可愛い女(ひと)・犬を連れた奥さん 他一編 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003262238

感想・レビュー・書評

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  • 『犬を連れた奥さん』『イオーヌィチ』『可愛い女』の三つの短篇。

    『犬を連れた奥さん』は、お互いにパートナーがいながら、男性が旅先の遊びのつもりで『犬を連れた奥さん』に声をかけたのをきっかけに始まる恋物語。最後に、二人がどうしていけばいいのか話し会うところが好き。お互いにパートナーがいるだけに、いったいどうしたらいいか悩むのは当然ですが、誰かを不幸にしてしまう幸せって何だろうというのは、永遠のテーマですね。

    『イオーヌィチ』は、群会医になりたての医師が、お金持ちのパーティーに呼ばれて、そこの「猫ちゃん」と呼ばれている小娘に恋をします。しかし、全く相手にされず、彼女はピアニストになるという夢を見てモスクワへ。そして、4年の歳月を経て二人は再会しますが、恋し恋されの立場は逆転してしまっています。この辺りのストーリーの運び方や、二者の心変わりしていく様子の描き方が秀逸。

    『可愛い女』は、愛情を注ぐ相手の意見に迎合し、まったく自分の意見を持っておらず、周りに流されて生きている女性。そんな彼女は、愛情を注ぐ相手がいなくなった途端に、空っぽの抜け殻のようになってしまう…ある意味、相手に染まっているという点では『可愛い女』なんだけど、それでいいんだろうかと思ってしまう。おそらくチェーホフも、相手に流されてばかりの人生に苦言を呈しているような気がします。

  • どの作品だったかは忘れたのだが、チェーホフは村上春樹も小説かエッセイの中で触れていたし、先ごろ読んだ金井美恵子の『道化師の恋』にも顔を出していた。トルストイもまた熱心な読者だったそうだ。ことほどさようにチェーホフというのは玄人好みの作家なのだろうか。この短篇集は表題作2篇のほかに「イオーヌィチ」を収録する。いずれも典型的なロシア・リアリズム小説だ。それぞれの物語は短いにも関わらず、なんだかずっしりとした読み応えがあり、いくつもの人生を生きたような気分になる。篇中では、やはり「犬を連れた奥さん」がベストか。

  • 「犬を連れた奥さん」妻子ある40近い女好きのドミートリイ。海岸通に現れた若い奥さんと仲良くなろうとアプローチしていきますが・・・愚かしくも切ない男女の関係を短編に凝縮しています。男女の関係は100年くらいじゃ変わらないってことか。「イオーヌィチ」滑稽なほど盛り上がるタイミングがすれ違ってしまう男女。「よかったなぁ、あのときもらっちまわないで」のつぶやき。ブラックです。「可愛い女」究極の「あなた色にそまるわ」もしくは「つくす女」。幸せを相手に打ち込むことの中に見出す姿を、単に主体性が無いといって笑えるか?自主性をもって不幸なままでいるほうがましなのだろうか?何に幸せを感じるかは本人の問題。良い悪いの価値判断では語れないなぁと改めて感じさせられました。それに巻き込まれる周りがあるから悲劇も生まれ、笑いも生まれるのでしょう。偶然にもパオロ・ガチバルビ著「ねじまき少女」にも通じるテーマでした。遅まきながら完全にチェーホフに目覚めました。チェーホフ面白い!

  • 中学生のとき、最初に読んだ外国文学だ。

  • 犬を連れた奥さん
    既婚中年男性と若い主婦がヤールタ(クリミアの南岸、風光明媚な保養地)で出会う。
    本当の恋をしたことはただの一度もなかった男。なにもかもそろっていたけど恋だけはなかった。彼女もしかりだった。
    短い頁にアバンチュールが本気に変貌してゆく心理が詰まっていた。息苦しいのに最後は清々しい。ラストには「まだやっと始まったばかり」とある。(私には)敷居が高すぎて感想が難しい。村上さん関連の本(息子の本棚にあった)。

  • 大きな事件もなく、ストーリーにも登場人物の心情にも大きなうねりはないのに、これだけ読ませる作品は稀だ。
    おそらくチェーホフの原文もいいのだろうけど、神西清さんの日本語が本当に素晴らしい!

  • 著者について何も知らない残念なわたくし。
    今の人も150年の昔の人もほぼ同じようなことに熱中したり、悩んでいたりして、人間って成長してないんだわぁ(笑)。
    読後に主人公たちのことを考えてみるとじわじわと人となりが浮かび上がって来て、心の奥底を見透かしている。ゴリキーがチェーホフにリアリズムを殺しているとか言ったらしいが、読んで考えているとその意味がなんとなくわかってくる。

    少し前に読んだシュトルムの宗教観に縛られた苦しい恋と比べると自分本位に宗教も自由自在してしまうチャッカリ感も窺え、それは作家の出自によるところなのか、才能なのか。
    チェーホフが庶民派な階級出身だからなのかロシア人だからなのか、文豪たちの作品と違って主人公も自分の良いように世間を泳ぐような趣でとてお興味深い。

    ハルキせんせいは時々、チェーホフの旅行記のことに言及してるけど、これはホントに面白いかも。ほかの作品も読んでみよう。

  • 空想でもあり現実でもあるような不思議な感覚をもたらす作品だった。所々やさしくロマンチックな雰囲気が漂い、より一層おとぎ話のように感じた。
    墓地で女を待つ男と、墓場のシーンが印象的だった。翻訳が素晴らしかった。

  • ・可愛い女
    完璧すぎて怖い!!!!!!

    ・犬を連れた奥さん
    めちゃくちゃ面白い。。男のエンドレス自意識タイム
    どう考えても勘違いであるというジャッジを下したくなりつつも、その瞬間だけの真実が連綿と続く。
    なんかレイヤーが多い。どの層から誰を観察するのか、観察者のジャッジをどの層から翻すのか、繰り返されてどんどん読み進めちゃう。
    「草に露が降りてますのね」、別れのシーンとしておしゃれすぎる

    ・イオーヌィチ
    全方面殴るじゃん

  • ■「犬を連れた奥さん」
    「彼はいつも女の目に正体とはちがった姿に映ってきた。どの女も実際の彼を愛してくれたのではなくて、自分たちが、想像で作り上げた男、めいめいその生涯に熱烈に探し求めていた何か別の男を愛していたのだった。そして、やがて自分の思い違いに気づいてからも、やっぱり元通りに愛してくれた。そしてどの女にせよ、彼と結ばれて幸福だった女は一人もないのだった。時の流れるままに、彼は近づきになり、契りをむすび、さて別れただけの話で、恋をしたことはただの一度もなかった。・・・・・・それがやっと今になって、頭が白くなりはじめた今になって彼は、ちゃんとした本当の恋をしたのである―――生まれて初めての恋を。」
    ダブル不倫でも恋は恋。陽子と電子が、地球と月が、男と女が引かれあうのは不思議だけれど自然なこと(ただし恋の場合に限って言えばたいていすぐ冷める。よって恋はよけいに不思議……)。

    ■「イオーヌィチ」
    「かつては自分にとってあれほど懐かしく大切なものだった、黒々とした家や庭を眺めやって、彼は何から何まで――ヴェーラ・イオーシフォヴナの小説のことから、猫ちゃんの騒がしい演奏のこと、イヴァン・ペトローヴィチの駄洒落のこと、パーヴァの悲劇の見得のことまでいっぺんに思いだして、町じゅう切っての才子才媛がこんなに無能だとすると、この町というのは一体どんな代物なんだろうと考えた。」
    一体どんな代物? しかしそれは自分とて同じこと。長年の業務上の功労によりおのずとお歴々の一角を占めていようと、容姿は醜く肥え太り、心は狷介に凝り固まっている。

    ■「可愛い女」
    "Kawaii" means cute, adorable, childlike, lovely and so on.
    And when we say "kawaii onna", it means obedient, somewhat goofy woman we want to protect.
    100年以上前のロシアのお話だが、うん、たしかにこの女、かわいい。そしておばさんになってからも。世界中のすべての「可愛い女」ばんざいだ!

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著者プロフィール

一八六〇年、ロシア生まれ。モスクワ大学医学部を卒業し医師となる。一九〇四年、療養中のドイツで死去するまで、四四年の短い生涯に、数多くの名作を残す。若い頃、ユーモア短篇「ユモレスカ」を多く手がけた。代表作に、戯曲『かもめ』、『三人姉妹』、『ワーニャ伯父さん』、『桜の園』、小説『退屈な話』『六号病棟』『かわいい女』『犬を連れた奥さん』、ノンフィクション『サハリン島』など。

「2022年 『狩場の悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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