緑の家(上) (岩波文庫)

制作 : 木村 榮一 
  • 岩波書店
3.81
  • (23)
  • (41)
  • (33)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 517
レビュー : 51
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003279618

作品紹介・あらすじ

町外れの砂原に建つ"緑の家"、中世を思わせる生活が営まれている密林の中の修道院、石器時代そのままの世界が残るインディオの集落…。豊饒な想像力と現実描写で、小説の面白さ、醍醐味を十二分に味わわせてくれる、現代ラテンアメリカ文学の傑作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 「文学は熱い火だ」スペイン語圏の小説に送られる賞を取った作者の言葉。政治活動も行いペルー大統領に立候補したこともある。永遠のノーベル賞候補者。
    ⇒追記:2010年ついにノーベル文学賞受賞!これを機会にラテンアメリカ文学の復刊お願いします!

    ★★★
    砂の降る町、ピウラに流れた男が建てた「緑の家」という娼館の過去と現在。アマゾンの密林と都会。インディオの娘を一族から連れ出しキリスト教の教育を強要する修道院。インディオを手下に詐欺や略奪を繰り返す日系人とその妻と仲間たちの物語。搾取する白人に抵抗しようとするインディオの末路。故郷に帰ってきた軍曹と、昔の仲間と、緑の館の娼婦となっていた軍曹の妻。
    川の支流のように別の話が語られ、最後には壮大な一つの流れとなる。
    ★★★

    南米文学ではまったく違ったものが同居し物語を為す。都会の町から少し離れれば原始の密林。生者と死者が語り合い、雑多な人種が混在する。搾取する者、される者、それらの中間にいる者。都会で文明は発達しても、密林では太古からの生き方もある。南米小説の特徴としていくつもの時代や場所が交錯し、時系列が錯綜するというものがあるが、その中でも特に錯綜している作品。

    同じ段落で過去と現在の会話が混在し、いくつかのテーマが細切れで語られるため別の人物と思って読んでいたら同じ人物の過去と現在だったり、また同じ人物と思っていたら同じ名前を付けれらた別人の話だったり。しかし文章構成は幻術的であるけれど内容はきわめてリアリズム。
    ストーリーの違いは文体の違いで表現される。一番過去と現在が錯綜しているのが略奪者の日系人の物語。病で療養序所に向かう現在に、それまでの過去がない交ぜに語られる。
    話の中心であるピウラでの語り口も年代によって変わる。過去のピウラは三人称であまり心情は深く触れないことにより伝説的印象を深める。現在のピウラは意気のいい会話調で語られ、終盤は誰かが登場人物に語りかける二人称形。この語りかけが純粋に美しい。「これでいいのかどうか、最後にもう一度考えてみるのだ。人生とはこういうものなのかどうか、もし彼女がいなかったら、あるいは彼女とお前の二人きりだったらどうなっていたか、すべては夢だったのかどうか、現実に起こるこというのはいつも夢とは少しばかり違うのかどうか、よく考えてみるがいい。そしてこれが本当に最後だが、お前はもう何もかも諦めてしまったのかどうか、そしてもしそうなら、それは、彼女が死んでしまったからなのか、それとも自分ももう年なので、次に死ぬのは自分だと悟っているからなのかどうか、そこのところをよく考えてみるのだ」

    場所も時代も表現方法もまったく違ういくつものストーリーが、ラストに向け別々のものが一緒になる感覚は読書の楽しみを味わえる。

  • 面白かったー!時系列はバラバラ、人物も全く違うエピソードがいくつも、次はこれ、その次はあれ、しばらくしたらまたこれ、という具合に綴られて、おまけに何の前触れもなく、まるで記憶の流れそのもののように語り手がコロッと変わるし、変わったと思ったらすぐにまた元に戻ったりで、これはメモ取りながらでないとわけわからなくなるかと思ったら、いくつか繋がっているような部分も把握できたので、そのうちわかるかも、と気楽にでもすぐに読まなきゃ絶対に忘れるから、下巻にドドドッとなだれ込みます。リョサすごい!

    短編「小犬たち」中編「継母礼賛」は正直あまりピンとこなかったけど、リョサは長篇の人なのかしら。

  • いやー、ボルヘス読んだ後だと読みやすい。同じラテン文学なのに、同じ岩波なのに。
    もちろん、場面がコロコロ変わる、会話だけが続き、しかも改行もないまま、急に場面が転換する、などクセはある。ただ非常に映画っぽくて面白い。
    さて、上巻で一番印象に残ったシーン。
    元インディオだった修道女が、修道院に連れられてきたインディオの姉妹を逃がすとき、妹が彼女の髪のノミを探す。ノミをとって食べるというのがお礼のつもりなのだ。もちろん、キリスト教化され文明人となった彼女の頭にはノミはいない。少女はノミをとるふりをする。修道女は「私の髪にノミがいればいいのに」と切に思う。
    うーん、なんとも切ないシーンだ。

  • 悪い奴らが拳で解決のド南米ドラマ。どう結ばれるのか何が主題の話なのか上巻が終わった時点ではさっぱりわからないのだけれど、とにかく先が気になる。再読時にはさぞや気持ちいいだろうなと思いつつ下巻に突入。

