- Amazon.co.jp ・本 (391ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003262269
作品紹介・あらすじ
世間的名声を得た老教授。だが、その胸の内は…。空しさと無力感-わびしい気分で綴られた手記の形をとる「退屈な話」。正気と狂気、その境界のあいまいさを突きつけて恐ろしい「六号病棟」。他に、「脱走者」「チフス」「アニュータ」「敵」「黒衣の僧」を収録。医者としてのチェーホフをテーマに編んだアンソロジー。
感想・レビュー・書評
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医師でもあった著者の残した、医療や病にまつわる七つの中短編のアンソロジー。はじめの四編が短編、残り三編が表題作ふたつを含む中編作品です。気鬱な内容の物語で集成されており、読んでいて気がふさぎました。なかでも三つの中編はその傾向が強いとともに、主要人物が俗人を嫌悪する知識人であるという共通点があります。以降は作品ごとの概要や所感などです。
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『脱走者』
母に連れられて外来診療の結果、ひとり病院に残ることになった幼いパーシカの一夜が描かれる。患者や看護人たちの姿が、子どもの目におどろおどろしく映る様子が伝わる。
『チフス』
帰郷の途の列車内で、病のために目につくもの全てを厭らしく感じるクリーモフ中尉。おばと可愛い妹の待つもとに帰宅してチフスと診断される。快癒した後のクリーモフの感情が列車内と対照的に描かれる。
『アニュータ』
前途有望な医学生クロチコーフと、同棲する身寄りのないアニュータとの関係性が中心となる。
『敵』
最愛の息子に先立たれた直後の都会医キリーロフに、妻の診察を依頼しにきた裕福な地主のアボーギン。キリーロフはアボーギンに不快感を抱きながらも往診に向かう。
『黒衣の僧』
コーヴリン博士は休養のため逗留していたペソーツキーの屋敷で伝説とされる黒衣の修道僧の蜃気楼を目にする。コーヴリンは屋敷の娘と結ばれるが。
『六号病棟』
朽ちかけた病棟に収容されるのは五人の精神病患者たち。医師ラーギンは唯一、貴族出の患者であるドミートリチとの知的な会話を楽しみ、病棟に足しげく通うようになる。病院のスタッフたちはそんなラーギンを不審な目で見る。中盤でラーギンがドミートリチに対して口にする台詞が象徴的に響く。本書で最も含蓄の深さを感じさせる作品。
『退屈な話』
高名な解剖学名誉教授である、老年のニコライ・ステパーヌイチは自身の寿命が近いことを予感している。厭世観に満ち満ちたニコライの、俗世への嫌悪と軽蔑の感情が延々と綴られる。妻、娘、部下、娘婿候補、学生と、近親者を含めて目につくものをことごとく疎ましく感じる彼にとって、近所に住むカーチャという若い娘との時間だけが慰めだった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
六号病棟のイワン・ドミートリイチはまるで自分のようだ。彼は被害妄想で精神病棟に閉じ込められている。しかし彼の被害妄想は、彼の臆病な性格や彼自身に対する自信のなさに端を発している。往々にして人は意図的に罪を犯すのではなく、うっかりしてとんでもない誤ちをするものである、とイワンは考えている。私自身もそう考える節がある。(夏目漱石の『こころ』の主人公のように。)イワンは自分が将来犯してしまうかもしれない過ちに怯えるあまり、気が狂ってしまった。私はイワンを他人事に思えなかった。
アンドレイ・エフィームイチの気弱な性格も自分にそっくりだ。彼は医師という権限がありながら、人に命令することができない。常にまわりの人々の顔色を伺っている。この点も自分にそっくりだ。彼は大学まで順風満帆な人生を送ってきたが、医師になった途端、突如として話の通じない人ばかりの田舎に飛ばされてしまう。彼の境遇の全てに同情する。不遇な彼が唯一田舎で心が通じ合えたのがイワンだったこと、そしてこのことが更なる不幸を呼び起こしたこと、全てがかわいそうだ。
表紙の紹介文は本作を「正気と狂気の曖昧さを突きつける」と評している。私はそれもあると思う。しかしそれ以上に、人がまわりの人間によって理不尽なレッテルを貼られて破滅していく様を、本作は如実に表していると感じた。 -
(特集:「先生と先輩がすすめる本」)
学問への意欲に燃える若い人に、「黒衣の僧」を勧めるのは間違いかもしれない。しかし「お前は選ばれた天才だ」と囁く幻と出会い、やがて精神的に破滅していく若者を描いたこの傑作は、あなたに強烈な印象を残すであろう。閉じこもり、錯乱をきたしながら絶命する姿には、共感を誘う何かがあると言わざるを得ない。チェーホフは登場人物の心の動きに光を当てる短編小説を多数書き、ロシア近代文学の歴史を変えた文豪である。一家破産で貧しい中、苦学して医者となったが、生活のために執筆を続けた。日本文学にも大きな影響を与えている。
