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Amazon.co.jp ・本 (140ページ) / ISBN・EAN: 9784003262115
みんなの感想まとめ
多様な短編が収められたこの作品は、特に表題作の「赤い花」が印象深い。精神病院の庭に咲く罌粟の花を通じて、青年の虚しい戦いと彼の内面の葛藤が描かれており、19世紀後半のロシアという背景が物語に深みを与え...
感想・レビュー・書評
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再読。『あかい花』というタイトルで既読でしたが、『紅い花』に改版後は漢字とルビ使いのバランスが良く読みやすくなっていました。『紅い花』『四日間』『信号』『夢がたり』『アッタレーア・プリンケプス』の五つの短篇を収録は変わらず。
タイトルは、タイトル作の内容を知らなければ平仮名の”あかい”の方が柔らかい印象で好みですが、内容を知っていると”紅い”としたことが正解だとわかります。まるで狂気に満ちた男の視点がモノクロ映像となり、“紅い“ケシの花だけ鮮明な色付きで浮かび上がってくるような、ガラリと印象が変わりました。例えるなら、映画『ベルリン・天使の詩』や映画『ソードフィッシュ』の効果的な見せ方のような感じです。
それにしても、『信号』のように、教科書に採録されている作品を収録しながらも、何故か絶版なのが不思議。そういえば、同じく教科書に採録されているドーデ『最後の授業』(『月曜物語』に収録)も絶版ですね(謎)。
以下、好きな作品の感想です。
『紅い花』あらすじ:
精神を病んだ男が、療養のために癲狂院に護送されてきた。しかし、男には治療が恐ろしい拷問に思えてならず、一人になれる真夜中に正気に戻るものの、夜が明けると再び狂気に包まれるのでした。あるとき、患者たちが菜園での労働に出されるようになり、男はそこで真紅の罌粟(けし)の花に出会います。やがて男の妄想は、その”紅い花”には世界中の悪が宿っていると考えるようになり……。
感想:
男の抱く誇大妄想はさて置き、自分の正義を成就する生きがいの達成を思うと、結末はこれで良かったのかも。著者自身も精神疾患を体験して若くして亡くなっているだけに、男の外面的な狂気に反する内に宿る理性的な静謐が、とてもよく描かれていたと思います。
『四日間』あらすじ:
“俺(イヴァーノフ)“は、露土戦争の戦場で、眼前のトルコ兵を倒した刹那、自らもトルコ軍の反撃にあい、地に倒れて気を失う。気づくと両足の負傷で身動きが取れず、隣りには自分が倒したトルコ兵が横たわっていた。周りに自軍の姿はなく、脚の痛みと喉の渇きに苛まれ、“俺“は腐乱していくトルコ兵を横目に、脳裏に数々の思いが去来します……。
感想:
タイトル通り四日間の出来事ですが、臨場感のある筆致によって、主人公が戦争の残酷さに心が打ち砕かれていく心理状態の描き方が、なんともリアルでいいですね。ラストも好きな収まりかたでした。
『信号』あらすじ:
戦争帰りで病身のセミョーンは、畑仕事もままならず、妻が下女奉公に出る始末。あるとき、偶然にも戦時下の上官に再会し、鉄道線路番として働き、番小屋に妻を呼び戻して暮らせるようになりました。二た月ほど後、セミョーンは他の番小屋の線路番であるヴァシーリイと懇意になりますが、彼は日々募る不満を本省に直訴すべくモスクヴァへ発ってしまいます。後日、見送ったセミョーンは、意外な場所でヴァシーリイを見かけます……。
感想:
個人の信条と社会との軋轢に対し、片や従順に従い、片や反発するという明確で正反対なキャラ立ちをした二人の主人公。そんな彼らがラストで見せる、臨場感ある正義と友情の行動に胸熱でした。
『アッタレーア・プリンケプス』あらすじ:
とある大きな町の植物園の温室でのこと。彼女こと、棕櫚の木(アッタレーア・プリンケプス)は、同じ温室に集められた他の植物より背が高く、それを話しのネタに疎まれていました。そんな彼女は、玻璃(はり:ガラス)屋根ごしに見える蒼穹(そら)を見上げて故郷を思い、得られる水のことでいがみ合っている他の植物に提案します。それは、協力して成長することでガラスの天井を破って自由になろうというものでしたが……。
感想:
出る杭は打たれるという簡単な話しではなく、飛び抜けたり制約から逃れた自由を得るには、それ相応の考えと折り合いや覚悟が必要ということ。自分の夢を果たすために、挑戦することで限界を超えた力を出せる素晴らしさもある一方で、それをすることで南国育ちの他の植物たちを寒風吹き荒ぶ外の世界に触れさせて枯れさせてしまうかもしれない……彼女の願いは、そんな危険もはらんだ傲慢さとも考えられます。
