- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003277911
作品紹介・あらすじ
ユダヤの伝統と信仰を墨守してつましく暮らす牛乳屋のテヴィエ。だが彼の娘たちは旧弊な考え方の父に逆らい、異教徒や革命家の青年などと結婚し、次々と親元を離れてゆく-。ユダヤ人集落のしきたりを破って伝統の枠から飛び出してゆく娘たちの姿に民族離散の主題を重ねた、イディッシュ文学の金字塔。『屋根の上のバイオリン弾き』の原作。
感想・レビュー・書評
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アイザック・B・シンガーの作品に感銘をうけ、イディッシュ文学の先駆けとなるこの作品にもまたまた感激。これをアレンジした『屋根の上のバイオリン弾き』という映画もあるので観てみたいな~。
貧しい牛乳屋テヴィエは明るく善良で働き者。そんな彼が「高名な作家ショレム・アレイヘム先生」にお手紙をしたためるところからはじまるモノローグのわくわくするメタ文学。
神への信仰心もあつく知識も豊富なテヴィエ、それを健気に披歴するのですが……肝心の聖書や律法の知識はひどくあやふやで、とんでもなく錯綜しています。彼の饒舌なおしゃべりやオチは、まるで「落語」のよう。
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テヴィエには美しく気立てのいい自慢の娘たちがいますが、彼女たちが年頃になると、ウンチク臭いと毛嫌いされてしまいます。娘たちが選んだ男は、しがない仕立屋だったり、わけのわからない革命家だったり、傲慢な異教徒だったり、得体の知れない富豪だったり……有為転変、ドタバタと離散していく家族、はたしてテヴィエはどうなるのでしょう?
落語のような笑いのなかに秘められた哀愁がせつない。そういえばアイザック・B・シンガーの作品にも「ちびの靴屋」という短編がありますが、そちらは息子バージョン。頼りにしていた息子たちが故郷を離れて次々にアメリカへ渡っていくさまは、流浪するユダヤ人の離散を暗示した印象的な作品です。
でもイディッシュ文学や民話などを眺めていると、明るく愚直で少々おまぬけな人、素頓狂で滑稽な人たちの登場がなんと多いこと、びっくりします。独特の笑いの文化が根づいているようで、波乱万丈なこの世界で生きていく悲壮感を、まるで外から眺めるようにユーモアで笑いとばし、敬虔なユダヤの信仰さえ可笑しな笑いの種にしてしまう……いやはや、この余裕と遊びには脱帽します。そんな人々の豊かな感性や生きる知恵を愉しく表現しているイディッシュ文学の魅力が、私をとらえて離さないのかも。
作者のショーレム・アレイヘム(1859~1916年)という筆名は、イディッシュで「ごきげんよう!」という意味らしく、やはり遊んでいます。韻をふんだごきげんな筆名に、にんまり(^^♪
本名はシャロム・ラビノヴィッチ、ロシア語やヘブライ語で書くときは別の筆名を使うらしい。多言語で創作する才気あふれた作家です。私なんてレビューを書くだけでふーふー言っているのに、なんてすごい人たちがいるのでしょう~。
それにしても、ロシア語やヘブライ語などが入り混じった難解なイディッシュ原作を、わかりやすく愉快な日本語で紹介してくれた訳者の西成彦氏にも心から感謝します♪ -
「屋根の上の」の原作。今回初めて原文からの日本語訳。読む前は結構斜に構え「さあ、こい!」という感じで挑みましたが、感触違いました。
自家製の乳製品を行商して生活し家族を養う主人公。この人物に出来事が降りかかりますが、真摯で真面目で陽気な人生の関わり方に心打たれました。
例えば私を含め多くの人間が組織の歯車になるうえで、中にどす黒いあんこを隠した大福のように、会社を盾にズルく狡猾に生きてしまいがちです。サービスマンは「次」のことを気にし、相手も自分もより幸せになるように努めているように思いました。 -
■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
【書籍】
https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1000933527
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「屋根の上のバイオリン弾き」の原点。イディッシュについてあまり理解が深くない私にはたまにわからないことがあるが、信仰、そして生活、なんだか無性に悲しい気分になる。このディアスポラを日本の「家」の崩壊に重ねてしまった。
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「毎日新聞」2012年10月28日付朝刊の書評で
知りました。
(2012年10月29日)
amazonで注文していたのが、届きました。
(2012年10月31日) -
屋根の上のバイオリン弾きの原作
読んだことはないのですが、映画とミュージカル見たことあります。
モノローグ面白そうですね。
ミュージカルは今のテヴィエは市村...
読んだことはないのですが、映画とミュージカル見たことあります。
モノローグ面白そうですね。
ミュージカルは今のテヴィエは市村正親さんかな。
私が見たのは、西田敏行さんと、市村さん。
なお、最初は森繁久弥さんで、体調不調時は上条恒彦さんもやってたみたい。
(上条さんは普段は長女にプロポーズする肉屋のおっさん役)
西田さんは明るく可愛くたまに哀切漂い、普段は一家の女たちにまっっったく頭が上がらないけれど、いざという時頼りになるお父さん。おそらくアドリブっぽい場面(笑った観客に向って「笑いごとじゃないよ~!」みたいな)もあって可愛かったです(笑)
市村さんは、普段他の役では明るく可愛いのに、テヴィエ役ではかなりハードで厳しい人生を生きている感じでちょっとびっくりした。
定期的に上演されているし、全国都市もまわってるはずなので、もし再演されたらチェックしてみてください~~。
なんとすごい、映画もミュージカルもすでにご覧になったので...
なんとすごい、映画もミュージカルもすでにご覧になったのですね。じつは本作の解説をながめていると、映画はだいぶアレンジされているようなので、はたしてどんなことになっているのか…ちょっと怖いもの見たさもあったりしているのですよね(笑)。
また、ミュージカルがあることにも驚きでした。西田敏行さんなんて、けっこうテヴィエ役が似合っているかもしれません。彼におこるドタバタのほとんどが他愛なくて、くすくす笑えるわけですが(幾ばくかのドタバタはかなり深刻ですが)、でも本人からすれば「笑いごとじゃないよ~!」と悲愴感が漂っていて、それがよけい可笑しい。原作はモノローグでしゃべりまくり、ほんと、落語のようですので、お時間あれば眺めてみてくださいね。
ミュージカル再演を楽しみにチェックしてみま~す。いろいろ教えていただき、ありがとうございます~(^^♪