  • 技巧のための技巧に堕ちない。
    内容を表すための技巧。

    現在の描写に過去の断片が忍び込む文体や、
    断章による時系列のシャッフルなどは、
    決して今では目新しくないが、
    初めての読者には「眩い」体験になっただろう。

    個人的には「場所の不思議」に思うところあり。
    白人たちの近代的都会、中世の闇を思い出させる修道院、インディオの未開の村。
    場所の孕む「時間や歴史それ自体」が、隣り合って混在しているのだ。
    登場人物たちは行き来したり留まったり。
    ただただのほほんとしていられない、土地と歴史と人為が作り上げてきた、権力による搾取構造が、これでもかというほど具体的に描かれている。

    それだけでなく、固太りした男のマチズモ(ロマンチックな意味において)と、包みつつ振り回される女の強かさを浮き彫りにした、人類普遍の筋でもあることに、いわゆる完璧な小説という称号が見えてくる。

    バルガス=リョサ。
    描く対象自体は徹頭徹尾リアルなのに、その過剰さ豊饒さや語り口が、索漠とした日本で読むとマジカルに感じられる。
    そして作品内部において、混沌の密林→都市化が進行する。
    これはまるで中上だ。いや中上がまるで南米だ。はは。あったりまえのことを今更。

  • ノーベル賞作家マリオ・バルガス=リョサが1966年に発表した代表作。邦訳は1981年に新潮社から刊行され、1995年に新潮文庫に入ったのち本書岩波文庫版が新たに出版となった。感想は下巻にて。

  • 日本で忙しい中読むとやっぱり入り込めない

  •  一昨年ノーベル文学賞を受賞した著者の代表作。5つの物語が、ペルーのいくつかの村やジャングルや川の上で並列に進み、しかもどの物語でも何の前触れもなく時間軸や空間軸がゆがむため、最初のうちは物語がどう進行しているのか、さっぱりわからない。それでも流れに任せて読み進めていくと、5つの物語がするするするっと一本の縄のごとく糾(あざな)われる。
     タイトルとなっている<緑の家>は娼家だが、この場所は、収束へと向かわないありとあらゆる<衝突>の象徴だ。「川も木も生き物もすべてその姿を変えていく」、その過程を闊達自在の筆致で描いて、おみごと!

  • 南米文学の巨匠、バルガス・リョサの初期の長編。

    この小説の楽しみは、なんといってもその構成の巧みさでしょう。場所と時を異にする複数の話が同時進行し、徐々に関係性の糸が紡がれていき、ついにはさまざまなひと、場所、時が一つの巨大な織物のようになる。

    ペルーのアマゾンの密林地帯、その中の川沿いの街サンタ・マリーア・デ・ニエバと、海岸近くの砂漠の街ピウラを主な舞台として、濃密な人間劇が繰り広げられる。

    ピウラの娼館、最初の〈緑の家〉を作ったハープ弾きドン・アンセルモ。最初の〈緑の家〉は、ドン・アンセルモの子を身ごもった盲目の孤児、少女アントニアが出産時に亡くなったことをきっかけに、ガルシーア神父の焼き討ちに遭うも、遺児 ラ・チュンガにより〈緑の家〉が再興される。そして、ハープ弾きドン・アンセルモの楽団誕生の経緯。

    アマゾンの密林地帯の街、サンタ・マリーア・デ・ニエバの修道院で育てられたインディオの娘ボニファシア。修道院で生活していたインディオの娘たちを脱走させた罪で、修道院から追放され…。

    インディオたちから安く買い取ったゴムの密輸で荒稼ぎしている商人レアテギ。サンタ・マリーア・デ・ニエバの治安警備隊員たち。彼らと、アマゾンの密林のインディオの男フムをめぐる物語。

    アマゾンの密林の島で、盗賊としてインディオたちと生活している日系人フシーアとその妻ラリータ、そして船頭ニエベスをめぐる物語。

    ピウラの貧民街マンガチュリーアの番長たちと、〈緑の家〉をめぐる物語。

    登場人物の多さと (読むときにはメモを作ることをおすすめします 笑)、場面転換が独特な文体にさえ慣れてしまえば、南米ペルーの街とアマゾンの密林の濃密な空気の不思議な魅力にとりつかれること請け合いです。

    最後に僕の好きな場面の引用をひとつ。
    〈緑の家〉と呼ばれるのは、建物が緑色に塗られているから。そして、〈緑の家〉を作った密林出身のドン・アンセルモのハープも緑色。その理由が語られる場面。

    「密林はたしかに美しい。むこうのことはすっかり忘れてしまったが、あの色だけはいまでもはっきりと覚えているよ、ハープを緑色に塗ってあるのは、そのせいなんだよ。」

  • 精緻に組み合わさった複数の物語が説明なく同時進行するため、ノートを取らずには全体像を把握するのも大変だが、読後感は素晴らしい。個々の物語は地に足がついているのに、砂漠に浮かび上がる緑の家のイメージは神話的である。

全51件中 1 - 10件を表示

M.バルガス=リョサの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
M.バルガス=リ...
高野 和明
ガブリエル・ガル...
ジェイムズ・P・...
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印

緑の家(上) (岩波文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする