バウドリーノ (下) (岩波文庫)

Kindle版

β運用中です。
もし違うアイテムのリンクの場合はヘルプセンターへお問い合わせください

  • 岩波書店 (2017年4月17日発売)
4.19
  • (11)
  • (22)
  • (2)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 241
感想 : 14
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Amazon.co.jp ・本 (464ページ) / ISBN・EAN: 9784003271834

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 薔薇の名前で名高い作者が書いた中世騎士の冒険の物語。農家の子どもバウドリーノが皇帝フリードリヒの養子となり、都の学校で青春を謳歌し、養父の遠征に付き従い、やがて聖杯返還の旅に出て、数々の魔物や種族に会いながら冒険を続け、囚われの身となった後、数少なくなった仲間とようやく帰還したと思ったら、もういっぺん行ってきます!と不帰の旅に出てしまう話です。
    読み終わってからなかなか感想が書けなかったのは、私がこの物語を消化しきれなかったからでしょう。そのくらい内容が盛りだくさんでした。
    歴史、教養、恋愛、冒険、博物誌、復讐譚…
    私は物語をプロットなどで読むと言うよりは、主人公や著者に自分を重ねて書いてあることを追体験する感じに近いので(今回これを読んで、そのことに気付いた気がする)、それでしばらくぼんやりしてしまったのだと思います。
    そのくらい壮大な話でした。面白かったけど、もう一度読むには体力作り(読書の)からかな(笑)

  • 上巻は歴史的な話が多かったのに比べて、下巻は奇想天外は旅の物語。
    司祭ヨハネの王国への道行きは、不思議なものとの出会いに溢れていて楽しい。
    伝説の生き物の数々に、当時の人々は未知のものに対してこんなにも想像力が逞しかったのかと感嘆する。世界中の様々なものが明らかになっている今では、架空の生き物を創り出そうとしても、あそこまで振り切れたものを思いつくだろうか。

    印象に残っているのは、ヒュパティアとの神についての問答だ。
    ぼんやり読んでいたら眠くなってきちゃうやつだ、と真剣に理解しようとしてみたところで、分からなくなってしまう。
    私はこういうことを突き詰めるのは向いてないんだな。
    ただ、神について自分なりの結論に辿り着いた人の揺るぎなさは、ちょっと逃げ道を塞がれたような気分になるなと思った。

    終盤にはとある死の真相に迫るミステリな展開もあって、面白かった。

  • やっと読了。といっても博学すぎるネタをぶちこんでくるエーコにしては非常に読みやすい。中世歴史冒険ものでもあり、死をめぐるミステリーでもある。前半で青年バウドリーノのパリでの生活や叶わぬ恋がいきいきと描かれているのも楽しいし、下巻になるとヒエロムニス・ボスの絵画世界のような謎の人種、動物がたくさん出てくる。ほら吹きのバウドリーノによる壮大なほら話。私が持っている文庫本の表紙が、赤色で下巻に貴婦人と一角獣がデザインされているものなのは気に入っている。

  • 下巻の序盤でバウドリーノの二人の父(実父と養父)が亡くなる。実父の死に際にバウドリーノは聖杯グラダーレを見出す(正確には偽造ネタを思いつく)のだけど、死ぬ間際のお父さん、結構良いこと言ってて、なるほどと思った。

    一方で養父フリードリヒの死は、歴史上の人物ゆえ史実としては溺死なのだけれど、おや、こんなところでこんな死に方?と思ったら、これまたうまいこと偽装されてしまった。フリードリヒの死因については、現代人の読者ならば実はすぐにわかるのだけれど、物語の中の彼らにその知識はなく、仲間たちの誰かが殺人犯では?という疑惑をこの後ずっと引きずることとなる。

    歴史上の人物フリードリヒが他界したことで一気に物語が史実を離れ幻想性を帯び不思議な冒険ファンタジーの世界に突入。ここからが個人的には俄然面白かった!

    司祭ヨハネの王国を目指して旅するバウドリーノと仲間たちを待ち受ける、水ではなく土砂が流れる川や、プリニウスの博物誌に出てくるような怪物たち(バジリスク、キマイラ、マンティコア、そしてなぜか猫が最恐というのはご愛嬌・笑)。そして辿り着いた王国の属州ブンダペッツィムには、一本足のスキアポデス、無頭人のプレミエス、空を飛べるほど大きな耳のパノッティ族、巨人族、ピグミー族、ポンチ族(名前の通り下ネタ的な容貌)等々奇怪な種族が共存しており、彼らを束ねる宦官たちがいる。

    さらにバウドリーノの最後の恋の相手となる美しい女たちだけの一族、一角獣を連れた麗しのヒュパティア。キリスト教徒に虐殺された女性哲学者ヒュパティアの弟子たちと、ある生き物の混血である彼女の正体にはビックリしたけれど、美しいだけでなく聡明な彼女とバウドリーノとの神についての問答はとても興味深い。

    しかし白フン族との戦いに敗れてバウドリーノの十二人の仲間たちは半分になり、ついには犬頭人に捕らわれて奴隷として働かされることに。巨大なロック鳥に乗ってなんとか逃げ出すも、彼らを待ち受けていた破綻。裏切り者ゾシタスの再登場、仲間割れ、狂気、そしてむしかえされるフリードリヒの死の真相、思いがけない結末。

    基本的には歴史冒険小説なのだと思うけれど、フリードリヒの死にまつわるあれこれだけがちょっとしたミステリー仕立てになっており、どんでん返しが待ち受けている。十代でフリードリヒの養子になったバウドリーノも終盤ではもはや還暦。ラストはこうなるしかないだろうなという感じだけれど、切なく寂しい。解説で司祭ヨハネの手紙は実在(もちろん誰かの捏造なのだろうけど)することを知ってビックリ。マルコ・ポーロの「東方見聞録」もいつか読んでみたい。

  • うう〜面白かった〜〜!!!エーコと聞いて難しい?と身構えていたけど、読みだしたら面白くて、あっという間に読んでしまった!感覚としては高丘親王航海記…!