(教員推薦)
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http://mlib.nit.ac.jp/webopac/BB00511250 -
■「敵」
①愛息をジフテリアで死なせてしまったばかりの医師。絶望のあまり自分の両足で立っていることさえままならない。妻は息子の遺体の傍らに突っ伏し、泣き声をあげる力さえない。
②そこへ見知らぬ男が飛び込んできて、自分の妻が死にそうだからすぐいっしょに来て診てほしいと嘆願する。医師は、法や倫理に背いてまでも今だけはどうしても無理だと固辞するのだが、ついに根負けして男といっしょにその妻の元を訪ねる。
……そして次の③の展開が意外中の意外。お話はメリハリがあってスピーディ。素晴らしい。
■「黒衣の僧」
それは統合失調症が見させる幻なのだろうか、主人公コーヴリンの元をたびたび訪れる”黒衣の僧”。夫思いの妻はコーヴリンに精神病の治療を受けさせる。治療が功を奏したのか病状が緩和して”黒衣の僧”は姿を現さなくなる。しかし他方でコーヴリンはどんどん気難しくなっていき、皮肉にも仲睦まじかった夫婦の仲は完全に崩壊してしまう。最後、大量喀血して倒れたコーヴリンにふたたび”黒衣の僧”が訪れる。コーヴリンは幸福だった頃の思い出に包まれ、笑顔を浮かべて息を引き取る。
■「六号病棟」
物を考える、より正しく、より深く、より厳しく……。そんな哲学的な営みは、大多数の考える能力など持たない一般大衆からしたらいい迷惑で、早急に矯正しなければならない危険な悪習にほかならないのだ。
医師アンドレイ・エフュームイチは、粗暴だが相当のインテリと思われるとある精神病患者に興味を持ち、知的な会話を楽しむため彼が収容されている六号病棟をしばしば訪れる。
この忌まわしい噂を聞きつけた同僚の医師、友人たちはアンドレイ・エフュームイチに改心を勧めるも彼は反省の色を見せようとしない。一方でアンドレイ・エフュームイチは彼らのお為ごかしで恥知らずな言動に心底うんざりして逆に喰ってかかる。
ついにアンドレイ・エフュームイチは危険人物の烙印を押される。時を置かずに当の六号病棟におびき出され、監禁されたのち病死する。 -
岩波文庫赤
チェーホフ 「 六号病棟 退屈な話 」 医者の使命と葛藤を描いた7編。テーマの背景は 患者と医者の対立と同質化、医者の使命と喪失だと思う。現代にも通じる問題提起だと思う
医者でもあった 著者が伝えたかったのは
*医者=科学、高い教養、自己犠牲 の象徴とした 医者のあるべき姿、問題の提起
*医者は 患者と同質化すべきではないし、医者という立場を持つかぎり 共生意識を持てない
「六号病棟」は 医者が使命を喪失し、患者と同質化する物語。医者が医者として特権をなくして 初めて 自己を発見?
「退屈な話」は 幸福論。科学が進化し、多くの病気を治すことができるが、それが 本当に幸福か。
*人間の幸福は 外部ではなく、内部にあり、病気の除去が 本当に患者の幸福なのか?
*医者であっても 内部のことは 本当は わからない
脱走者〜病院の怪談
チフス〜病気の恐ろしさ、生の喜び、家族の死の虚無感
敵〜医師としての使命(患者の命を守ること) と 不条理な患者
黒衣の僧〜健康で正常なのは、平凡な群衆だけ
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チェーホフというと戯曲家のイメージが強かったけれど、短編小説もかなり味があって面白い。ドストエフスキーもそうだけれど、ロシアの巨匠は人間の黒い部分や後ろめたい部分の描写が上手すぎる。
特に表題の「六号病棟」は精神病院の患者の中に宿った知性に惹きつけられた風変わりな医者が、周囲からだんだんと気味悪がられていく過程の後味が悪くて面白い。最初は権威に対してへりくだった態度の看守が乱暴な手段をとってしまうシーンは読んでいて苦しかった。 -
本当は荒野とこどもたち
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初めて読んだロシア作品。根底にある暗さは底なしにくらいが、
今の日本の社会と ロシアの社会の共通点の多さや、
狂気と正気の差、他人の環境はわからないという事実
おもしろかった -
『医師としてのチェーホフ』をテーマに編集された短篇集。
収録作の中では、ある精神科病棟を舞台にした『六号病棟』か、一種の怪奇小説としても読める『黒衣の僧』が有名だろうか。
前半の4篇は、『チェーホフ』と言われて思い浮かぶ、やや滑稽味のある切れ味鋭い短篇にカテゴライズしても違和感が無さそうだが、後半の3篇(やや長めのもの、という言い方も出来る)は、チェーホフの違った一面を見ることが出来る。
収録作の中では『黒衣の僧』が一番好みだった。
チェーホフの作品






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