罪と罰 中 (岩波文庫 赤 613-6)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003261361

感想・レビュー・書評

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  • 上巻の冗長さが嘘のように、中巻以降は山場につぐ山場である。息もつかせぬ展開と言ってもあながち過言ではなく、いよいよ作者の本領発揮という感じだ。

    中巻の見どころは、主人公ラスコーリニコフと予審判事ポルフィーリイの2度にわたる対決と、ラスコーリニコフとソーニャの密会である。中でも、ラスコーリニコフとポルフィーリイの初回の対決は際立ってエキサイティングだ。推理小説ばりの心理戦が展開されるだけなく、ここで初めて主人公の思想の全容が明らかになるからだ。上巻でちらりと示されたテーマが、さらに過激な形をとって再び読者に提示される。

    すなわち、人間は「凡人」と「非凡人」に大別される。凡人は従来の思想の枠組みを越えることができず、既定の法に従うしかない人間である。一方、非凡人は新しい思想を創り、新しい法を制定することのできる稀有な人間である。よって非凡人は、その新しい思想が人類の進歩に繋がるなら、より良き未来のために既定の法を踏み越える権利を持つ。実際、ナポレオンなどの革命家たちは目的のためには流血も辞さない犯罪者だったが、同世代の大衆にとっては犯罪者でも、次世代の大衆は彼らを崇拝するようになる。ゆえに非凡人が思想の実現のため、未来の人類のために流血が必要だと判断した場合には、彼らは自分の良心に照らして、その許可を自分に与えることができる。(p141-155)

    これに対する私の見解は置いておく。ただ私はこの説を否定したい、とだけ記しておく。ともあれ、このような思想的議論が、あくまで殺人犯と探偵との心理的駆け引きという体裁を崩さずに進行してゆくのだから、何とも心憎い演出だと思う。

    この後、ラスコーリニコフはソーニャの家を訪れる。先の頭脳戦から一転して、こちらはスピリチュアルな熱狂に満ちたシーンである。不幸のどん底に落とされながらも信仰によってかろうじて正気を保っているソーニャに対し、ラスコーリニコフは「神なんかいない」とうそぶいてサディスティックな愉悦に浸ったかと思うと、いきなりひざまずいて彼女の足に接吻し、「ぼくはきみにひざまずいたんじゃない。人類のすべての苦悩の前にひざまずいたんだ」という有名な科白を口にする。そして、罪びと同士ともに行こうとソーニャを誘惑するのだ。

    これはあまりに観念的というかほとんど誇大妄想であり、とても求愛とは呼べないものだろう。しかし、どこか「聖女を誘惑する堕天使」という構図を思わせる光景であり、主人公の勢いに気圧されて、こちらまでついファナティックな陶酔に浸ってしまう。ちなみにソーニャは金髪碧眼の美少女、ラスコーリニコフは栗色の髪に黒目の美男子という設定だから、ビジュアル的にもほぼ完璧である。

    さらにこの後、再びポルフィーリイとの論戦が行われ、きわどい所まで追い詰められるが、偶然のアクシデントにより両者引き分けに終わる。そして「戦いはこれからだ」と主人公が自虐的な決意をかためるところで中巻は終わる。

    この濃厚なメイン・ストーリーのほかに、主人公の妹ドゥーニャに恋する3人の男達(熱血漢ラズミーヒン、功利主義者ルージン、虚無主義者スヴィドリガイロフ)の物語も同時進行してゆく。中巻だけで3~4冊の本を読んだような酩酊感を読者に与えながら、物語は失速することなく、一気に下巻へとなだれ込む。

  • 上巻で既に事件は起きた。この中巻でラスコー家族が彼に期待するあまり自分らを犠牲にする姿、ラスコーの家族からの思いに対する本人感情、予審判事ポルフィーリーとの舌戦、目撃者の登場など小説としての面白さがあります。それにプラスしてのラスコーの思想展開などもあり下巻にむけて疾走している感じですかね。ソーニャとのからみで、聖書のラザロの復活の部分を読むあたりは、私の知識不足により深層までは理解できず残念な感じ。事件にしろ、ソーニャとのことにしろ、下巻での展開が気になるところ。

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  • 上巻よりも動きは少なめだが、しっかり読書を惹きつける展開が用意されている。
    今のところ主人公が1、2を争う嫌なやつだが、まあ人間ってこんなものかもしれない。