    「人生とは、逃げゆく夢の影でないとしたら何?」(p.155)

    「神は、存在しない空間であり、そのなかでは、あなたも私も同じなのです、ちょうど今日、この止まっている時間のなかにいるように」(p.274)

    彼はそのとき初めて理解した。本当に愛し合う者どうしが最初に愛の言葉を交わすとき、顔が青ざめて体は震え、口をつむぐものだとなぜ言われてきたかが。なぜなら、愛は、自然と魂の力すべてを自らに引きつけるからである。こうして、本当に愛し合う者どうしがささやき合うとき、愛は、身体の全機能を、それが肉体的なものであれ精神的なものであれ、掻き乱し、ほぼ停止させる。それゆえ、舌は話すことを、目は見ることを、耳は聴くことをそれぞれ拒み、体の各部位がおのれの義務を回避するのである…(p.294)

    そして最後に
    「あなたがこの世で唯一の歴史家だと思わないほうがよい。遅かれ早かれ、バウドリーノ以上に嘘つきの誰かが、それを語ることになるでしょうから」
    という終わり方がとても素敵で大好きな一冊になった。

  • いつ死んでもおかしくない年というフレーズにハッとさせられた。
    舞台は東方世界へ。奇想天外な種族たちはプリニウスの記述そのまんまだったのだなあ、と。新プラトン主義について曖昧模糊としたイメージだけしかなかったが霧が晴れた感じでした。最後の方で話のなかの「現在」にストーリーが追いつくところとか、ビザンツの歴史家が記述した、というような造りになっているところが憎らしい。老いてまた旅立つのもいいな。冒頭書いたフレーズが上巻下巻のどこにあったかは忘れてしまったが、読んだ時は「この時代だともう死ぬ年齢だよな」などと読んだときは思っていたがその少し後に同年代の友人が亡くなって感想が変わりました。現在でもいつ死んでもおかしくない年齢。そう言う意味でもいろいろ教えられた本。
    いやあ、読書ってほんとにいいものですね。

  • 薔薇の名前のイメージで読んだら騙されます。どちらかと言えばドンキホーテを想像した方が良いかも。

  • 史実・現実に近い前半とは違い、ファンタジー色の強い内容。ヨハネの王国を探す冒険ものになっている。
    フリードリヒの溺死の裏にこんな事件があったとは(笑)

  • 2017-5-2

  • 嘘が本当になってしまう嘘つきが、嘘をつきすぎてわからなくなった真実を探す物語。

    お固い西洋史にはじまったかと思えば、夢想の果ての世界へまで足を伸ばすなんとも様相の変化の激しい作品でもある。

    世界観を活かした真相の提示は見事。
    しかし大きな真実の前に小さな真実を葬り去られる。
    挙句に皮肉めかして作者が一番の嘘つきだと提示してくる手腕には脱帽である。

    知識不足で小ネタが拾いきれないのが悲しい。また色々勉強して読みたい一冊。

  • 下巻では、バウドリーノたちは東方へと旅立ちます。
    密室殺人のような事件の後、バウドリーノは12人の仲間と共に東方を目指します。その道中では、ファンタジーに登場するような住人や景色が次々と現れることで、物語の雰囲気は大きく変わります。そして再びバウドリーノは、コンスタンティノープルへと帰還します。
    バウドリーノの物語は、壮大なほら話のように感じられましたが、現実と幻が交錯するような不思議な世界観が魅力的でした。

  • 誰もいない森の中で倒れた木は本当に倒れたのか
    この議論は逆に言えば、森の中で木が倒れた音を聞いたと主張する者がいれば、真実となるということになる
    この本は12-13世紀を舞台にした「法螺話」の話である
    イタリア出身の主人公バウドリーノは我が半生は語られることによって真実となる、と第四回十字軍のさなか助けたビザンチン人に語り出す。
    バウドリーノはフリードリヒの養子となり司祭ヨハネ(プレスタージョン)の王国を目指して旅をするが主人公の話そのものが虚実が曖昧である。更に旅の途中で聖遺物の偽造で金儲けを図るが、偽の聖遺物を売って儲けた金で本物の聖遺物を購入しようとする欺瞞。更に旅の先では様々な神学論争を戦わせ、真実が曖昧となる。
    こうなると何が真実か、真実の条件は何かが不明となる
    本書は真実かそうでないかの判断基準とは何かも問いかけてくると思う

  • ※上下巻纏めて。
    文庫化で再読。エーコ作品の中でも『薔薇の名前』に次いで取っつきやすい長編。特に下巻に入ってからの冒険にはわくわくする。それぞれに癖のある登場人物も魅力的で、切ないラストも余韻が残る。

    以降は本書とは関係無い話。
    岩波書店から刊行予定だった『女王ロアーナ、神秘の炎』はどうなったのでしょうか……。

全13件中 1 - 13件を表示

著者プロフィール

1932年イタリア・アレッサンドリアに生れる。小説家・記号論者。
トリノ大学で中世美学を専攻、1956年に本書の基となる『聖トマスにおける美学問題』を刊行。1962年に発表した前衛芸術論『開かれた作品』で一躍欧米の注目を集める。1980年、中世の修道院を舞台にした小説第一作『薔薇の名前』により世界的大ベストセラー作家となる。以降も多数の小説や評論を発表。2016年2月没。

「2022年 『中世の美学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ウンベルト・エーコの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×