クオ・ワディス 下 (岩波文庫 赤 770-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003277034

感想・レビュー・書評

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  • とうとう読み終わってしまった。
    贅沢の限りを尽くした宮廷での宴会、放埒な快楽、残虐極まりないキリスト教徒に対する大量虐殺……ローマ皇帝ネロの統治後半、帝国はまるで熱を帯びた化膿した傷口のようだった。絆創膏でふさいでもふさいでもどろどろ流れる膿。
    下巻は、今まででいちばん物語が大きく動いたと思う。まさにクライマックス。
    まず出だしから「え、どういうこと?」とキロンの行動に目がテン。まさかまさかの展開に、やっぱりこの男はこうじゃなくてはならぬのだろうなと納得してみたり。ただ、キロンの最期にはやっぱりキリスト教と出会ったことで、キロン自身にも気づかなかった心の変化が胸のうちに静かに息を潜めていたのだろうなと思った。
    ウィニキウスとリギアは再び出会えとうとう愛が成就した。このふたりの愛が成就したのには、周囲の人々の力添えがあったからこそ。キリストの祝福のおかげだとウィニキウスはペテロニウスのへの手紙で伝えるが、ペテロニウスは彼に彼女を返してくれたのは、ある程度はウルススとローマの人民であるよと伝える。ただ、キリストの使徒との出会いから、ペテロニウスにもキリストへの心境の変化は確実に生まれているようだ。
    ペテロニウスの最期も想像の上をいくものであった。だが、彼らしいといえば彼らしく、まさに最後まで«趣味の審判者»であった。ここに来てわたしは、ペテロニウスがいちばん好きだったと気づく。
    ネロの暴虐に対するキリスト教徒たちの苦難の姿を表した物語。使徒ペテロ、パウロの深い信仰と彼らを敬うキリスト教徒たち。それに対する暴君ネロと絶対権力に群がる臣下たちの対比。ウィニキウス側とネロ側の両方からの視点を持ち合わせるペテロニウス。ただその場の流れに乗り残虐にも慈悲深げにもなる民衆たち。様々な方向からの視点で物語を見つめることが出来た。ドラマチックで壮大な物語であった。

  • 皇帝ネロ治世下の古代ローマにおけるキリスト教徒たちの迫害を描く。遠藤周作の『沈黙』のように心理を深く掘り下げていくのではなく、物語の展開で一気に読ませる。通俗小説といえば通俗小説だが、読み応えがある。
    キリスト教徒の少女に恋し、この異端の教えにいら立ち混乱するローマ貴族の青年は、まったく異質な文化にはじめて触れたローマ人はまさにこんな思いをしたのだろうなあ、と思わせる。しかし主人公の恋人同士よりもずっと魅力的なのは脇役たちだ。狂言回しを演じるギリシア人哲学者のキロン、若い二人を援助しながらも自らの美意識に徹底して殉じる「趣味の審判者」ペトロニウス、狂信的なキリスト教司祭クリスプスといった一癖も二癖もある人物たちが、ともすれば「地上の腐敗した権力 VS 天上の真理を信じる人々」という平面的な図式におちいりがちな物語に、生き生きとした陰影とダイナミクスをあたえている。
    それにしても、19世紀末にこの古代ローマの物語を書いたポーランド人作家の目には、何が映っていたのだろうか。火に焼かれる都市、犠牲の血を求める民衆の姿は、まるで来る20世紀に起こる悲劇を予見していたかのようにさえ思える。

  • ネロが皇帝の座について暴虐の限りを尽くしていた古代ローマを舞台にした小説。恋愛とキリスト教徒への迫害を軸に、最後まであっという間に読ませる。素晴らしいエンターテイメントであると同時に、深い信仰の物語である。訳も秀逸で、翻訳された小説であることを忘れるほど。ラーゲルクヴィストというノーベル賞作家の作品が、この作品以外邦訳されていないことが残念。
    (2015.4)

  • 「泥があるから、花は咲く」(青山俊董 著)で紹介されていたものです。上巻の途中までは冗長感があるものの、中盤からは情景が目に浮かぶような展開。主人公が、恋人を理解しようとすることで、徐々にキリスト教に傾倒する心理描写も絶妙。使徒ペテロの語り口は、本当に語ったであろう内容で、歴史考証の裏付けもあって、まるで古代ローマにいるようです。この本で著者がノーベル文学賞を受賞したとも言われ、その筆力は圧倒的。これを読むのが楽しみで早く帰るという「働き方改革」にもってこいの一冊です。

  • 闇が深ければ深いほど、光は輝いて見える。しかし、これほどまでの闇がないといけないのだろうか。

  • ネロもキチガイだけどローマ市民もキチガイだ。
    殺し合いだの火あぶりだのを喜んで見るなんてどうかしてる。

  • ネロ治世下のローマを描いた上中下巻の3部作。下巻では物語が大きく動き、クライマックスを迎えます。皇帝ネロによるキリスト教徒の弾圧が断行される中、お姫様リギアと青年将校ウィキニウスの運命は?

