- Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003277034
感想・レビュー・書評
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皇帝ネロ治世下の古代ローマにおけるキリスト教徒たちの迫害を描く。遠藤周作の『沈黙』のように心理を深く掘り下げていくのではなく、物語の展開で一気に読ませる。通俗小説といえば通俗小説だが、読み応えがある。
キリスト教徒の少女に恋し、この異端の教えにいら立ち混乱するローマ貴族の青年は、まったく異質な文化にはじめて触れたローマ人はまさにこんな思いをしたのだろうなあ、と思わせる。しかし主人公の恋人同士よりもずっと魅力的なのは脇役たちだ。狂言回しを演じるギリシア人哲学者のキロン、若い二人を援助しながらも自らの美意識に徹底して殉じる「趣味の審判者」ペトロニウス、狂信的なキリスト教司祭クリスプスといった一癖も二癖もある人物たちが、ともすれば「地上の腐敗した権力 VS 天上の真理を信じる人々」という平面的な図式におちいりがちな物語に、生き生きとした陰影とダイナミクスをあたえている。
それにしても、19世紀末にこの古代ローマの物語を書いたポーランド人作家の目には、何が映っていたのだろうか。火に焼かれる都市、犠牲の血を求める民衆の姿は、まるで来る20世紀に起こる悲劇を予見していたかのようにさえ思える。 -
ネロが皇帝の座について暴虐の限りを尽くしていた古代ローマを舞台にした小説。恋愛とキリスト教徒への迫害を軸に、最後まであっという間に読ませる。素晴らしいエンターテイメントであると同時に、深い信仰の物語である。訳も秀逸で、翻訳された小説であることを忘れるほど。ラーゲルクヴィストというノーベル賞作家の作品が、この作品以外邦訳されていないことが残念。
(2015.4) -
「泥があるから、花は咲く」(青山俊董 著)で紹介されていたものです。上巻の途中までは冗長感があるものの、中盤からは情景が目に浮かぶような展開。主人公が、恋人を理解しようとすることで、徐々にキリスト教に傾倒する心理描写も絶妙。使徒ペテロの語り口は、本当に語ったであろう内容で、歴史考証の裏付けもあって、まるで古代ローマにいるようです。この本で著者がノーベル文学賞を受賞したとも言われ、その筆力は圧倒的。これを読むのが楽しみで早く帰るという「働き方改革」にもってこいの一冊です。
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闇が深ければ深いほど、光は輝いて見える。しかし、これほどまでの闇がないといけないのだろうか。
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ネロもキチガイだけどローマ市民もキチガイだ。
殺し合いだの火あぶりだのを喜んで見るなんてどうかしてる。 -
ネロ治世下のローマを描いた上中下巻の3部作。下巻では物語が大きく動き、クライマックスを迎えます。皇帝ネロによるキリスト教徒の弾圧が断行される中、お姫様リギアと青年将校ウィキニウスの運命は?
当初古典(19世紀だけど)的なモノとして読み始めたのですが、どうにも読みやすく、下巻はストーリーのテンポもあってぐんぐん読み進められました。読んでいて理解が追いつかずに止まるようなことはなかったのは、訳が優れているせいもあるのでしょうか。結局古典を読んでいるような重さは感じなかったのですが、「クオ・ワディス・ドミネ」の名台詞を原典で読み、ペトロニウスやキロンの印象深いシーンを堪能できたので個人的には大満足です。
(話の筋としては、ピーチ姫的なすぐ捕まっちゃってなかなか会えないお姫様リギアを最終的に救うくだりは悪くは無いけどそれかぁ、というのがちょっと残念ではあります)
著者は弾圧され、それでも暴力に訴えないキリスト教徒の姿をビスマルクに弾圧されていたポーランドの国民と重ね合わせたんでしょうか。耐え忍び、愛を説く尊さは物語だけでも素晴らしいですが、この時代背景を鑑みると余計に凄いものに感じます。
なお、解説はハイパーネタバレなので読まないが吉です。
総じて面白かった。キャラ立ち(ペトロニウスかっこいい!)と臨場感溢れるローマの情景描写は出色です。 -
「この太鼓持ち野郎!」と思っていたが、キリスト教に理解を示しながらも
ぶれることなく最後まで自身の人生哲学/美学を貫いたペトロニウス...かっこよすぎ。 -
予想よりも平凡。
上中下を通しての一番の感想は、「長い」。
これに尽きる。
この半分ぐらいにできそうな気がする。
一般的に評価されている理由は、スケールの大きさとキャストの豪華さにあるようだが・・・
・スケールの大きさ→例えば、浅田次郎の「蒼穹の昴」も同じぐらい壮大だが、話としてはずっと面白い。
・キャストが豪華→キャストが豪華だからといって、面白くなるわけではないし、作品の質とは無関係。
あとは、著者がノーベル文学賞作家ということで、ハロー効果もあるかも知れない。
ノーベル文学賞をもらっている作家が書いたとしても、つまらないものはつまらない。
3巻合わせて全1100ページ以上だが、長さの割には、キリスト教もローマの大火も恋愛譚もいずれも浅い。
遠藤周作は200ページ強でキリスト教を深堀りしているというのに。
長くても、修辞法のおもしろみや予期せぬ展開があれば楽しめるが、両方共ほとんどない。
競技場の400mトラックだけでフルマラソンをやっているようなつまらなさ。
ひょっとすると、古代ローマに関する知識が抱負な人にとっては、いろんな知識がリンクして楽しめる可能性がある。
逆に言えば、そうでない人にとってはあまりおすすめできるものではないし、日本の作家の方が面白いと思う。
とりあえず、上巻だけ読んでみて、その後に中下を読みたい人は読んでみるといいのではないか。