いろいろ思うところがありますが、再読してすぐに情景が思い出せたほど、とても印象深くて好きな短篇です。
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昔、福武文庫の『ガルシン短篇集』を読んだものの、
相次ぐ引っ越しの途中で手放してしまい、
少し前に「赤い花」を読み返したくなったので、
今度はこちらの岩波版を購入。
タイトル表記は「紅い花」だが、
古本屋さんで買った1959年改版→1989年第48刷では
「あかい花」と表記されている。
個人的にはこのひらがな書きに魅力を感じる。
収録は「あかい花」「四日間」「信号」(これらは福武文庫で既読)
と、童話風の「夢がたり」「アッタレーア・プリンケプス」の5編。
表題作は、精神病院の庭に咲いた罌粟の花を悪の象徴と見なして
徒手空拳で虚しい戦いを挑む青年の短い物語。
19世紀後半のロシアという激動の世に生を受け、
繊細過ぎて精神を病んでしまったインテリゲンチャの魂の叫びが
美しく痛ましい物語として血の色を含んで開花した――
とでも言えばいいだろうか。
それにしても心に沁みる名訳。-
2014/01/28
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タイトルだけ見たら「あれっ?」と思いますよね。
そして「<他四編>って何よ何よ?」って(笑)タイトルだけ見たら「あれっ?」と思いますよね。
そして「<他四編>って何よ何よ?」って(笑)2014/01/28
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面白い。
超まじめゆえに、世界のすべてをひきうけてしまう。まさに、ブラック企業に搾取される典型的なタイプだ。そして、行き着く先は破滅しかない。(「紅い花」)
すごく分かるわ~。だからこそ、いいかげんに、てきとうに生きなきゃいけない。それは悪いことじゃない。
「ロシア文学の教室」に紹介されていたので手に取った。 -
久々に『赤い花』を読みたくなって、手元の旺文社文庫版が見当たらないから古本で適当に購入。中学生の頃はもっと面白く思った筈なのに、今読むとロシア風トルストイの出汁香る寓話味が強い作品が多くて、微妙だなぁというのが正直なとこでした。
そんな中で表題作『赤い花』は代表作だけあって光ってます。癲狂院の庭に咲く赤い花を悪の根源だと思っちゃった主人公が花を滅殺しようと全身全霊を尽くした挙句狂死する、それだけの話なんですが精神の状態が良くない時に何かに固執してしまう思考の流れとか一瞬だけ目盛が正気に戻って自分を冷静に分析しちゃうとことかすごく良く描写されていて、あーあるあるとなります。ガルシンは生涯を通して精神疾患に悩まされ最終的には自死未遂に至ってるので、その辺りは経験者の安定感、ここは俺に任せろなのでしょう。
解説にはガルシンの精神疾患は生来の繊細さが原因の一つにあったとありましたが、なるほど作品によっては繊細拗らせて一周まわった感もあり、太宰治がガルシンを好んだのというのも何となく納得です。 -
図書館で借りた本。5話の短編集だがかなり薄い本。アッターレア・プリンケプスと信号が好きかな。あかい花は精神病院に収容された青年の話。アッターレア・プリンケプスは絵本を読んでる感覚になるくらい情景が浮かぶ。報われず、あっさりしたラストだが植物達の会話が童心を思い出させる。
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『四日間』と『信号』が好きだった。
『四日間』
圧倒的主観で進んでいく、読めば手に取るように状況と感情がわかる。すごい文章。
負傷の追体験って感じ。人を傷つける・殺すことに躊躇がなくなるのが戦争。生きるために殺すことはしょうがない、それが戦争だとただ言っている。
自分が殺してきたことな潔癖になるわけではなく、生き残ったから、これを話していくんだ、という言葉で締められていたのが美しい。
『信号』
主人公、が危険だと思っていた仕事仲間を止めなかった自分の責任だとして、自己犠牲を図る話。そのまま進んだら脱線する電車に知らせるため、主人公が腕にナイフを突き刺し、ハンカチを血の赤で濡らし、赤い旗を振る。
自己犠牲って美しい。いやだな。
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2024/12/15
これは何故読み始めたんやろう。毎度のことながら、読みたいと思ったときと、実際に読むときがあいてるからなんで読もうと思ったのかわからん。
兵士が死にそうになりながら4日間過ごした話は敵兵の水飲んだから足を切り落とされた?
