巨匠とマルガリータ(下) (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003264836

作品紹介・あらすじ

裸で飛び立つモスクワの夜。アパートではじまる悪魔の大舞踏会。マルガリータの愛に、ユダヤ総督の二千年の苦悩に許しは訪れるのか?「原稿は燃えないものなのです」-忘却の灰から蘇り続ける、ブルガーコフ(一八九一‐一九四〇)の遺作にして最高傑作。

感想・レビュー・書評

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  • モスクワに突如現れた悪魔ヴォラントは異常な乱痴気騒ぎを引き起こす。一方、エルサレムでは、総督ピラトゥスがイエス(ヨシュア)を処刑したことで苦悩している。
    2つの時空をつなぐのは、「巨匠」の幻の作品である。モスクワに住む作家、通称・巨匠がピラトゥスの物語を綴っていたのだ。巨匠は作品が評価されなかったことで失意の淵に沈み、彼を支えていた恋人に告げぬまま、精神病院に入ってしまう。
    その恋人こそが「マルガリータ」であることが下巻の冒頭で明かされる。
    巨匠が忽然と消えたことに傷ついたマルガリータだったが、彼を忘れることはなかった。その彼女を、悪魔ヴォラントが召喚する。魔女となった「マルガリータ」は、一糸まとわぬ裸の姿で空を飛び、「巨匠」を苦しめた者たちに罰を与える。そして悪魔の開く大舞踏会の女主人として大勢の客をもてなす。
    舞踏会の礼として、悪魔は彼女が一番欲しいものを与える。そしてまた、二千年もの間苦悩し続けるあの男と巨匠との仲立ちをするのもまた悪魔であった。

    ロシア的マジックリアリズム。
    物語はあらすじで想像するほど生易しくはない。あちらへ行き、こちらを彷徨い、時に淫靡で時に滑稽、ある時は重厚である時は馬鹿馬鹿しい。
    「マルガリータ」はゲーテの『ファウスト』に登場する女性の名(マルガレーテ、別名グレートヒェン)を思い出させる。ファウストに弄ばれ、嬰児殺しで投獄されるが、最後まで神を捨てない。最終的にファウストが救われるのは彼女の祈りのおかげである。
    本作のマルガリータは悪魔を「ご主人」と呼び、彼の願いにすすんで答える。だが、結局のところ、巨匠は彼女に伴われて、永遠の安らぎを手に入れるのだ。

    全体に、神の影は薄い。物語を終始引っ張るのは悪魔だ。
    巨匠が書く物語の中でも、処刑されるイエスは主人公ではなく、処刑する側のピラトゥスが主体である。
    だが、無神論者を公言するベルリオーズは物語冒頭でこっぴどくやっつけられる。
    逆に、神やイエスを信じるものを、実は悪魔が救っているようでもある。
    猥雑で派手な騒ぎを引き起こしつつ、悪魔が去った後には、苦しんだ者たちに永遠の安らかな静謐がもたらされる。
    つまるところ、本作では、悪魔は神の「代行」者なのか。
    悪魔と神は表裏一体。神がいなければ悪魔も存在しえない。神を否定する者はまた、悪魔をも否定する者だ。それをいささか荒っぽい手腕で見せつけてやったというわけだ。

    巨匠は色濃く、作者自身を思わせる。一度体制側に睨まれてからは、多くの作品が発禁処分となる。苛立ちや不安、絶望もあったろう。
    幕切れで、巨匠とマルガリータが落ち着く場所は、作者の理想の「天国」のようにも思える。

    作中で、絶望した巨匠は、一度は原稿を焼く。だがそれは悪魔により復活する。本作中最も有名な一節、
    「原稿は燃えない」

    それは生前、不遇であった作者自身の叫びのようにも聞こえる。
    抑圧されても、発禁となっても、焚書の憂き目にあっても、原稿は、物語は、消えない。
    灰となってもまた、不死鳥のように高く舞い上がる。
    その力は時空をつなぎ、作者と読者とを直につなぐのだ。

    不思議な感慨を呼ぶ1作。

  • 下巻でやっとマルガリータのターン!上巻では「巨匠もマルガリータも全然出てこないよ?」と心配になったものでしたが、下巻はまさに巨匠とマルガリータの愛の物語でした。

