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Amazon.co.jp ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784003264614
感想・レビュー・書評
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■「粘土砂漠」
100年ほど昔の中央アジアが舞台の……SF? それともマジックリアリズム? ……だってこれが現実とは到底考えられないのだ。
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トルクメニスタンの騎馬隊、アタフ・ババは戦闘の末、ペルシャ人の14歳の少女ザリン・タージを奴隷として捕らえ故郷に連れ帰る。
ザリン・タージはアタフ・ババの妻たちの一員に加えられ、やがて妊娠、娘ジュマリを出産する。
ジュマリが成長したある日、家長のひとりオダ・カラが若い女がほしくなったので、ジュマリを買いに来る。
「アタフ・ババは、慰め(の若い女)なしにはだれも生きてゆけぬと同意した。人間は涙より精液を出すほうがよいからだ。」
しかしザリン・タージがコレラに感染し死の床につく。ジュマリはザリン・タージを慕って抱きつくが、感染を恐れたアタフ・ババ、オダ・カラは二人を捨てて逃げ去る。
「(娘のジュマリは、)母(ザリン・タージ)の衣服をたくしあげ、胸郭に食いこんだ二匹のどすぐろい死んだ蛆虫そっくりの乳を目にした――それが、かつて彼女をはぐくんでくれた乳首の名残りであり、母の皮膚は肋骨の間にめりこみ、心臓は感じられなかった。もう鼓動していなかったのだ。・・・・・・老婆には何か幸福なものを感ずべき場所はもはや何もなく、老婆の力は苦しみのためだけで精いっぱいだった。このような胸は、愛することも憎むことも、もはや何一つなしえなかったが、胸そのものの上に頭を垂れて泣くことは可能だった。」
ザリン・タージは死に、粘土砂漠に埋められる。ひとり放浪するジュマリはアタフ・ババとオダ・カラに再び捕らえられるが、隙をついて二人を殺害、タシケントに逃げ延びる。数年後、植物学者となったジュマリは粘土砂漠を訪れ、母の墓を探し当てる。
■「ジャン」
「……『その民族は何てよばれているんだい』…
『ジャンです。これは、魂とか、いとしい生命とかいう意味でしてね。この民族は、女性である母親が産んだことによって与えてくれた魂や、いとしい生命以外に、何一つ持っていなかったんですよ』
書記は眉をひそめ、身につまされたような顔になった。
『つまり、財産といえば、あとにも先にも、胸の奥の心臓だけというわけか、それも鼓動している間だけだね』」
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世界で最も貧しい民族、砂漠の”ジャン”。人々は流砂のように一か所にとどまることを知らない。彼らのアイデンティティーは蜃気楼のようにたよりなく、揺らめいてはやがて砂丘に溶けて消えていく……。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
代表作の「ジャン」を始め、「粘土砂漠」「三男」「フロー」「帰還」から成る中短編集。好!き!だ!「ジャン」と「粘土砂漠」は、共に中央アジアの寂寞とした世界が舞台。空腹と乾きは決して去る事なく、「選ぶ」という自由も贅沢もなく、死と生の綱渡りを続ける登場人物達の過酷な日々が、シリア難民支援に携わっていた当時の自分が毎日相対していたケースとあまりにも似ていて、感極まって泣いてしまった。人は心を空にしても、何かを注いでも、何かを零しても、生きられるだけ生きる、そんな強烈なメッセージを孕んだ上記二作以外にも、大好きなヒューマニズム溢れる作品ばかりだった。特に「粘土砂漠」と「帰還」が好き。どの作品も、登場する子供達だけが異様で、嫌に大人びているのは、自由や創造性を奪い去った社会主義を暗に批判しているのだろうか。考察の余地が沢山ある作品だけど、額面通りに受け取っても良い。繰り返し読む度に新しい発見がある、オススメの一冊です。
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「ジャン」では衣食住全て与えられずの絶望的な状況に置かれた人々たちの温かみを感じる。砂漠に追いやられた犯罪者、奴隷たちが時間を経てジャンと呼ばれる少数民族となり、元ジャンの出が彼らを救い上げる話だが、タタール人、イヴァン雷帝らの500年の奴隷生活を経た人々は当然救いがたく、、
他作品も子どものアンチ的な役割が状況をいくらか温かくしている。
ジャン(少数民族の呼称)
彼らには食物も未来への希望も安定した幸福もないが、お互いへの愛情のみ持っている、、という、、この描写がいくつかあり、それがかなりイイ -
巻末の解説に「自然派」との表現があった.確かにそういった趣の作品もあるが,本書の根幹である中編「ジャン」は,そういった表現にはとどまらず,南米のガルシア=マルケスやバルガス=リョサにも通じるような,不思議な作品だ.ただ,南米の作家の作品はジャングルのまとわりつくようなムッとする空気が感じられるのだが,「ジャン」の舞台は砂漠.飢えと乾きに苦しみ死と隣り合わせの砂漠.幻想ではなく死の白昼夢である.
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「ジャン」のみ読了。
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プラトーノフの作品は初めてだったが、砂漠に住む少数民族を描いた「タクィル」と「ジャン」が良かった。両方とも、貧困と厳しい環境の中、必死で生きようとする主人公の姿が胸を打つ。
(2016.2) -
目を閉じて、体内に抱えこんだ死の輪郭をてのひらでなぞるような、独特の肌ざわりを持つ文体。記憶と物、愛と寂しさに対するほとんど身体的な思考。中央アジアの砂漠を舞台にした「粘土砂漠」「ジャン」は時代を感じさせる一、二の設定を除けば無時間的な寓話に近く、市井の人びとの日々を切り取った「三男」「フロー」「帰還」は淡々とした筆致の中に、ひとりひとりの孤独を痛いほどきわだたせる。
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「ジャン」しか読んでいないのだけど、忘れられない、ほんとうに忘れられない本。他のどんな表現とも違う読後感があり
著者プロフィール
アンドレイ・プラトーノフの作品
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