山猫 (岩波文庫 赤 716-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (423ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003271612

作品紹介・あらすじ

一八六〇年春、ガリバルディ上陸に動揺するシチリア。祖国統一戦争のさなか改革派の甥と新興階級の娘の結婚に滅びを予感する貴族。ストレーガ賞に輝く長篇、ヴィスコンティ映画の原作を、初めてイタリア語原典から翻訳。

感想・レビュー・書評

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  • あまりに好みの作品のため読み終わるのがもったいなくて、途中まで進んだ後しばらくとっておいた。
    イタリア統一戦争を経て、それまでの社会や価値観が変革していく様を、衰退する貴族自身の視点から描いた作品。とは言ってもじっとりと暗い作品ではない。淡い翳りは漂っているものの、全体的にはむしろ乾いた印象。多分それは主人公の人物造形によるところが大きい。
    主人公であるドン・ファブリーツォは滅びゆく貴族階級の一員。王とも直接口を利き、変革後に誕生した新政府からも、是非議員に、と求められるほどの高い身分。時流を見る目も確かで、自分達とその同胞が既に過去の遺物となりつつあることをしっかり自覚しており、うろたえることなく、泰然自若とそのことを受け止めている。
    しかし社会が変わったことを理解し、認めてはいても、彼自身は変わることを選ばない。新たな時代はその担い手に預け、自身は沈みゆくかつての太陽とともに、凋落することを選ぶ。
    彼の振る舞いを見ていて、「貴族階級」の持つある種の思想の形を見たような気がした。議員にと迎えに来たシュヴァリエとの会話に、ファブリーツォの美学が表れている。また、ピオーネ神父が作中で農夫相手に語る言葉にも、象徴されている。
    見方によっては傲慢ともとれるファブリーツォの振る舞いだが、背筋の伸びたその潔い姿はとても魅力的に映った。
    また、コンチェッタとアンジェリカの対比はそのまま貴族階級と新興階級の対比になっており、見ていてとても切なかった。
    美貌だが何処か冷たく生真面目な印象を与える、古風な令嬢コンチェッタ。
    明るく華やかで、人目を惹きつける魅力を持った、村長の娘アンジェリカ。
    これからの時代を背負う重要人物がどちらを選ぶかははっきりしている。
    結局、コンチェッタはああいう生き方しかできなかったのだろう。もっと器用に生きられたらよかったのに、と哀しく思える一方で、誇りを貫く姿はやはり美しい。
    とにかく読んでる間中、優雅な雰囲気にゆったり酔えて心地よかった。著者自身が貴族階級でしかもかなり高い身分の人だったらしく、発表時はその点もあって話題になったのだとか。

    翻訳物は訳文が合わないと、どんなに素晴らしい作品も心に残らない。この本を気に入ったのは訳が好みだったというのも大きいな。

  • 祖母に薦められて読んだ一冊。
    祖母はかなりお気に入りのようですが、これは難しかった^^;
    途中で諦めそうになりながらも、何か惹かれるものがあり止めるに止められず・・・何とか読了しました。
    再読したらより理解が深まりそうな気もしますが、まだもう1回読む気にはなれません。

  • イタリアが統一された時代に、その勢いを失っていった貴族の話。一つ一つの描写がとても美しくて、その文章自体が貴族的。作品全体のに漂うけだるい退廃感が、その時代の貴族社会の有り様を想像させる。読み応えのあるどっしりとした小説。

  •  

  • 河出文庫のほうは大昔に読んだが、イタリア語からの直接の翻訳というこちらは出てすぐに買ったきり積読になっていたのを、ようやく読了。巻末に丁寧な地図や歴史背景(イタリア統一運動とシチリアの歴史)の解説もあってとても親切。作者は晩年になって初めて執筆をはじめたというが、この複雑な構成はすごい。

  • 澁澤龍彦による十撰「世界の文学」(別冊幻想文学 澁澤龍彦 ドラコニア・ガイドマップ)所収(?)より。

  • ひとつの時代が終わるとき、それを見届ける人には、もっとも大きな勇気か、無神経な感情を要求されるのかもしれない。
    シチリアという魅力的な場所の地層に埋もれた人々のうめき声が聞こえてきそうだ。
    ヴィスコンティの映画も忘れずに見ておきたいですね♪
    タンクレーディーはロッシーニのオペラだったっけ!?

  • 映画を先に見たから、わかりやすかった。時代と共に消えゆく一族。

  • 旅をする前は赴く地にまつわる本や映画を楽しむことを習慣としているが、シチリアといえば、ゴッドファーザーの次に浮かぶのはこの作品だろう。以前に映画も観たことがあるが、何となく印象はあまり残っておらず、新鮮な気持ちで読んだ。
    お決まりの、ある大貴族の斜陽の物語だが、老当主に大局的な悲愴感はほとんどなく、半ば自ら進んで一族を「過去」へと葬る様が印象的だった。自身を歴史の大きな流れの一部とあまりに理解してしまっているが故の諦念と一種の怠慢は、作者自身が持っていたものだろうか。生き生きとした次世代の代表である甥夫婦も、不幸な結婚生活の示唆があちこちに散りばめられている。晩年のコンチェッタには、どうせ不実な男だから今になって後悔することは何もないと声をかけてあげたい。

  • 1860年から本格的に始まるイタリア統一に向けた国内の動揺を背景に、山猫が家紋の貴族サリーナ公爵が没落していく過程を描く。
    特に革命側に付いた甥の存在が、公爵に新しい時代の到来を痛切に思い知らせた。
    しかも甥は公爵の娘でなく、統一の上昇気流に乗る新興階級であり素封家ともなった一族の娘に惹かれ、彼女と結ばれる。
    貴族という権威が失墜するも、公爵はそれを時流の本筋と見做し、新しい人々へ道を譲る。
    彼の実のある気高さと颯爽としたあり方が、哀しくも清々しく映った。
    死がある限り希望がある、公爵のこの信念と、天体観測で見る星の永遠性が、彼の誇りの支えとなったように思われる。
    それらを持たず、虚栄にしがみついた彼の末裔の行く末は、無残であり悲惨だった。

    本作は、ブッツァーティーの『六十物語』、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』と並び、イタリア文学界最高の賞であるストレーガ賞を受賞しており、イタリア人が一番好きな本として挙げることがあるというので興味を持った。
    読み終えて胸に残るのは、諸行無常、盛者必衰、あと滅びの美学といった感覚。
    桜好きな日本人に馴染みやすいように思う。

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