六号病棟・退屈な話(他5篇) (岩波文庫)

著者 : チェーホフ
制作 : 松下 裕 
  • 岩波書店 (2009年11月13日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (391ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003262269

作品紹介

世間的名声を得た老教授。だが、その胸の内は…。空しさと無力感-わびしい気分で綴られた手記の形をとる「退屈な話」。正気と狂気、その境界のあいまいさを突きつけて恐ろしい「六号病棟」。他に、「脱走者」「チフス」「アニュータ」「敵」「黒衣の僧」を収録。医者としてのチェーホフをテーマに編んだアンソロジー。

六号病棟・退屈な話(他5篇) (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 医者としてのチェーホフにポイントを置いて編まれた短編集である。7編がはいっていて、「脱走者」は病院がこわくて脱走する子供の話、「チフス」は青年がチフスに倒れ、なんとか生還するが、妹にうつって死んでしまう話、「アニョータ」は医学生に尽くし捨てられていく女の話、「敵」は自分の子供がジフテリアで死んだばかりなのに、往診を頼まれ、地主の家にいってみると仮病をつかった妻が情夫といっしょに駆け落ちした後だったという話、「黒衣の僧」はタイトルの幻影をみる哲学者が治療されたために、不幸せになり、離婚し、のたれ死ぬ話である。これらの短編は医学の無力を書いているのだが、これが「六号病棟」で細かく書かれている。主人公は「燃え尽き」た医師で、鉄道から200km離れた僻地で医療を行ったいる。予算がなく、読み書きができない無理解な人々が行政をしているので、病院に改善がなされず、不潔でむしろ健康に悪い病院になっている。主人公の医師は最新医学の知識をもっているが、やる気をなくし、もはや助手たちに医療を任せている状態である。ある日、精神病棟をたずね、脅迫観念の男と話していると、正気の人々より知的な会話ができ、医師は彼とよく話すようになる。それを見た野心的な准医師が医師が発狂したと郡会に告発、無理矢理引退させ、最後には精神病棟に入れ、殺してしまうという話である。「退屈な話」は死を間近に感じている著名な医学教授の手記である。妻は昔の面影がなく、物価が下がったことにしか喜びを示さず、息子は外国で士官となっているが仕送りをしなければならない状態、娘は音楽学校にかよっているが、いいかげんな男にだまされ、結婚してしまう。友人から養育を託された娘は、芝居に傾倒し、女優になるが、男にだまされ、子供を葬り、自分にも才能がなかったことを悟り、演劇をやる俳優たちの自堕落な生活にも幻滅、親の遺産を食いつぶしている状態である。教授は講義好きだが、助手には独創性がなく、清潔なプレパラートを量産し、「誰にも役にたたない論文」と「良心的な翻訳」を残すくらいの業績しか残せないだろうと将来をみかぎっている。そういう老教授の日常が淡々と書かれている。「六号病棟」の医師も「退屈な話」の教授も、感受性をなくし、もはや行動することのできなくなっている人間を描いている。時代のせいもあるだろうが、どうして人間は諦念に安住してしまうのだろうか。彼らが愚かだからではなく、むしろ賢いからそうなるのかもしれない。魯迅もそうだが、医学と文学をやる人は多い。やはり、人の死と向き合うと、考える所があるのであろう。だが、彼らにも「耐える」という美徳はある。同じように耐えられる人ばかりとは限らない。もっと崩れる人間もいるだろう。

  • 本当は荒野とこどもたち

  • 初めて読んだロシア作品。根底にある暗さは底なしにくらいが、
    今の日本の社会と ロシアの社会の共通点の多さや、
    狂気と正気の差、他人の環境はわからないという事実
    おもしろかった

  • 『医師としてのチェーホフ』をテーマに編集された短篇集。
    収録作の中では、ある精神科病棟を舞台にした『六号病棟』か、一種の怪奇小説としても読める『黒衣の僧』が有名だろうか。
    前半の4篇は、『チェーホフ』と言われて思い浮かぶ、やや滑稽味のある切れ味鋭い短篇にカテゴライズしても違和感が無さそうだが、後半の3篇(やや長めのもの、という言い方も出来る)は、チェーホフの違った一面を見ることが出来る。
    収録作の中では『黒衣の僧』が一番好みだった。

  • 医学のアンソロジー。

  • “死のことを語るときに誰しもが考えるあの忌わしい恐怖は、寝室にはなかった。(…)それは人の悲しみのもつ微妙な、ほとんど捕えがたいほどの美しさだった。それがわかり、それが描き出せるようになるのは容易なことではない、わずかに音楽だけがそれを伝えられるような気のするあの美しさだった”

  • チェーホフが読んでみたいと思って購入した1冊。2篇ともなんだか読んでいて頭が痛くなる作品だった。もっとわかりやすいところからチェーホフ読んでみるべきだったかな。まったく恋愛が出てこない2篇。どうやらチェーホフの中では異色な短編みたい。『桜の園』とか読んでみようかな。2012/171

  • 最初の短編では、「敵」が印象に残った。
    医者は公正でなければいけない…とはいえ、こんな不幸なめぐり合わせがあったなら、私なら偏見を持たずにいられるだろうか?

    「六号病棟」は、知り合いにあらすじを話したら「ホラー映画のような展開だね」と言われた。確かにありそう。

    「退屈な話」自分も女ゆえか、カーチャの苦しみが胸に響いた。とはいえ、私自身の人生はカーチャとは全然違い、少しも起伏のないものだけれど、根本には同じ迷いがある気がする。
    主人公のニコライに関しては、最初どれだけ自惚れ屋なのかと思ったけれど、さすが一角の人物だけはあって、批評も鋭く考えも立派。その分、「フィナーレをだいなしにしている」現状が悲しい。
    これを29歳で書いたという解説を読んで驚いた。

  • アル中で入院中の父が、おそらく自身を重ねて、私に選んだ本。
    文学的メランコリーに格上げしてしまうなんてずるい。

  • ある音楽家が生前に愛読していたという短編「黒衣の僧」が収められている。学究と日常生活の間の齟齬に苦しむ主人公。 健全な精神を犠牲にしてまでも霊感に身を捧げる生き方は間違ったものなのか、という問いがテーマ。

    黒衣の僧が遠くからライ麦畑を渡って来て主人公と遭遇する場面が印象的。

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