  • 上よりは読みやすかった…

  • 3章
    1 ラスコーニコフの部屋
     ラズミーヒンがドゥーニャ親子を連れ出して、ラスコーニコフの容体は自分が見て、報告するから、ゆっくり休むようにと言う。ドゥーニャ親子はラズミーヒンを親切な人と思います。ただ、ラズミーヒンは自分でも言ってますが、ラスコーニコフの女家主ともいい仲になっているので、単なる親切心からだけではないようです。しかも、ラズミーヒンは、その女家主をゾシートフに押し付けます。
    2 朝が来てラズミーヒン起きる。昨日の酔っ払ったときの行動を後悔している。酒飲みにはよくあることだ。ゾシトーフが入ってきて、二人の会話。ゾシートフが帰り、9時、ラズミーヒンは旅館に行く。ラズミーヒン、ドゥーニャ、プリベーリヤの3人の会話。ラスコーの話。ラスコーニコフの婚約者の話題。ルージンからの手紙をラズミーヒンが読む。ラスコーニコフに侮辱されたので、連れて来ないでほしいとのこと。3人は外に出て、ラスコーニコフの部屋に向かう。
    3 ラスコーニコフの部屋 ゾシートフがいる5人の会話。セクハラ男スヴィドリガイロフの妻マルファが亡くなった話題。ゾシーモフが帰る。ラスコーニコフの婚約者の話。ルージンの話。僕かルージンか。ラスコーがドゥーニャに対して、もしきみがルージンと結婚するなら、ぼくは即座に君を妹とは認めない。と言う。ラスコーがルージンの手紙を読む。ドゥーニャが、ラスコーとラズミーヒンに、ルージンと会うときに来て欲しいと言う。
    4 引き続きラスコーの部屋 ドアが静かに開いて、おずおずとあたりを見回しながら、一人の娘が入ってきた。ソーニャ登場。ラスコーは一目見ただけでは誰かわからなかった。ソーニャは思わず人がいっぱいだったので、おどおどしている。ソーニャがラスコーにたいして、父の葬儀に出席するようにお願いする。ドゥーニャ親子が帰っていく。ドゥーニャとプリへーリヤの会話。プリへーリヤがルージンに断られることを心配する。ラスコーの部屋、3人が部屋を出て、ラスコーとラズミーヒンはポルフィーリィの家へ、ソーニャは自分の部屋へ向かう。3人が別れた後、ソーニャはある男に着けられる。その男は、最近ソーニャの隣に引っ越してきた男だった。
    5 ポルフィーリィの部屋。ザメートフがいる。ラスコーとラズミーヒンが部屋に入る。ラスコーの犯罪論が展開される。ポルフィーリィ対応ラスコーニコフ。ラスコーとラズミーヒンが帰る。
    6 ラズミーヒンとラスコーの会話。俺は信じないと言うラズミーヒン。ラスコーは見知らぬ町人に「人殺し」と言われる。ラスコーは家に帰り、寝込んでしまい、悪夢を見る。すると、彼の部屋の戸が開け放たれ、敷居の上に、まったく見覚えのない男がたって、じっとラスコーを見つめている。ラスコーは夢の続きだと思う。それから10分ほどが過ぎて、ラスコーは突然起き出して、誰かと問う。「あなたが眠っているのではなく、寝たふりをしておいでになるだけなのは、私も知っていましたよ。」スヴィドリガイロフ登場。
    4章
    1 ラスコーの部屋 ラスコーとスヴィドリガイロフの会話。妻マルファの話。幽霊の話。スヴィドリガイロフがドゥーニャに1万ルーブリを贈与することと一度でいいからドゥーニャに会いたいという。自分は旅に出るやもう婚約者がいるので、ドゥーニャのことは何とも思っていないという。ルージンの悪口。妻マルファがドゥーニャに3千ルーブリの遺言をしている。スヴィドリガイロフ帰る。
    2 代ってラズミーヒンが入ってくる。8時前。ラズミーヒンは一度部屋に来たが、ラスコーニコフが寝ていたので、ポルフィーリィの家に行っていた。二人は廊下でルージンと会い、3人でドゥーニャ達が待つ部屋に入る。ドゥーニャは、ラスコーとルージンの仲直りを求めるが、



    2 ルージンの結婚観が・・・
    品行がよくて貧乏な(ぜったいに貧乏人でなければいけない)、ひじょうに若く、ひじょうに美しく、上品で教養があり、ひどくおびえやすい娘、人生の不幸という不幸を味わいつくして、彼には頭が上がらぬような生涯、彼らだけを救い主と考えて、彼だけを敬い、彼だけに服従し、彼ひとりだけわ賛嘆のまなざしで見つめているような娘をわくわくしながら思いえがいていた。
    3

  •  各所の結末に現れる「それは過去に決着がついた話で注目に値すべき」的な語り手の表現に物語が読み手と一緒に進行するのではなく、「定めに向かって進むだけ、主人公がどんな行動をとっても同じ運命に帰着する」と作家の表現がとても独特なものに思え、どうあがいてもスコーリニコフの運命は決して変わるものではないんだなと思わされるのがとにかく不思議でならない。
     そして主人公のまだ知らない運命を思い、主人公に代わって絶望するが、主人公は今、目の前で罪から逃げきろうとしている意思もあるなんてびっくりです。

     それななのに真犯人は誰?的な展開にロジオンはもしかしてアバター?これってSF?人形遣いが彼を操っている?とまで思わされ、現代でも十分に新しい展開を繰り広げてくれる一方で、少々、この物語の長さについていけてない感もありながらも、ソーニャとの場面の緊迫や、宗教のオカルト的な高揚感。そして社会主義への作者の思いも見え隠れして私の脳内は呆然。

  • 感想は最終巻にて。

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著者プロフィール

(Fyodor Mikhaylovich Dostoevskiy)1821年モスクワ生まれ。19世紀ロシアを代表する作家。主な長篇に『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』『悪霊』『未成年』があり、『白痴』とともに5大小説とされる。ほかに『地下室の手記』『死の家の記録』など。

「2010年 『白痴 3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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