まっぷたつの子爵 (岩波文庫)

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本棚登録 : 111
レビュー : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003270967

作品紹介・あらすじ

ぼくの叔父さんテッラルバのメダルド子爵は、トルコ軍の大砲の前に、剣を抜いて立ちはだかり、左右まっぷたつに吹き飛ばされた。奇跡的に助かった子爵の右半身と左半身はそれぞれ極端な"悪"と"善"となって故郷に帰り、幸せに暮らす人びとの生活をひっくりかえす-。イタリアの国民的作家カルヴィーノによる、傑作メルヘン。

感想・レビュー・書評

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  • トルコとの戦争で砲弾を受け、体が半分になってしまった若きメダルド子爵。右半分だけになってなんとか生還した彼は、かつてとは別人のように邪悪な人間になっていた。罪なき人々を拷問・虐殺し、最後まで自分を心配してくれていた乳母ですら迫害、甥である少年(彼が語り手)の命も何度も奪おうとする。しかしある日、戦場で失われたと思っていた左側の善良な半分が帰還し・・・。

    縦に半分になってしまった人間が実際に生きていられるわけではないのであくまで基本は童話的ファンタジー。表面的なあらすじだけ追えば子供でも楽しめる内容なのだけど、いくらでも深読み、いろんな解釈をできるのがすごい。

    序盤、戦争の描写は結構残酷だし、なぜ戦場に鳥がいるのかという理由も怖い。子爵の父親はあるきっかけで鳥籠の中で暮らすようになってしまったこれまた一種の奇人。同じくカルヴィーノの「木のぼり男爵」もそうだったけど、一見キテレツファンタジー設定のようでいて、少し見方を変えればグロテスクでもある。

    隔離されていながら堕落したユートピアのようでもある瀬患者たちの暮らす場所、異端迫害から逃げてきたもののすでに祈るべき神を持たないユグノー教徒たち等の存在も象徴的。

    半分になった子爵はもとより、他の登場人物も個性的で楽しい。語り手の少年が師匠のように慕う医者だけど胡散臭い研究ばかりしてるトレロニー博士、まるで大阪のオカンのように愛情深くも小言の多い乳母セバスティアーナ、そして半分の子爵の両方に恋される少女パメーラと、彼女がいつも連れている山羊とあひるも可愛い。

    善良なほうの半分は、そのような身となったことで、不完全であることのつらさを知り、すべての欠如した存在に対する連帯感をおぼえるようになったとパメーラに語る。プラトンの饗宴では、かつて人間には四本の手と四本の足と二つの顔があり完全な球体だったが、神の怒りを買いまっぷたつにされた、だから人間はその引き裂かれた半分を探し求めているのだという挿話が出てきますが、半分の子爵の言い分と通ずるものがあるかも。

  • 「むかしむかし」ではなく、「むかし戦争があった」ではじまる、善と悪との境界が綱渡りのように揺れ動く寓話。

    カルヴィーノがこの物語を執筆したのは、ヨーロッパが鉄のカーテンによって分断されていた時代であり、ヨーロッパの西欧と東欧とがこの小説の善と悪の2人の子爵のように振舞っていた。欧州の分裂の原因は、紛争当事者の相互利益に関する冷徹な評価以上に誰に責任があり、誰が問題を提起し始め、誰が誰を脅迫し、誰が誰によって罰せられるべきかにおいて、深い心理的レベルでの理由付けにあった。

    《こうしてテッラルバの毎日は過ぎ、ぼくたちの感情はしだいに色褪せて、鈍くなっていった。そして非人間的な悪徳と、同じくらいに非人間的な美徳とのあいだで、自分たちが引き裂かれてしまったことを、ぼくは思い知っていった》

    この頃の分断されたヨーロッパとは、「まっぷたつの子爵」のようであったともいえる。

    もちろん、善と悪、自己と他者、そして、心と体の二分法を探求する物語としても楽しめる。まず、本作の類似点として、スティーヴンソンの小説「ジキル博士とハイド氏」が思い浮かぶ。しかし、「まっぷたつの子爵」では、純粋な善でさえ真の全体性を欠くことを示唆している。善が孤独なビジネスであるならば、カルヴィーノは必要に応じて悪を証明し、悪は恐怖を生み出し、恐怖は違いを生み出す。悪なくして善はあり得ず、逆もまた然り、真のしあわせを得るためには、正反対の力のバランスを見極めなければならない。人間であることの不完全さ、その完全な鈍さを知るための寓話。

  • 一言でいうならば大人のための童話,かな.
    童話と言ってもほのぼのとしたものではない.冒頭の子爵が戦場に向かう描写は,悲惨な戦争が描かれ,話がどちらへいくのか分からなかったが,大砲で吹っ飛ばされて半分になった子爵が帰還し,残虐な行為を続ける中,羊飼いの娘を見初めたあたりから,話は思わぬ方へ進み出す.
    色々な解釈ができそうだ.特にラスト付近,子爵が「敵」と戦う場面は象徴的.

  • メルヘンたるメルヘン!笑えるほどブラック。まさに一息で読めてしまう。意味深な言葉に逐一引っかからずにいられない。確実に記憶に残る一冊。

  • 善と悪の部分がまっぷたつに。面白いです。イタリア文学久々にはまり中。

  • 冒頭の戦場の描写が陰鬱で表紙の『傑作メルヘン』の言葉を疑ったのですが子爵の帰還後は確かにメルヘンでした。
    右半身に悪が凝り固まり、左半身には善が。善も度を超すと疎ましがられる様子は皮肉だけれど事実だし、悪意を持った子爵の半身の言葉も色々と深い。
    様々な解釈ができそうな大人のメルヘンでした。

  • これは面白い!単なる「メルヘン」とはまとめられない面白さがある。
    「完全なものはなんでも半分になるのだ」

    「美も、知恵も、正義も、みな断片でしか存在しない」

  • 1971年、1997年に晶文社より刊行された単行本を文庫化。
    『メルヘン』ではあるのだが、なかなか『黒い』。その『黒さ』がカルヴィーノの魅力のひとつでもある。
    一見すると子供でも楽しめそうではあるが、大人が読むとけっこう刺さるんじゃないかなぁ。

  • 単行本で既読。

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