う。読後感ではバザーロフが主人公だった気がする。アルカーヂイ父子とバザーロフ父子、二つの父子のダブル主人公なのかもしれない。
    そう、ここにも意外だった点が。農奴解放の時代の世代間の価値観の違いを描く…というから、父子の苛烈な衝突や摩擦を想像していた。だが、バザーロフの父もアルカーヂイの父も、共にどこかのほほんとしていて、息子に対して遠慮がちで、そこのところ大いに拍子抜けし意外の感であった。

    バザーロフは若くして亡くなる。伝染病死なのだが、時代精神に殉死したような印象を感じさせた。
    バザーロフはドストエフスキー『悪霊』のスタヴローギンを思わせる。虚無的で破滅的。そして儚い。存在感・キャラが立った印象的な登場人物であった。

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