あと何人か同じ名前の人出てきてた? -
「紅い花」
■何日の間も一睡だにせず、ただ叫びながら病棟を練り歩くだけの一人の狂人。しかしそんな彼の内では密かに不倶戴天の敵、罌粟の花との闘いに臨む決死の覚悟が固まっていたのだった……。
■瘋癲病院内の様子と狂人の心中の書きっぷりはさすが。作者は実際を知っているからこそ描けたのだろうが、調子に乗って必要のないところまで書きすぎてもいない。説得力があって必要十分な描写だ。
■最後の悲劇的な死を通じて、この狂人がたまらなく愛おしく感じられる。一般読者はこの頭のイカレた男こそ、私たちの父母、あるいは子供たち、そして我々自身のことだということに果たして気づいているのだろうか?
「四日間」
■露土戦争の従軍兵士の手記。
■自らは脚を負傷してピクリとも動けず独りむなしく死を待つだけ。そばには自分が銃剣で刺し殺した敵兵の死体が横たわり見るたびごとに腐敗の度を増していく……。
■『紅い花』もそうなのだがこの地獄、経験者でないと到底描けまい。映画『SAW』より強烈。
「信号」
■これも素晴らしい短編、あいわらず臨場感があるなぁ。
■隣の駅の、住み込みの線路番という男が、根が短気で、ルサンチマンが募っていて、しかも本人はそれを正義感と勘違いしていて……。このキャラ設定で悲劇が起きないわけがない。 -
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あんまり良くないかもやけど、「あかい花」は神西清の翻訳もあいまって、結構笑えるテクストやと思う。1883年に発表らしいが、部分的にinner monologが使われていたり、技法的にも面白い。「四日間」と「信号」はめっちゃ面白くて没入して読んだ。後ろの二つはふーんというかんじ。全体的に左翼的なフィーリングがあって熱かったけど、「信号」にしろ「アッタレーア」にしろ屈折があって、その辺は実際にはどうだったんでしょう、とか思いました。ciniiでちょっと見た感じだと、もうあんまり研究はされていないのかしら。
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マチネの終わりに出てくる映画監督イェルコ・ソリッチの作品「ダルマチアの朝日」の下敷きとされている。
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これはあれか、大人向けの童話って感じだろうか。単に短いからそう思うだけか。概ねこの時代の本というのは、一ページにめっさ文字が入っていて、見るだけでむはーとなってしまうけども、これはどの話も短くて、やっぱこれくらいがちょうど良いわー、とへたれとしては思ってしまう。
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まるで田舎武者のような素朴さがいい。
『紅い花』『信号』気に入ってる。 -
美しいが哀しい。
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精神病と聞いて手に取ったが、予想外に話の性根がまっすぐだった。
「紅い花」彼の達成感が実に思われる。
「四日間」テーマはエグいものの、これからの希望が見えたと思った。
「信号」虚しい、やるせない。けれども清く終わる。
「アッタレーア」これだけ後味が悪い。比喩的で色々考えさせられた。 -
「紅い花」の鮮やかさが強烈。どれもまっすぐ迫ってくるものばかりで、苦しくもあり、また清々しくもあり。純度の高い、研ぎ澄まされた感覚。狂気の美しさ。
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精神を侵されていたにしては温かさが息づいていた
戦争がいかに人間の根源を脅かすかを強かに表現
そして俗世界から離れ、動植物を登場させた童話のような話。スキダ。
どの作品にも彼の慎ましやかな優しい心が。
2009/03/09 -
珠玉の短編5本。物悲しい短調の調べが聴こえてくるようだ。繊細で艶やかな言葉遣いの名訳。サラリと読めるが深く印象に残る。「アッタレーア・プリンケプス」が特に印象深かった。物言わぬ植物だけど植物の言葉が聴けたらなんて妄想が広がる。
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正義感のあまりの死、頑張って打ち破った制約に実は自分は守られていた・・・など。むなしい。外へ出ようとあがくほど、それは無駄だと悟ることになる。その中で、人はどうやって生きればいいのか?この作品集では、それは犠牲の美しさの中に解消されているような気がした。なんて恐ろしい物語だ。
フセーヴォロド・ガルシンの作品
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