    当初古典(19世紀だけど)的なモノとして読み始めたのですが、どうにも読みやすく、下巻はストーリーのテンポもあってぐんぐん読み進められました。読んでいて理解が追いつかずに止まるようなことはなかったのは、訳が優れているせいもあるのでしょうか。結局古典を読んでいるような重さは感じなかったのですが、「クオ・ワディス・ドミネ」の名台詞を原典で読み、ペトロニウスやキロンの印象深いシーンを堪能できたので個人的には大満足です。
    (話の筋としては、ピーチ姫的なすぐ捕まっちゃってなかなか会えないお姫様リギアを最終的に救うくだりは悪くは無いけどそれかぁ、というのがちょっと残念ではあります)
    著者は弾圧され、それでも暴力に訴えないキリスト教徒の姿をビスマルクに弾圧されていたポーランドの国民と重ね合わせたんでしょうか。耐え忍び、愛を説く尊さは物語だけでも素晴らしいですが、この時代背景を鑑みると余計に凄いものに感じます。
    なお、解説はハイパーネタバレなので読まないが吉です。

    総じて面白かった。キャラ立ち(ペトロニウスかっこいい!)と臨場感溢れるローマの情景描写は出色です。

  • 「この太鼓持ち野郎!」と思っていたが、キリスト教に理解を示しながらも
    ぶれることなく最後まで自身の人生哲学/美学を貫いたペトロニウス...かっこよすぎ。

  • キリスト教徒たちの追いつめられる姿が読んでいてつらい。遠藤周作の『沈黙』を思い出した。「こんなにも苦しんでいるのに、なぜ神様は助けてくれないのか?」って思ってしまうのが普通なような気がするけど…。
    キロンは登場時から独特な存在感を放っていて、なんとなく憎めないやつだなぁと思っていたけど、彼には最後に驚かされた。きっと彼の中に後ろめたさはずっとあって、責められるのが当たり前だと思っていたから、死の直前でも恨みを口にしなかったグラウコスの姿に本物の信仰を見てついに受け入れられたんだろうな。最初にグラウコスと再会したときになぜ自分が許されたのか理解できなかったキロンが、ついにそのわけがわかってまさに生まれ変わる感じ。気の毒な最期だけど心動かされた。
    リギアは病気で亡くなり、ウィニキウスも間をおかず死んでしまうような気がしていたので、この二人の結末は予想外のハッピー?エンドだった。なんだかちょっとあっけないような。ウィニキウスは祈りが聞き届けられたと言っているけど、じゃあ殺されていったほかのたくさんのキリスト教徒たちはどうなるの?ペトロニウスの言う通り、リギアを助けたのは神ではなく半ばはウルススで半ばは市民だと思うのだけど…。でも、ウルススが力を振り絞ることができたのは信仰ありきと考えれば、神のおかげだと言えなくもない…のかな。
    ペトロニウスは最後まで彼らしく生き、彼らしく死んでいった。「森羅万象ことごとくうつくしいけれども、人間だけは醜悪きわまりない奴が大部分を占めているのだから、命は惜しむにたりない。生きるすべを知ってきた者は、死ぬすべも知るべきだ」彼の美を愛でる姿勢は潔くて好きだった。

  • 予想よりも平凡。

    上中下を通しての一番の感想は、「長い」。
    これに尽きる。
    この半分ぐらいにできそうな気がする。
    一般的に評価されている理由は、スケールの大きさとキャストの豪華さにあるようだが・・・
    ・スケールの大きさ→例えば、浅田次郎の「蒼穹の昴」も同じぐらい壮大だが、話としてはずっと面白い。
    ・キャストが豪華→キャストが豪華だからといって、面白くなるわけではないし、作品の質とは無関係。
    あとは、著者がノーベル文学賞作家ということで、ハロー効果もあるかも知れない。
    ノーベル文学賞をもらっている作家が書いたとしても、つまらないものはつまらない。

    3巻合わせて全1100ページ以上だが、長さの割には、キリスト教もローマの大火も恋愛譚もいずれも浅い。
    遠藤周作は200ページ強でキリスト教を深堀りしているというのに。
    長くても、修辞法のおもしろみや予期せぬ展開があれば楽しめるが、両方共ほとんどない。
    競技場の400mトラックだけでフルマラソンをやっているようなつまらなさ。


    ひょっとすると、古代ローマに関する知識が抱負な人にとっては、いろんな知識がリンクして楽しめる可能性がある。
    逆に言えば、そうでない人にとってはあまりおすすめできるものではないし、日本の作家の方が面白いと思う。
    とりあえず、上巻だけ読んでみて、その後に中下を読みたい人は読んでみるといいのではないか。

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