    悪魔の一味に翻弄されて右往左往する男たちが滑稽だった前半に比べて、マルガリータの言動はとにかく痛快。たとえ悪魔に魂を売り渡しても巨匠を救いたいという彼女の一念がブレないので、全裸で箒に乗って飛び回り、巨匠を陥れた相手に復讐するため大暴走していても清々しい。悪魔ならずとも一目置いちゃいます。マルガリータの小間使いナターシャも迷いがなくて気持ちいい(笑)

    前半の劇場での黒魔術ショー、後半の悪魔の舞踏会など、映像的な盛り上がりも抜群だし、ご主人様と、チビとノッポと猫と美女というチーム悪魔も、ビジュアルわかりやすくてお茶目だし、ホドロフスキーかシュヴァンクマイエルあたりなら映画化してくれても面白いかもなんて思ってしまった。テリー・ギリアムでも可。反面、やたらと燃え落ちる家屋、水のイメージ、そしてピラトゥスに寄り添って2千年一緒に待ってた健気な愛犬の様子などは妙にタルコフスキー的な印象も受けました。

    とにかく読んでいるあいだずっと夢中で楽しかった。みんなが幸せになれたわけじゃないけれど、ハッピーエンドだと思えたし。いつかイワンのことも、誰か迎えに行ってあげてほしい。

    岩波文庫版は表紙絵が「ブルガーコフが住んでいたモスクワ・サドーワヤ大通り10番地のアパート、50号室に到る壁面にあったファンの落書き」だそうで、これが素敵。ブルガーコフ、ほんとに「50号室」に住んでたんですね(笑)

  • 某氏がTwetterで絶賛していたので,読んでみた.
    奇想天外なお話だが,あとがきを読んで,なーるほど,と納得.これは執筆当時のソ連の芸術弾圧,検閲を揶揄しているのね.

  • こんなときだから読むというのもどうかと思うけど、ちょうど積んでいたので。とはいえ内容としてはウクライナというよりロシア文学なはず。
    さて、内容だけど、傑作。悪魔が主要登場人物であるだけにキリスト教への理解があった方がより深い読みができるとは思うけど、奇想天外な登場人物や出来事が次々と起こるのを追っていくのが単純に面白い。マルガリータが魔女になったときの堂に入りっぷりとかも。
    でも結局巨匠とマルガリータの救いが死だったのは、巨匠がずっと作品を活字に残せなかった作者の写しだと思うと悲しい。

  • 『巨匠とマルガリータ』のあらすじ―――

    年に一度開催される大舞踏会のため、今回はモスクワに降り立った万能の悪魔ヴォランドとその一党。彼らは作家協会やヴァリエテ劇場の関係者たちを次々と破滅させてモスクワを混乱と狂態の真っただ中におとしいれる。
    彼らの最大の目的は舞踏会を成功させるために”今年の女王”を見つけ出すこと。一方、人妻マルガリータは結婚生活に倦怠をきたし最愛の”巨匠”にも去られ怏々とした日々を送っていた。そんな彼女を悪魔たちが見初め魔女への転身を願い出る。マルガリータはその提案を受け入れ魔女に変身して市井で大暴れ。そのあと舞踏会では女王として君臨、その重責を果たして式を大成功に導く。
    悪魔ヴォランドはマルガリータの働きぶりへの報償として、精神病院から”巨匠”を連れ出し二人に安住の地を授ける。また、イエスの処刑を裁可したことにより二千年ものあいだ苦悩し続けてきたポンテオ・ピラトを許し、彼をイエスの元に向かわせる。ヴォランドたちは全てをやり終えモスクワを後にする。 ―――おしまい

  • この作品が長い間陽の目を見なくて、死後だいぶ経ってから本国で大ベストセラー。当時の社会事情を記した歴史的な作品。そういう冠一切取っ払って、どうなの?どう思ってるのよ?

    上巻も含め、自分はどうにも駄目だったよ。なんでかな、わからん。しかしそれ以上に他者の大喝采が自分にはわからん。巨匠の書いた作品、キリスト処刑時のユダヤ総督ピラトゥスの苦悩だけが、自分には救いだった。なんか「僕僕先生」みたいな陽気な世界観が無理だった。

  • 巨匠の書いた作品であるため、2,000年以上前のピラトゥスとヨシュア(イエスがモチーフ)の話も頻繁に挿入されるため、しっかりと時系列、人間関係、幻想なのか現実なのかを押さえながら読み進める必要がある。

    訳者の水野氏の力なのか、はたまたオリジナルのブルガーコフの言葉選びがうますぎるのかはわからないのだが、言い回しや言葉選びが非常に美しい。

  • 久しぶりに面白い本に出会ったと思う


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